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俺は魔王じゃねえ! ~転生董卓の悪名返上記~  作者: 青雲あゆむ


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10.民の負担を減らそう

光熹元年(189年)11月 司隷 河南尹 洛陽


 ドーブルィ・ジェーニ、董卓だ。(ロシア風)


 州牧による綱紀粛正が動き始めたので、今度は別の提案を袁隗たちに持っていった。


「今度は兼併けんぺい対策か。しかも納税方法にまで言及しておる」

「これはちと、農民に甘過ぎはしまいか」

「いや、しかし徴税が行き詰まっておるのも、また事実」

「うむ、そうであるな」


 今回の提案は、兼併対策と徴税状況の改善についてだ。

 そもそも漢王朝とは、自前の土地で農業をする小農民を土台にして成り立つ帝国だった。

 彼らが税を納め、兵役や労役をこなすことで、世の中が回っていたのだ。


 しかしその生活は決して楽ではなく、飢饉や戦乱によって困窮し、土地を失うことも多かった。

 土地は豪族(大土地支配者)に奪われ、農民も小作農や奴隷として支配下に入るか、流民として逃散する。

 これが”兼併けんぺい”と呼ばれる現象で、元々豊かだった豪族が、さらに肥大化する傾向にあった。


 そして戸籍を外れた者からは税が取れないので、残った小農民にさらなる負担が掛かったりする。

 その結果、なんとかやっていた小農民も、貧農に落ちて豪族の支配下に入る、なんて悪循環が発生してしまう。

 おかげで後漢末期には小農民が激減して、富裕な豪族と、極貧の小作農や奴隷への2極化が進んでいた。

 こうなると豪族は正直に納税しないし、貧民からも税が取れず、徴税能力も徴兵能力もガタ落ちだ。


「はい、豪族が兼併を進めてきた結果、小農民が私有民として抱え込まれ、徴税や徴兵に支障が出ています。これらの戸籍を整理することで、国家の土台を建て直します」

「う~む、しかしな。豪族の抵抗は大きいであろう?」

「はい、当然、それは予想されますので、完璧は期しません。過去の脱税は問わず、また当面は税を減免することで、まず私有民の実態を把握します」

「いや、その程度で豪族が従うとは思えんがな」

「その場合は、残念ながら力を示すしかありませんな。ただし私も野放図な武力行使は好みません。最低限に抑えるべきでしょう」

「そう上手くいくかのう?」


 袁隗は否定的であったが、ここで馬日磾ばじつていらが口添えしてくれる。


「いずれにしろ戸籍の再構築は必要です。やってみる価値はあると思いますが?」

「そうですな。まずは朝議に掛けてみてはいかがでしょう」

「貴殿らがそう言うのであれば、考えてみるか。しかしこの民屯みんとんとはなんだ?」


 今度は民屯について質問があったので、これも説明する。


「はい。これは国が耕作地を準備し、土地を持たない流民や私有民に貸し与える制度です。代わりに田租を多めに取りますが、農民はそこに住み続けることができます。またそのための支援として、農具や牛馬、種籾の貸与も実施します。軍務を伴わない屯田政策ですので、民屯としています」


 これは史実で曹操が実施している政策で、彼の躍進を支えるのに役立った。


「ふうむ、ずいぶんと農民に都合がよいな。それでは民がつけ上がるかもしれんぞ」

「いえ、これぐらいしないと、逃散した農民は戻ってきません。まずは慈悲を与え、国家の土台を立て直すべきかと」

「う~む、どう思う?」


 あまり納得がいかなそうな袁隗が、3公に意見を求める。


「昨今の反乱などで放棄された農地や、戸籍を外れた民は多いと聞きます。これまたやる価値はあるかと」

「ですな。これで納税者が増えれば、国庫も潤いましょう」

「私も賛成です」

「ふむ」


 どれも肯定的な意見だったので、袁隗は少し考えてから決断する。


「よかろう。細部を詰める必要はあるが、朝廷にとって利益はありそうだ。朝議に掛けてみよう」

「ありがとうございます。不明な点があれば、いつでもお問い合わせください」

「うむ、ご苦労であった」


 こうして俺たちは宮中を辞した。

 やがて賈詡と2人きりになると、互いにほくそ笑む。


「ククク、上手くいったな」

「はい、根回しをした甲斐がありました」

「おう、ご苦労だったな」


 今回の提言に備えて、賈詡には根回しを指示していた。

 丁宮ていきゅう劉弘りゅうこう、馬日磾に接近し、兼併や徴税の問題について議論していたのだ。

 もちろん賈詡だけで相手してくれるはずもないので、荀攸や蔡邕の名前を使っている。

 それである程度の感触が得られたので、今回の提案に至ったわけだ。


「しかしまだまだ、やる事はいくらでもあるんだ。今後も頼むぜ」

「はい、がんばりましょう」


 俺たちは期待に胸を膨らませていた。




 しかしその数日後、悲報がもたらされる。


「提案が蹴られただと?」

「はい、朝議で多くの反対意見が出たようです」

「ふん……やっぱりそうなるか……」


 ある程度、予測できてはいたことだが、朝議で提案が蹴られてしまった。

 それも当然で、中央に務める官吏たちも、地方の豪族出身者が多いからだ。

 俺たちの改革案が豪族の権益を損なうのは、誰が見ても明らかだ。

 そこでなんだかんだケチをつけて、廃案にされてしまったらしい。


 あわよくば、3公への根回しだけで行けないかと期待したが、やはり難しかったか。


「こうなると、陛下に動いてもらうしかないな」

「やはり、そうなりますか。しかしそれはそれで、反発が大きそうですが」

「こうでもしなけりゃ、政策が進まないからな。根回しを頼むぞ」

「はいはい、承りました」


 ちょっと諦め顔の賈詡が、そう言って部屋を出て行く。

 さて、うまくいけばいいけどな。



 それから数日後、陛下の勉強会という体裁で、袁隗と3公を招いた。


「それでは始めようではないか。荀攸、頼む」

「は、それでは私が進行を務めさせていただきます。まず事の経緯を簡単に説明いたします」


 劉弁に促され、荀攸が進行する。

 今回は俺たちが提案した政策を例として、陛下の政治への理解を深めるという名目だ。

 決してこの場で政策を決めようとかそういうのではないが、袁隗らの顔色は悪い。


「――という経緯で、献策は撤回されました」

「……ふうむ、朕が聞く限り、良さそうな政策でないか。なぜ実施できんのだ?」

「……は、高祖(劉邦)陛下の定められた法を、むやみに変えるべきでないと言う意見が多く……」


 袁隗が弁明するが、その切れ味は悪い。

 それを聞きとがめた劉弁が、さらに問い詰める。


「たしかに高祖の偉業には敬意を払うべきだが、時代の変化というものもある。適宜、変えていかねば、未来は暗いのでないか?」

「は、それは真にもっともなお話でございます。ですが……」

「ならばなぜ、もっと前向きに考えられんのだ?」

「いえ、決してそういうわけでは……」


 袁隗が返答に窮していると、馬日磾が助け舟を出す。


「袁隗どの。陛下がここまでおっしゃっているのですから、再度、議論してみてはいかがかな?」

「いや、しかし本件はすでに、皇太后陛下にも決裁を頂いておる」

「ああ、それについては、朕が母上に話してある。その方らが賛成するのであれば、進めてみよとのことだ」

「ま、真でございますか?! あ、いえ、失礼いたしました。それであれば、再度、朝議に掛けてみましょう」

「うむ、しっかりと頼むぞ。これも国のためだ」

「はは~」


 かくして兼併対策は、再度、朝議に掛けられることになった。

 天子にここまで言われれば、袁隗たちも成立させるしかあるまい。

 しかしこれはまだまだ序の口だ。

 まだしばらく、田舎には帰れそうにねえなあ。

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