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落ちこぼれ暗殺者は障害者を殺す

「くしゅん……風邪引いたのかしら?」


 施設の中で放し飼いにされているワンちゃん(三毛猫)を抱きながら目をこすり、くしゃみを連発するミヨ。どう考えても猫アレルギーなのだが言わない方がいいだろうと他の猫達に餌をやるのだが、組織の人達も猫好きは多いのだろう、知らないところで餌を与えられているらしく、ここにお迎えした時よりも目に見えて太って来ている。


『続いてのニュースは――』


 ちなみに野良猫が一夜にして数十匹消えたという事件は、猫好きの人間からすれば重大なニュースなのかもしれないが、全国ネットで大々的に放送するようなものでは無いらしく特にニュースにはなっていない。

 下手をすれば地元の人達にだって気づかれていないかもしれない。

 野良猫が百匹から五十匹になったところで、道を歩けば可愛い猫に出会える事に変わりはないのだ。

 所詮は人様では無く猫。猫は好きだが飼うのは面倒、そんな身勝手な人間にとって大事なのは猫の数では無く、道端で猫を愛でられるかどうかなのだ。

 そう考えると野良猫なんてものは人間に愛されている訳では無く、エゴを満たすための道具でしか無いのかもしれないなと猫を憐み、上司から連絡が来たので部屋へと向かう。今日は珍しくミヨも呼ばれているらしい。


「今回は人数が多いからミヨと二人での仕事だ」


 上司に渡された、ターゲットが書かれた書類を眺める僕達。そこに表示されているのは、似たような顔つきの男達。


「重度の知的障害を持つ人間が集められたグループホームにて、男性障害者20名の殺害……はぁ? いくら何でも一度に殺しすぎよ。社会が大混乱するわ」

「何事も効率だ。一か所に集められているし、グループホーム自体近隣住民からのクレームを避けるために辺鄙な場所に建てられている」

「私達は機械じゃないわ。一度に20人だなんて、ザコなんてPDCAまっしぐらよ」

「僕なら大丈夫です。PTSDにはなりませんよ。さあミヨちゃん、作戦会議しようか」


 今までにない大量殺戮の依頼に納得の行っていないミヨを引きつれて自室に戻り、猫に囲まれながら現地の間取りだとかを確認して行く。


「女性がいないことがせめてもの救いね。日本が女性に優しい国で良かったわ」

「女性はまだ利用価値があるからね」

「……? どういうこと?」


 ペラペラと紙をめくりながら、入居者のうちターゲットは全員男性であることについて胸を撫でおろすミヨ。純粋に育ち過ぎたのかその理由までは理解していないようなので、大きな仕事の前の願掛けも兼ねて、彼女をベッドに押し倒してやる。


「こういうこと。頭が悪くても、女の子ならこうやって社会の役に立てるからね」

「そんなの、あんまりよ……自由に意思も持てるか怪しいような子の身体を売るだなんて。……私だって、きっと組織に引き取られなかったら、今頃性奴隷にでもなってたはずよ。こんなの生き地獄じゃない」

「働ける能力のある人間は働かないと社会は回らない。働く能力の無い人間は生きる事を許されない。僕達、散々色んな人の自由意思を奪って来たじゃないか。ニートの人に、強制的に働かせろなんて言ってたじゃないか」

「……そうね。けれど、私は自由意志を捨てたく無いわ。ザコに攻められるなんて許さない」


 利用価値がある事が幸せとは限らない。そんな社会の残酷さを身を以って彼女に教えてあげようとしたのだが、彼女はムードには流されてくれないらしく、あっさりと僕を組み伏せてしまう。

 そうして彼女に求められたり、彼女を求めたりしながら時間は過ぎていき、ある日の深夜、僕達はグループホームへと侵入する。


「見張りは?」

「寝ているよ。『一人で宿直をしていた依頼者が眠らされて、その間に悲劇が起きた』……こういうシナリオなんだ」

「一人も二十人も変わらないのだろうけど、自分でやる覚悟の無い人間には腹が立つわね。そういうことなら、足音がしてもトイレか何かで出歩いている人達ね」


 真っ暗な施設の中を暗殺者らしく音も立てずにこそこそと歩き、男性用の寝室へと向かう。

 一人も二十人も変わらない。まさしく彼女の言った通りであり、そこからはただの作業だった。

 幸せそうに寝ている彼等を声を出さないように天国に送り、証拠の隠滅を行い、次の人間を始末する。

 それを繰り返している途中、運悪くトイレのために出歩いていた女性の入居者に見つかってしまうが、こういうアクシデントも慣れているのだろう、すぐにミヨは彼女を気絶させてベッドへと連れ戻す。


「……この子、可愛いわね」


 気絶させた女性をベッドに寝かせたミヨはそう呟く。確かに顔の筋肉をうまく使えない事が多いため、変な表情になりがちな人達の中では、顔面偏差値だとか下らない指標で言えば上の女性だ。


「ミヨちゃんの方が可愛いよ」

「そういう事を言っているんじゃないの。……きっと彼女、今後好きでもない男の相手をさせられて生きるのでしょうね。……今ここで楽にしてあげるべきなのかしら」


 同じ女性として、ミヨは今後の彼女の人生を想像しては悲観してしまったらしい。ここで殺してしまうのが彼女の為でもあるはずだと言わんばかりに、ナイフを取り出して彼女の喉元に突きつける。


「駄目だよ、ターゲット以外の人間への加害は必要最小限にしないと。依頼されても無いのに独断で殺したらただの犯罪者だよ」

「依頼されたって犯罪者よ。じゃあザコ、私が依頼するから彼女を殺してよ」

「駄目」


 凶行に走ろうとしている彼女をどうにか宥め、残りの人達も始末して後処理を行い、ずっと悲し気なミヨと共に帰路につく。


『〇〇日〇〇時、〇〇県にある〇〇センターにて、複数の入居者が殺害されていることが判明し――』


 流石に20人も殺してしまえば翌日のニュースはそれ一色。今後一週間どころか一ヶ月は、僕はニュースで叩かれ続けるのだろうとげんなりしながらインターネットを眺める。


『〇〇様! ガ〇ジ共をこの世から処分してくださりありがとうございます!』

『女は殺さないとかわかってんじゃねーか』

『PTSDガ〇ジ風俗嬢の同人誌作るわ』


 一人殺せば犯罪者だが、たくさん殺せば英雄……そんな格言の通り、インターネットは僕を崇拝する人間もちらほら見受けられる。英雄視されるのは悪い気分じゃないな、とちょっと仕事をしすぎて価値観がおかしくなりつつある事を自覚した僕はミヨの様子を見やる。


「……」


 しかしミヨはニュースでも、インターネットの声でも無く、どうやら電子漫画を読んでいるらしい。

 彼女の後ろからその内容を覗くと、知的障害を抱える女の子が身体を売って生活をするという、あんまりな内容の漫画だった。


「きっとあの子、仲間も殺されて、ショックを受けて、支援をしてくれるグループホームだって解体されて、生きるために身体を売るんだわ。好きでもない男に抱かれて、お金だって男に搾取されて……」


 漫画の主人公に自分やあの女性を自己投影して落ち込み続ける彼女。

 僕は男だから彼女の悩みに向き合う事は出来ないと判断して、メンタルケアをしてやらなかったのがまずかったのだろう。



 その次の仕事に向かった彼女は、暗殺者としては再起不能な怪我を負うことになる。

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