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婚約相手は最悪でも、その執事はけっこういい奴でした

作者: 森田季節
掲載日:2026/02/09

「ヘンリエッタ、お前との婚約を解消する」



 やっぱり、そうなったか。

 やけに厳重に貸し切られたカフェに呼び出されたので、だいたい予想はついていた。いざ、婚約破棄を告げられると悲しいというより、むなしいという気持ちのほうが強い。



 今、この瞬間私の婚約者ではなくなった伯爵家の次男ジョージ・ダグラスはせいせいしたという顔をしていた。他人のプライドを傷つけて楽しんでいる顔で金色の髪をぼりぼりかいている。

 3年前にお互いの家の都合で婚約者となった時から、私はそのサディスティックな表情が苦手だった。



「俺の家は王弟派につくことに決めた。お前たちの家はせいぜい宰相派としてこれからも足搔いてくれ。まあ決定的なミスでもなければお前の親父の伯爵も首まで斬られないだろうよ」



 元婚約者のジョージが楽しそうに笑う。

 そのすぐ背後では長身黒髪の専属執事が目を閉じて控えている。まるで空気の異変があったらすぐに察知してサーベルを抜くのを待っているかのようだ。

 所作だけなら、こちらのほうがよっぽど伯爵家の次男らしい。



 私もジョージの家もともに王都近郊の土地を所領に持つ伯爵家の一つだ。そして、数年前から王都の政治は水面下で宰相派と王弟派の間で駆け引きが行われている。王が暗愚で定見もなく、判断をころころと変えるせいだ。



 私の父親ウォルドーフ・オズボーンは、3年前、三女の私を同じ派閥の伯爵家の次男ジョージ・ダグラスの婚約者とした。当時私は14歳、ジョージは15歳だった。

 三女と次男というところがミソだ。

 自分たちの派閥の関係を強化はしたいが、政治は生き物、今後の展開もころころ変わる危険がある。その時に本家の伯爵家を相続する可能性が高い人間をコマとして使うのは取り返しがつきづらい。それに政略結婚としても本気度が高く見えるほうが、敵対派閥が勝った時に言い逃れもしづらい。


 だから三女の私ヘンリエッタと次男のジョージなのだ。仲良く提携しようというアピールだけはできる。都合が悪くなっても、「三女と次男なら余ったもの同士の結婚なだけで、政略結婚じゃないですよ」と言い張れる。

 で、ジョージのほうは自分が重要度がそこまで高くないコマにされたことが気に食わなかったようで、たびたび婚約相手の私に子供じみた嫌がらせをしてきた。婚約者を攻撃しても自分の立場も家格も上昇するわけがないのに。



 私の後ろではこちらのお付きのメイドが一人、うろたえている。

 これもジョージのサディスティックなだけの策略だ。事前に「ちょっとしたお茶会だからお付きはメイド一人で問題ない」と言われていた。来てみれば、カフェが店舗まるまる貸し切られていた。ジョージのほうは執事だけでなく自分の金魚のフンみたいな奴らまで連れていて、十人以上の大所帯だ。



「お話はうかがいました。では、私は帰らせていただきます」



 こんなところで泣いても元婚約者を楽しませるだけだ。ここは淡々と去るべきだと腰を浮かしかけた。



「まあ、待て。茶菓子も食べずに去ってはお前の面目も立たないだろう。少しは話をしようじゃないか」



 私は舌打ちをするのを必死にこらえた。これもすべてジョージの他人を痛めつけたいという気持ちから来ているものだ。私を侮辱したくてたまらないのだ。



「去年のダンスパーティーのこと、覚えているか? 服装がおかしいとさんざん恥をかかせてくれたな」



 去年の春先のダンスパーティーのことか。

 式典にも格があるが、ジョージはその式典の主催者が王族だということを聞いていなかったらしい。やや無礼に当たるかもしれない服で一人入場しそうだったから、入り口の前で待っていた私が指摘したのだ。



「あっ、あれのことですか。それは思い違いです。会場の前でお会いしてすぐにお伝えしたのは、会場内でほかの参加者の方の前で恥をかかないようにという配慮ですよ。もし恥をかかせたいなら、私は何も教えずにあなたをパーティーに参加させたはずです」


「黙れ! 俺の一つ下なのに、なんでお前はそんな小姑のような発想で生きている? 前々からお前といると息苦しいと思っていたんだ!」



 ジョージが声を荒げた。どこまでも子供な人間だ。自分に都合の悪いことを言われると、否定することしかできない。

 ダンスパーティーの時も自分のミスを気づかされたということが不快だから、とりあえず指摘した私を恨んだんだろう。

 かといって、間違いを指摘しなかったら、「どうして指摘せずに恥をかかせた!」とキレるに決まっている。つまり、ジョージがミスをしてきた時点で私が恨まれるのは確実だったのだ。



「婚約破棄の件は後で大々的に喧伝してやるからな。せいぜい羞恥で顔を赤らめていろ!」



 やはり、私を辱めるのが目的か。

 それでも私はどうにか平生を保とうとした。ここで悔しそうな顔をしても意味がない。この男と結婚しても幸せになれたとは思えないし、そういう意味ではプラスがマイナスになったわけではないと考えよう。



「どうした? ずっとうつむいて? 涙を見られたくないからか?」



 涙目になどなっていない。抗議するように私はうつむきがちだった顔を上げた。



 その時、妙なものが私の視界に入った。



 ジョージの後ろの長身黒髪の執事が小さく私に頭を下げている。



 たんにそう見えただけか? いや、顔を上げた執事はやけに辛そうな顔をしている。

 主人がダメで申し訳ないとでも言いたいんだろうか。でも、それなら主人を止めてくれと思うけど。



 しかし、紫がかった黒髪とその何かをこらえたような表情はやけに絵にはなった。場違いにも私はそんなことを思った。

 普段は影のように自分を表に出さない執事だからか、妙に気になってしまったのか。名前は……ええとウィリアム・フォーウッドと言ったか。そんな姓の田舎貴族がいた気はするけど。元婚約者の一つ上だったはずだから、私の二つ上の19歳か。



「俺の親はもうお前たちの派閥とはたもとを分かつ。いくらでもお前の悪評を広めてやるさ」


「私に止める権利はありませんが、そんなことをすれば間接的にあなたの名前にも傷がつきますよ」


「問題ない。次の婚約者はもう決まっているからな。王弟派の別の貴族の娘だ。少なくともお前よりは従順な女だったぞ」



 すでに手は全部打たれていたということか。これに関しては私の父親ウォルドーフの詰めが甘いのかもしれない。

 でも、仕方ないか。これはもう過ぎたことだ。おそらく破廉恥な女だという噂でも流されるのだろうが、今から自分に何ができるわけでもない。

 ろくでもない人間の婚約者に選ばれてしまった時点で取れる手段などないわけだ。まさか「人格に問題があるので婚約破棄してください」と私のほうから申し出るわけにもいかなかったし、そんなことをしようものなら徹底して私に復讐に来るだろう。



 これから、どうやって生きて行こうかな……。

 本当に田舎の修道院にでもしばらく籠もっていようか。王都近郊で人目を避けて暮らすよりはマシだろう。王弟派が完全に政治の実権を握れば、ジョージのような男は宰相派の私の家を徹底して弾圧するだろうし。



 私が将来の身の振り方を考えている間も、ジョージは私の問題点を並べ立てていた。大半がジョージの被害妄想から来ているものだったが、私が意見を言うと、さらにキレてくるので放っておく。



 金魚のフンみたいな連中も笑っている。いい性格をしている。

 ただ、その中で執事だけがだんだんと深刻な顔になっていた。一人だけ、哲学者が紛れこんでしまったような沈痛な表情だ。



「そもそもだな、あのダンスパーティーの時にお前の心根は知れていたのだから、あそこで婚約破棄していればよかったのだ――」


「もう、おやめください」



 元婚約者の言葉を後ろからの言葉が遮った。

 最初、誰の言葉だろうと思った。元婚約者に忠告できる人間なんて向こうの家にいただろうか?



 執事が元婚約者に頭を下げていた。



「おやめください。あのダンスパーティーの件は絶対にヘンリエッタ様の責任ではございません」


「なっ! ウィリアム、では、お前はあれは俺のミスだったと言いたいのか!」



 正論を言えばそうだろう。本人のチェックが甘かったのだ。自分の出席する式典の格式も確認できてないのは礼節をいいかげんにしているのと同義だ。

 だが、それを言えばあの執事は殴られてもおかしくない。

 私はそこまでしてかばわれたくはない。

 それなら、私が我慢して恨まれればいいことだ。



「いえ、あれはこのわたくしの失態でございます」



 そう執事は断言した。



「あのダンスパーティーは表面上は商人が開いたもの、しかし実際の主催者は王族だということは出席者には知られていました。それを調べきれなかったわたくしの咎です。その結果、略儀の服装を用意して、ジョージ様に恥をかかせるところでした。ヘンリエッタ様はそれを救ってくださった恩人でございます」



 ああ、そうか。

 私にも先ほどの執事の辛そうな顔の意味がわかった。

 執事ウィリアムにとって、ダンスパーティーの件は自分のミスの記憶ともつながっていたのだ。

 自分のミスのはずなのに、別の人間が責められているので良心が耐えられなかった――これが黙っていられなかった真相なのだろう。



 いや、執事、それはお人よしすぎる。

 黙っていればあなたは傷つかずに済んだだろうに。



「だとしても、今はそんな話を出す必要などない。不要な横槍を入れて、俺をバカにしたいのか?」


「違います。わたくしのミスがなかったことになり、そのせいでヘンリエッタ様が恨まれるのはわたくしの正義が許せません。誰かに罪を着せて平然としている人間がどうやって誠心誠意、執事として仕えることができましょう?」


「お前な! 執事は主人が白を黒と言えば黒だと言い、黒を白だと言えば白だとうなずけばよいのだ。口ごたえして俺の顔に泥を塗るな!」


「ジョージ様の決定を妨げたわけではございません。婚約破棄については党派が変わればやむをえないことと存じております。ですが、それ以上にヘンリエッタ様の名誉が傷つけられる必要はありません」


「お前な! 自分も田舎貴族の末端だからと何か勘違いしてないか? 修行として王都の貴族のところに奉公に来たつもりかもしれんが、こっちからすればただの雇い人だ。それとも財産管理ができるほどの学があるから思いあがっているのか? お前は俺の家ではただの召し使いだ。ただの俺の手下だ」


「存じ上げております」



 一言、一言絞り出すようにその執事は言葉を口にしていた。

 私は呆然と執事と元婚約者の「口論」を目にしていた。

 そして、思った。



 このウィリアムという執事は真面目過ぎる。

 こんな性格でジョージの専属執事などしていれば、毎日胃に穴が空きそうだ。あまりに性格が合わないだろう。

 それにしてもウィリアムは苦労しそうな性格だ。私も聞いていて苦しくなってきた。こんなことなら私がバカにされ続けたほうがずっと楽だった。



「ウィリアム、とにかく、パーティーでお前が俺に恥をかかせたのは事実なわけだな?」


「はい。そこに間違いはございません」


「なら、これが罰だ」



 ジョージはグラスをつかむと、水をウィリアムの顔にかけた。

 だが、ウィリアムは目を閉じもしなかった。



「ふん! 腐っても貴族階級の執事は無駄にプライドが高くて使いづらいな」



 もう黙っていられなかった。




「これはやりすぎです!」




 私は思わず立ち上がった。

 ジョージが情けなく及び腰になったが、別にあんたなんかを殴る気はない。

 ハンカチを出して、ウィリアムの顔を拭いた。



「どんな理由があろうと、彼がここまでの仕打ちをされる謂われはないはずです!」


「申し訳ございません……。そもそも、パーティーの時に私が最初から服装に気づいていればヘンリエッタ様が恨まれることもなかったのに……」



 この執事は水をかけられた怒りはなく、本当に私にすまないと思っているらしい。近づいても憤りの感情が全然見えてこない。



「過ぎたことです。それよりも、これからできることを考えましょ」



 私の将来も暗雲が立ち込めているが、この執事もここまで主人に刃向かったら面倒なことになるだろう。ある意味、似た者同士だ。



「ああ、いい案を思いついたぞ!」



 わざとらしく元婚約者が言った。どうせ、ろくでもないことだろうと思った。

 しかし、後から考えると、それはもしかすると、本当に「いい案」だったかもしれない。止まっている時計も一日に二回は正しい時間を示す。



「お前ら、もう婚約したらどうだ? 執事が主人の婚約者に横恋慕したから暇を出したというのであれば、お前を罷免する筋書きにもちょうどいいしな。ヘンリエッタもそれぐらいの身分の男のほうがお似合いだろう」



 ああ、あくまでも婚約破棄の責任を執事に取らせてしまおうというわけか。いかにも元婚約者らしい考え方だ。自分が悪者にならないようにという発想なら無限にできるらしい。



「できるわけがありません……。わたくしは男爵家の傍流です。ヘンリエッタ様は伯爵家の令嬢。あまりにも身分が釣り合いません。もっと高貴な方と婚約されるべきで……」



 ウィリアムが首を横に振った。

 だが、そのウィリアムの表情を見て、私は気持ちを固めた。



「悪くない考えですね」



 私はウィリアムの手に自分の手を重ねた。

 彼の手は水をかけられたせいでまだ少しぬれて冷たかった。



「えっ! そんなご迷惑はおかけできません」


「迷惑ではありませんよ」



 私はウィリアムの目をしっかりと見つめて言った。



「手続きは踏まないといけませんが、私はこの数年間、婚約の前に相手と性格が合うかどうか見極めるべき大切さを学びました。その点は余計なくちばしを入れる女と婚約したあなたの元主人もよくわかっているでしょう?」


「まったくだ」



 ジョージが後ろから嘲笑した。



「その点、ウィリアムがどんな性格なのかはこの短時間でもよくわかりました。あなたは真面目過ぎて、黙っていたほうがいいことを黙ることができない。それで職まで失おうとしている」


「それは……そうかもしれませんね……」


「ええ。赤の他人の私の名誉を守ろうとしたぐらいなんですから、もし私が妻になったらもっと守ってくれるでしょう」



 私はウィリアムの手をしっかりとつかんだ。



「人生で選ぶとするなら、自分を絶対に裏切らず、守り抜いてくださる伴侶ではありませんか? 党利党略の果てに政略結婚も珍しくない時代だからこそ、私はそう思います。もちろん愛のある政略結婚もあるでしょうけれどね」



 元婚約者は腹が立つことがあったのか、テーブルを乱暴に叩いた。



「ふん! 勝手にしろ! 後悔しても遅いからな!」


「後悔も何も私は今日、婚約破棄を言い渡されたのですから、未来を信じて賭けに出るしかないんですよ。私はウィリアムとその賭けをしたいと思います」



 そう、どのみち、私は未来のために戦うしかないのだ。



「あの……ヘンリエッタ様、本当によいのですね? 冗談だったとおっしゃるなら今しかありませんよ」



 ウィリアムは真剣な顔で言った。もう、困惑しているようなところはなくて、剣士のような真剣な目になっていた。



「ええ。むしろ、あなたのほうが人生が激変しそうだけれど、それでいいの?」


「最低でもヘンリエッタ様のお父様にあいさつに行く覚悟だけは決めましたよ。そこで蹴りだされたらご容赦ください。剣技と弓はそれなりに習っているのですが、格闘技は覚えがないもので」



 私は笑ってしまった。



「ええ。内堀は私のほうで埋めておくわ。ところで勢いでウィリアムと呼んでしまっているけど、無礼と思ってない?」



 ウィリアムさんと呼んでおいたほうがよかったかなと少し心配になった。



「むしろ、わたくしがヘンリエッタ様の名前を気さくに呼べるようになるように努力しないといけませんね」











 翌日、早くもウィリアム・フォーウッドは私の父、ヘンリエッタ・オズボーンのところにあいさつに来た。



 伯爵家と男爵家の傍流――家格が違うことを理由に反対されたらどうしようもないと思ったが、父親もその点は問題にしなかった。婚約を破棄された以上、私のろくでもない噂を元婚約者側に流されるリスクも考慮していたんだろう。



 ウィリアムが辞去した後、父はこう評した。



「ウォーウッド家というと、ああ、わずか十人の兵士で城を守り抜いたという伝承を持つ家か。世代を経てもいかにも騎士といった顔つきをしていたな。お前を守ってくれるという点なら悪くはないだろう」


「じゃあ、婚約はよいということですね」


「ああ。だが、彼の所領である地方に少し身を隠していなさい。王都近辺はしばらくきな臭くなる。婚約を破棄してきたダグラス家は王弟派が優勢だと判断して、そちらに乗り換えたんだろうが、そんな簡単に推移するとは私は思ってない。あと、それから――」



 珍しく、本当に珍しく、父は私に謝罪した。



「バカな男の婚約者にさせてお前には数年を無駄にさせた。地方で気持ちも新たに新生活を始めてくれ」








 後日、私とウィリアムは正式に婚約し、彼の家の所領がある地方へ引っ越した。

 男爵家の傍流だからちょっとした名主といった程度の屋敷ではあったが、王都のごみごみした空気よりは私の体に合っていたらしく、たまに出る咳の症状もなくなった。



 それに、ウィリアムは本当に私を王家の姫のように扱ってくれた。

 こっちを舐め切った態度で接していた元婚約者と比べると、急に自分の身分が三段階ぐらい上昇したみたいだった。

 玉のように扱われていたせいか、自分でも王都にいた頃よりかわいらしくなっているというか、高貴な姫のような態度が自然に身についていると思う瞬間が増えていた。



 ただ、ウィリアムは真面目だからこそ、少しだけやりすぎだった。

 二人きりの時間の際に、よく「姫」と呼んでくるのだった。しかも、ふざけているのではなく、本人は本気なのだ。



「あの、姫というのはやめて……。恥ずかしいから……。普段はヘンリエッタと呼んでいるでしょう?」


「それはそうなんですが、まだ自分にとってはヘンリエッタは仕えるべき姫のような存在なので……。王都でものを学べと伯爵家で執事の仕事をさせられてきたので、どうしても仕える感覚が抜けきらないのです」


「もう……。執事でも騎士でもなくて夫なのだということを思い出して。それとも、突然婚約することになって、私を妻だと思えなかったりする?」



 ウィリアムは小さく首を横に振った。



「実は……執事をしていた時からヘンリエッタのことを意識してはいたのですよ。もっとも、それこそ横恋慕を人に見せるようなことはしていなかったと思いますが」


「それ、もっと早く言ってよ!」


「感情というのはあまり外に出すのはみっともないと教えられてきましたから」



 なかなか丁寧語が抜けきらない夫だが、そんなことで愛がないなどと思うほど私は愚かではない。大切にされている証拠だとちゃんとわかっている。







 私たちが地方の所領に引っ越してから一年後。

 王都のほうで大きな政変が起きて、王弟派は完全に失脚した。

 元婚約者のダグラス家は完全に王弟派に乗り換えていたせいで、王都近辺の所領を没収されて、所有している田舎の土地のほうに逃げるように去っていった。



 私の実家のオズボーン家は結果的に地位を引き上げられることになり、私とウィリアムも屋敷の手配はできるから王都に戻ってくることもできると実家から連絡を受けた。



「姫……ヘンリエッタ、どうしたい? 自分はどちらでも構わない」



 寝室で今後の身の振り方についてウィリアムに質問された。最近、ようやく丁寧語が抜けてきたらしい。



「そうね。中央で出世するあなたを見てみたくもあるけど、少しは怖くあるのよね。真面目過ぎて言ってはいけないことをまた言っちゃうかもしれなくて。舌禍のリスクは上がるわね」



 田舎暮らしも思ったより合っていたし、なんとしても王都に戻りたいという意識は薄い。



「それは……あるかもしれない。目の前で堂々と不正が行われていたら何か言ってしまうかも……」


「でも、ウィリアムと一緒にいたら、どこででも私を守ってくれるんでしょう?」


「婚約の時にヘンリエッタを守ると約束したからね」


 大真面目にウィリアムは言った。

 自分の周辺の話だけかもしれないが、長い人生真面目なほうが成功するんだと私は思った。


 一度、王都に戻って、合わないようならまた田舎に戻ってもいいかもしれないな。


◆終わり◆


お読みいただき、ありがとうございます! 一度、ジャンルが恋愛の短編を書いてみようと思って挑戦しました。


もし、「面白い!」と思ってくださいましたら、


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どうか、よろしくお願いいたします!

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作者様には初めて感想を書かせて頂きます。 真面目なウィリアムとヘンリエッタさんに幸あれ。
ハイクラスな男に乗り換えて上昇するのでなく自分に合った幸せを見つけていくのが良いですね。 あと元婚約者の人生踏みにじろうとするジョージ嫌な奴。情勢が分からない中で保険をかけてヘンリエッタと婚約してた…
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