1-4 だんらん
木曜日の放課後、報道部新聞課のメンバー六人は、二週間後に出す校内新聞の編集方針を決めるために放送室の隣の準備室に集まっていた。メンバーは各学年男女二名ずつだ。男性ばかり女性ばかりだと記事の内容が偏るため、意図と手に気に男女半々にしているらしい。
近藤信也と同じ二年生なのが栗山美咲だ。
なんやかんや言って、一緒に居る時間が長いので、高校で二番目に仲の良い女子なのだが、幼馴染の姫川歩とは対照的だ。姫川歩が体育会系のスポーツ少女だとしたら、栗山美咲は典型的な文系メガネ少女。成績は優秀で、静かに本を読んでいるのが似合うタイプだ。運動に関しては、良く言えばグラマーな体系は明らかに運動向きではなく、到底得意とは思えなかった。
編集会議で、まず初めにやることは火曜日に発行した校内新聞の評判を調べ、時間の構成に生かすことだ。
「行けるわ。久々の大物のネタよ」
三年生の報道部新聞課課長の嶋幸子は、仁王立ちしながら、部室のホワイトボードの前で吼えていた。
近藤の記事は、一部の人には不謹慎と評判が悪く抗議を受けたが、その一方で一部の人たちから熱烈な支持を受けた。
「やっぱり、なんやかんや言っても、本物が一番なのよね」
「課長さり気なく過去の捏造を認めてますよ」と三年の佐々木先輩。
「捏造ではないわよ。演出よ。演出」と嶋は開き直った。
課長の嶋は、「面白さ第一」「楽しくなければ新聞ではない」をモットーに新聞を作成していた。
「まぁ、過剰な演出や不適切な演出はあったかもしれないけど。捏造はしていないわ」
どこかのマスメディアのような弁解をした。
「二週間後には、続編を出したいんだけど。近藤!出来そう?」
「やれるだけやってみます。彼が生まれつきの吸血鬼ではないとしたら、彼を吸血鬼にした人間が彼の周囲に居るはずです。まずは、その辺りから調べていきたいと思います」
「少女のことについては調べないのか?」
「吸血鬼について追っていけば、何らかの情報が得られると思います」
「判った。それで行こう」
「課長の了承を得たので、引き続き協力をお願いしますね。栗山さん」
近藤は前に座っている栗山にお願いした。
「えっ。わっ、私は何をすればいいんですか」
突然、話を振られて、栗山は動揺した。
「この間、紹介してくれたお友達にもう一度話を聞きたいのですが」
「わっ、判ったわ。あんまり変なこと言わないでよ。私まで変だと思われるから」
「その辺は、上手くやりますよ。任せてください」と近藤は胸を張ってい言うが、この点に関して言った近藤も含めて誰も信じていない。努力目標として念を入れたレベルだ。
「期待しているわよ、近藤」
「あの~先輩。本気で吸血鬼が居ると信じているんですか」
手を挙げて、新入生の清水碧が、近藤に尋ねた。
オカルト好き=本当にオカルトを信じているとは限らない。多くの人にとって、オカルトは騒ぐネタ、話のネタであって、ネタとして好きなのだ。新入生の清水碧は、オカルト記事はネタであって、大真面目に近藤が信じているとは思っていなかったのだ。
「信じているよ。居ないと思っていたら調べないだろ」
「そうですが・・・」
大真面目に答える近藤に対して、清水碧はちょっと引いている感じだった。
社会常識的に考えれば、清水碧と近藤、どちらが真面な思考かと言えば、清水碧だろう。
「そんなに、深く考えなくていいから。気楽に行こう、気楽に」
吸血鬼が居ると騒いでいる人間は、まともな人間ではない。気がふれた人間、電波人間だと自分が思われて当然だと近藤は思った
「私も居ると思います。いや、居ると信じたいです。頑張ってください先輩」と意外なことに清水碧は応援した。
対して、近藤は、『この子大丈夫かな』と思った。
◇ ◇ ◇
「生姜は、野菜室の奥。ドレッシングは、ドアの方ね」
台所に不慣れな母に対して、清水葵がいろいろと教える。
直接手伝えば、楽なのだが、何を作るかは、内緒と言って、いつも台所の中に入らせてくれない。
今日は、日ごろ働いている母親が料理当番の日。
私が家に居て、出来るのだから、私に任せればいいのにと思うんだけど、母としては母らしいことをしたいらしい。
清水の家族は両親と妹四人暮らし。妹の碧は、都立小金井南高校の一年生。報道部に所属している。
父、清水幸太郎は、弁護士をやっている。弁護士をやっていると、収入がたっぷりありそうな気がするが、父は全然、金とは縁遠い人間だ。お金にならない国選弁護人を数多くやっているし、何より人が良い。騙されても人を信じる。
人を助けるために、弁護士になると言って、今も初心を貫いている。
ある意味、とんでもない頑固者か、根性がある人ともいえる。手弁当で弁護をし、お金のない人からお金をもらわないのだから、当然、お金には縁遠い。
一方、母は、医者をやっていて、バリバリに稼いでいる。
そのため、総合的には、清水家はそれなりに裕福な家庭ということになっている。
明るい仲の良い絵に書いたような幸せの家族だった。
実のところ父も母も本当の血の繋がった親ではない。幼い頃、両親を失った私たちを引き取って育ててくれたのだ。
少し変わった家庭環境であるが自分以外は普通の人間による普通の家族だった。
清水茜だけが異端者だった。父も母も妹も、霊能力がない普通の人間。
当然、清水茜が魔法使いであることは家族には秘密であった。
父親はいつも仕事で遅いので、夕食は母と妹家族三人で先に済ませていた。
「さぁ、できたよわ」と母親が持ってきたのは、白い湯気を上げる熱々の鍋焼きうどん。
「学会で香川に行ってた同僚の先生がお土産に買ってきてくれたのよね」
お母様、今、4月なんですけど...まぁ、夏じゃないからまだましか。
つくづく、母はすごいと思う。
「ねぇ、お姉ちゃん知ってる。○×高校の図書館で起きた怪事件って」
汗だくになりながら、夕食を食べていると妹の碧が嬉しそうに話しかけてきた。
「詳しくは知らないけど。噂は聞いたことがある」
「あれって、本当に吸血鬼がやったのかな」
貧血に首元の痣。吸血鬼に結び付けられていても何ら不思議ではない。
「吸血鬼なんているわけないじゃない」
「もう、茜はリアリストね。幸太郎さんに似たのかしら。女子高生なんだから、もう少し夢を持たなくちゃ」
父は弁護士をやっているためか、幻覚で完全なリアリスト。母は対照的にかなり天然ボケが入ったロマンチストだった。そして、姉の茜は父似てリアリスト、妹の碧は母親に居てロマンチストだった。
学校の報道部の放送課に所属していて、将来はアナウンサーになるなんて夢物語を日頃から言っていた。
「誰が、吸血鬼がやったなんて噂を流しているの」
「うちの学校の学校新聞に書いてあった。なんでも死んだ生徒が吸血鬼で、直後に姿を消した少女が退魔師なんじゃないかって」
「その情報も新聞に書いてあったの」
「さすがに死んだ生徒が吸血鬼だなんて記事は書けないよ。放送部の先輩の推理」
「その先輩って、何か証拠があってそんなこと言っているの?」
清水茜は、自分が何か証拠残したのではないかと不安になった。
「特に証拠はないけど。先輩の推理って、意外と当たるらしいいんですよ。噂では。小金井南高校のコ○ン君って、とこかな」
「ふ~ん。そんな面白そうな先輩がいるんだ。今度連れてきてよ」
なぜか、楽しそうに母が言った。
「イケメンじゃないよ」
「そうなの。つまらないわね」
「所詮は証拠がない妄想。推理じゃなくて、ファンタジー小説の世界ね」
「もう。お姉ちゃんは相変わらずロマンがないな」
ロマンがないか。女の子は吸血鬼が好きだ。映画や漫画、小説の影響で、どうやら吸血鬼=美形というイメージを持っているらしい。確かに美形が多く、容姿に魅力的な者が多いのは否定しないけど。
「でも、判らないよ。記事の評判が良いから、調べて続編書くんだって。とりあえず、男子生徒の身辺調査から始めるるって言っていたよ」
「何か見つかると良いわね」
「見つかるわけないじゃない」
清水茜は、言っていることとは全くの逆の一抹の不安があった。
調査方針が自分と同じであるため、ひょっとしたら、吸血鬼に行きついてしまうのではないだろうか。最悪の場合、自分より先に。その場合、その少年の命はないかもしれないと清水は思った。