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落ちこぼれ暗殺者はニートを殺す

『〇〇日、〇〇市で〇〇さんが殺害されました。〇〇さんは享年110歳であり、現存する最高齢の日本人女性として度々話題となっていました。また、殺害現場にはメッセージカードが残されており、今月に2件発生した子供の殺人事件の犯人と同一人物、もしくは模倣犯によるものと警察は考えており捜査を――』


 老婆を殺した二日後のテレビニュース。殺人事件のニュースを報道した後、話題は謎のシリアルキラーへと移る。

 犯罪心理に詳しいらしい大学教授が犯人の分析をしたり、犯人を批難する街頭インタビューが映されたり、テレビは揃いも揃って僕の敵だ。

 僕の代わりにテレビの電源を消してくれたミヨは、スマートフォンを開いて実況スレッドを眺め、これなら見せてもいいだろうと僕にそれを寄越す。


『老害が消えたあああああああ』

『ありがとう犯人さん、ウチのジジイも頼む』


 インターネットの住民はそれなりに若い人達が多く、お年寄りには悪い感情を持っているのだろう。テレビとは正反対に僕の行動を賞賛する人達で溢れていた。


「誰だって年寄りになるのにね。次はあんたらの番だってわからないのかしら」

「それだけ若者の負担は厳しいからね。今のままだと、この人達は老人になるまで生きられるかどうか。なんだかんだ言って国に保護されている僕達には理解できない悩みがあるんだよ」


 僕の行動を肯定している人達ではあるが、老人を労わるつもりのないその態度にミヨは苛立ちを隠せない。

 普通の孤児として生きる事すら許されず、幼少期より厳しい訓練を受け続け、いつ殉職してもおかしくない立場の人間が外の世界の人間を気遣うなんておかしな話ではあるが、誰だって生きるのに精一杯であり、老人を養う余裕なんてのは彼等にも、国にも無くて、今はそれを騙し騙しやっているに過ぎないのだろう。


「どこかで聞いたことがあるわ。いずれ医療費が圧迫し、年金制度が崩壊して、若者が革命を起こすだろうって。そうなったら、国の為に戦う私達はどっちにつくべきなのかしら?」

「勝ちそうな方につくべきじゃないかな。僕は国のために手は汚せても死にたくはないよ」

「落ちこぼれのザコらしい考えね。生き残るのはいつだって臆病者ってことね……」



 国の偉い人間の部下と言っても過言ではない僕達だが、国全体、言ってしまえば最大多数の最大幸福を前提に戦っている。

 やがて僕達の存在自体が国全体にとって悪となった時、僕達は自分自身を否定するのだろうか?

 そんな未来が来ないために、僕は後何人老人を殺さないといけないんだろうか?

 政治家や労働者の皆さんには是非どうにかなるように頑張って欲しいものだと、違う立場の人間に期待しつつ、上司に呼ばれた僕といつものように保護者気取りのミヨは仕事を受けに部屋に向かう。


「今回のターゲットは30代無職実家暮らしの男性。いわゆるニートだ。家族もあらゆる手を使って社会復帰させようとしたがうまくいかず、最近は家族に暴力も振るうようになり、このまま外の世界に迷惑をかけるくらいならと匙を投げられたという形だな」

「30代の男なら、国の力で無理矢理働かせるべきよ。私達なんて、幼い時に国の力で無理矢理暗殺者にさせられたのよ? 人権だのくそくらえだわ」

「30代のロクに運動もしていない社会経験の無い男にコストをかけてまで働かせる意味なんて無い」

「それはそうかもしれないけれど、ただ働いていない、仕事の出来ない人間ってだけで……ほ、ほら、ヒモとかあるじゃない」


 無理矢理働かせろと厳しい事を言いつつも一応は生存させるべきだと主張するミヨと、更に厳しい事を言う、思ったよりも思想の強そうな上司。

 どうやら彼女は僕を仕事の出来ないニートでヒモ同然の存在であり、自分が養っているのだから彼にもそんな相手がいるはずだと主張しているらしい。


「ミヨ。もしもサコがお前よりも15歳年上で太っていたらどう思う?」

「養わないわ。太った働かないおっさんに生きる価値なんて無いわよね、このターゲットも確かにデブでブサイクで、女に愛される資格は無いわ。よしザコ、社会の為にサクっと殺っちゃいなさい」

「別に僕もミヨちゃんに養われてるつもりは無いんだけどね……」


 しかしあっさりと上司に論破され、態度をカラっと変えて僕に殺人の許可を出す。

 ミヨに好かれる程度の容姿であった事に感謝しつつ僕達は打ち合わせを行い、二日後の昼間に僕とミヨはターゲットの住む民家へと向かう。


「全く、ターゲットが昼夜逆転してるから真昼間に暗殺しないといけないなんて。おかげで私がザコのお守よ」


 道中で嬉しそうに愚痴を漏らすミヨ。

 暗殺の基本は人気の無い深夜にやるものだし、いかに暗殺向きの環境を作り誘い出すかがプロの腕の見せ所な訳だが、家から出ない上に昼夜も逆転しているターゲットを殺害するには昼間に住宅街に赴かざるを得ない。

 相手が成人男性と言う事もあり、僕には荷が重いと半ば強引にミヨが補佐を買って出たのだ。


「……オーケー。そこから侵入しなさい」


 ターゲットの家の、両親が鍵をかけ忘れていたという設定で開いている裏口。

 周囲に人の気配が無いことを確認した僕達はそこから家の中に侵入し、最後の意思確認の為に両親のいるリビングへと向かう。


「生産者責任を全うする気も無い卑怯なアンタ達の代わりに優しいこいつが息子を殺すから。もし告げ口でもしてみなさい、アンタ達を私が殺すわ」


 リビングで重苦しくも、僕達に縋るような表情をしている、依頼者である両親にミユは冷たくそう告げ、僕達は物音を立てないようにターゲットの部屋のドアを開く。


「汚い部屋ね、いびきもうるさい。まさに典型的なゴミクズニート、社会の敵ね」

「静かにして、起きちゃう」

「そしたら私がすぐ殺すわよ。つうか苛立って来た、私が殺していい?」


 部屋の中に入った僕達の目の前にはベッドで大いびきをかいている、両親が自分をずっと養ってくれると信じ切っている男の寝顔。

 それを見て嫌悪感を露にする彼女を宥めながら、僕は慣れてしまった手つきでナイフを彼の首に一閃し、一撃で仕留めて魅せる。


「やるわね。私は強襲メインで、寝てるターゲットを暗殺する機会が無いから新鮮だわ。さて帰りましょ……ん?」


 僕の殺しのスキルを賞賛しつつ、証拠隠滅等の事後処理を素早く行う彼女だったが、パソコンの画面を食い入るように見つめ始める。

 何事かと僕もそれを覗くと、それは僕達もよく見ている、掲示板のニュース関連のスレッド。


『老害は社会のゴミ!』


 彼が書きこんでいたのは丁度僕が先日殺害した老婆のニュースで、僕の行動を肯定している人間のうちの一人はどうやら彼だったらしい。


「両親に寄生してる身分で何言ってんだか。こんなやつ、きっと両親が年老いたら殺して隠して年金を不正受給するでしょうね、殺して正解だったわ」


 やれやれと肩をすくめながら、撤収の経路を確保するために部屋を出て行く彼女。

 僕は貴重な自分の賛同者を自らの手で葬り去ってしまったことに悩みつつ、彼女の後を追うのだった。



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