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1-3 真夜中の委員会

清水葵は、終電間際の深夜十二時頃、新宿にあるとある雑居ビルに呼び出された。

 吸血鬼に重傷を負わせたことに対して、委員会の審問を受けるためだ。

 長い長いくだらない議論の後、無罪ということで意見が一致し、清水は審問会から解放された。


「良かったわね。無罪になって」

 委員会の審問を終え、部屋を出てきた清水葵に対して、二十代後半の女性が優しく声をかけた。

 委員会の一人であり日本政府代表の狩谷栄治の秘書をやっている森野美和子だ。日本政府は公式には、怪異や人外の存在を認めておらず公式組織は存在しないが、各省を横断する「日光会」と呼ばれる非公式組織は存在していた。

「美和子さん、ありがとう。でも、当然でしょ。正当防衛なんだから。こんなことで委員会に呼ばれることの方が異常なのよ」

「委員会も、はぐれ吸血鬼の件には神経質になっているからね」

 人外の世界には国家は存在しない。法律もなければ、法律を執行する機関もない。しかし、ルールが全くないわけではなく、慣習法や委員会が作成したガイドラインが存在した。

 委員会は、権威や力を持った人外や魔法使い、退魔師で構成され、法的根拠や強制力こそないが、その権威は絶大なものがあった。

 ガイドラインを破っても、特に委員会による御咎めはないが、同時に権威による保護がなくなることを意味する。

 この五百年の間に、人間たちは十倍以上に増えたが、人外の勢力は増えるどころか減少していた。趨勢は圧倒的に人間サイドに傾いていた。

 ガイドライン制定以前は、人を襲うのは自由だけど、始末人スイパーや退魔師に問答無用で狩られる危険性も高く、有った方がありがたいというのが、人外たちの共通した認識だった。そのため、その秩序を乱すことは人外の側としてもぜひとも避けたかった。

 人を襲うはぐれ吸血鬼は、秩序を破壊するまではいかないが、秩序に混乱をもたらす可能性があった。


「今、どうなっているの。あそこ以外にも起きているみたいじゃない。」

「私が知っているだけでも、五件はあるわね」

「他にも、まだまだ、はぐれが居るんじゃないの」

「恐らくね。黒田さんも動いているみたいだけど、なかなか結果は出てないみたいね」

 黒田とは吸血鬼の代表者だ。一説では四百年以上生きているらしい東京で最高齢の吸血鬼だ。

 黒田は数少ない純血であり、最大派閥の黒田派を率いている。派閥と言っても、政党のような組織ではなく、黒田を頂点とした完全なピラミッド組織だ。その組織体制は893やマフィアに近い。


「吸血鬼たちはバラバラだからな。黒田さんも大変でしょうに」

 お世辞にも一枚岩と言えない妖怪たちですら、最大派閥の高野山の大天狗で過半数は占めている。対して、東日本の吸血鬼は大きく分けて四天王と呼ばれる四つの派閥に分かれていた。黒田派は、東日本における最大派閥だが、最大派閥の黒田派ですら、東日本に居る全吸血鬼の三割程度しか抑えていない。残りの天王はそれぞれ2割程。派閥に属していないのが一割と言ったところだ。現状においては、黒田派が頭一つ抜き出ているが、それぞれの派閥が牽制し合っていると言って良い。

 はぐれ吸血鬼の件は、どこかの派閥が勢力拡大を狙って数を増やしているためだとの噂もあった。


「数が判らないはぐれを地道に叩くよりも、親を見つけ出してぎゃふんと言わせた方が早いわね」

 吸血鬼の親と子の結びつきは、人間よりも強い。特になりたての場合は、自立しておらず完全な影響下にある。早い話が、なりたての吸血鬼は吸血鬼としての属性が完全に定着しておらず、親を退治すれば人間に戻るのだ。

 そのため、はぐれが何体居ようとも、親を退治してしまえば、はぐれ吸血鬼は力を失い居なくなるはずだ。

「期待しているけど、親の目途はあるの」

「多少の情報はあるけど、まだほど遠いかな。地道に調べるしかないわね」

「最初の事件が発生してから三週間は経っているから、あまり時間はないかもしれないわね」

 吸血鬼の力が定着するまで、個人差が大きいけど、だいたい一か月半からから二か月。

 定着してしまえば親を退治しても無駄なので、残された時間は、二週間もないかもしれない。

「あぁ~あ。最初は、魔法が出来れば何でもすぐ解決すると思ったのにな」

「そんなこと言ったら贅沢よ。霊を見ることしかできない私から見れば、あなたたち魔法使いの力は十分・・・神秘的よ。特にあなたはカードの契約者でもあるんだから」


 カードの契約者。魔力を持った特殊なタロットカードと契約し、呪文を唱えることなく魔法を使えるの者のことだ。通常、魔法使いになるためには修業が必要だが、カードの契約者は、修業なしに強力な魔法を使うことが出る。

 契約者の魂とカードが一体化しているため、修業なし、呪文なしに強力な魔法を使うことができるのだ。

 清水はカード契約者であり、契約したカード以外にも複数のカードを所有していた。


「美和子もなりたい? もし良かったら、カード貸すわよ」

「遠慮しておくわ。私幸せになりたいから」

「あぁ~、何、その言い方。まるで私が今の不幸みたいじゃない。今の私は十分幸せなのよ」

 カードの契約者は、修業なしに強力な魔法を使うことが出る。ただし、修業がない代わりに条件がある。


 魂に傷があること。


 カードと契約者の魂は、魂の傷を使って一体化する。魂に傷があるということは、自分の大切なものを失う経験や死ぬほどの恐怖などによりトラウマがあるということだ。

 幸せな人生を送っている人間は、カードの契約者にはなれない。そして、トラウマを抱えて生きるため、魔法を使えたとしても幸せになれるとは限らない。

 そのため、その力に魅力を感じ求める者が多い一方で、それ以上に不吉なカードとして嫌悪する者も多い。結果として、カードの契約者になるのは、よっぽど力を追い求めるものか、既にトラウマを抱えた人物のみとなる。

 カード契約者は、その強大な力により、畏怖される一方で、憐みや好奇の目で見られる存在なのだ。



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