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落ちこぼれ暗殺者は老人を殺す

 僕が初仕事をしてから数日後。

 僕とミヨは、僕の部屋で貴重な娯楽の1つであるテレビを眺めていた。


『〇〇日、〇〇事件で無罪判決を受けた〇〇氏が殺害されており、警察関係者は怨恨による犯行だと考え捜査を――』


「私の事件だわ」


 自分が手掛けた事件がニュースになっている事に気付いた彼女は、機能の制限されたスマートフォンを開くと、掲示板アプリを開いてテレビ番組の実況スレッドを眺める。掲示板に書き込んだり情報をアップロードする事は出来ないし、余計な思想が植えつけられないように全てのサイトを見ることが出来る訳でも無いが、他人の書き込みを見る程度は僕達にも許されているのだ。


『ざまぁwwww』

『怪しいと思ってたんだよ、裁判官買収してただろ』

『犯人よくやった!11!1』


 本音の出やすいインターネットには、彼女の暗殺を賞賛する声が溢れている。

 彼女はスレッドをスクロールしながら、自分は正しいんだ、インターネットの皆も同意してくれていると上機嫌そうな表情に。

 大金が貰える訳でも無い、貰えたとしても規制された生活では使い道も無い僕達のような存在にとって、『世間の本音』が唯一と言っても過言では無い報酬なのだ。


『続きまして、〇〇市で〇歳の〇〇君が殺害されました。〇〇君は先天性の難病を抱えており、犯行現場には『社会のゴミは生きる価値無し』と書かれたメッセージカードが置かれていたころから、警察関係者は危険な思想家の犯行と考え捜査を――』


「僕の事件だね」


 僕はそんなメッセージカードを置いてはいないのだが、家族に疑いがかからないように別の部隊が工作をしたか、警察を操作して事実を捏造したのだろう。次に似たような仕事をする時の参考にしようとニュースを眺めた後、僕も同様にスマートフォンを開いて実況掲示板を眺める。


『絶対両親の自演だろ』

『これあれだろ、〇〇君を救う会とかで募金してただろ。金が集まったから子供を始末したんだろ』

『まあ気持ちわかるわ。俺もきょうだい児で弟を何度も殺そうと思ってた』


 謎の殺人鬼が病弱な子供を殺すというシナリオよりは、両親が殺すというシナリオの方が遥かに現実的だからか、インターネットは両親が犯人だと言う声で溢れていたり、同様に負担となる家族を抱えている人間の同情的な意見も見受けられる。

 何の気休めにもならないのだが、あまり叩かれていなくてよかった、と胸をなでおろし、掲示板だけじゃ意見が偏るだろうし、もうちょっと一般的なSNSも見てみようかなとSNSアプリを開いて事件に対する反応を見やる。


『このような犯行は決して許されるものではありません! 全ての人間には生きる権利があり――』

『社会全体でこういったハンディキャップを抱える人間の支援をすることが重要であり――』


 掲示板とSNS、どちらが偏っているのかなんて僕にはわからないが、こちらでは僕を批難する声がそれなりに見受けられた。

 片や法で裁けぬ悪党、片や重い病気を抱えているだけの善良な子供。

 そりゃそうだよな、と気分を沈めていると、ミヨが僕の手からスマートフォンを奪い取る。


「ネットの意見なんてアテにしちゃダメ。先輩として教えてあげるわ、いい声だけを拾うの。私を批判している奴は、妄想の中で殺すの」

「それは素晴らしいネットの使い方だね」


 ミヨから暗殺者としての心構えを学んでいると、上司から次の仕事について連絡が入る。

 話を聞いて来るねと部屋を出るが、当たり前のように彼女は僕についてきながら訝しそうな表情をする。


「こんな短期間ですぐに次の仕事? ザコ、昨日も仕事……病気の子供を殺したんだよね? ルーキーなのに、依頼が多すぎるわ」

「まぁ、僕でも出来る簡単な仕事だからね。例え僕が心に傷を負って使い物にならなくなるような、機械にすらなれない落ちこぼれだとしても、使い捨て上等だよ」


 暗殺者が毎日暗殺をしている訳では勿論無い。もしもそうだとしたら、我が国は治安が悪いどころか国としての体を成していない。

 準備だったり心のケアだったりの時間が必要だし、暗殺が必要な状況だってそんなに頻繁には起きない。

 それが巨悪を倒す正義の悪党である僕達の組織の基本。

 けれど僕の仕事はスケールの狭い、一般家庭で起きるようなもの。

 簡単過ぎるしわかりやすい悪を討つ訳でも無いしと他の暗殺者は仕事を嫌がり、需要と供給のバランスが合っていないのだろう。


「来たか。今回はこの老人を殺して欲しい」


 上司の部屋に入ると、呼ばれても無いのに当たり前のようについてきているミヨを見て溜め息をつきながら、上司は僕にターゲットの情報が書かれた紙を渡す。


「この人どこかで見たことがあるわ……あ! 思い出した! 現存最高齢の人だわ! テレビでやってた!」

「今年で110歳か」


 今回のターゲットは病弱な子供では無くほとんど寝たきりの老婆。

 子供と違って既に社会に貢献した実績のある老人達だが、残念ながら長生きすればするほど社会にとって負担になってしまうというのは、普段見ているニュースでもよく扱われている問題だ。


「本人にもほとんど意識は無く、ただ『現存最高齢だから出来るだけ長生きさせないといけない』という世間の声によって無理矢理延命されているだけだ。本人の為にも楽にしてやってくれ。それと、サコには今後、シリアルキラーを演じて貰う。一連の事件の犯人は共通していると世間に認識させることで、家族の関与を疑われないようにするんだ」

「わかりました。家族の代わりに世間に叩かれますので、存分に僕を悪党に仕立て上げてください」


 依頼を受けると共に、卑劣な殺人鬼として世間のヘイトを集める覚悟を決める。僕達はそもそも仕事以外で外の世界に出る事が無いし、戸籍だったりの情報も無く、世間の敵になったところで、指紋を採取されたところで、多少顔が割れたところでそこまで不都合な事は無いのだが、人間はそんな単純な生き物でも無い。

 今後はSNSは絶対に見ないようにしよう、落ち込むだけだからと娯楽の選択肢を1つ消した僕は、打ち合わせをして時間を潰し、深夜に民家へと向かう。


「……もう十分生きたよね」


 本来であれば病院のベッドで寝ているべきだが、本人の希望もあり実家にある和室で色んな機械をつけて苦しそうながらも寝息を立てている老婆。

 落ちこぼれの僕でも、実戦経験を積めばそれなりにはなる。

 しわしわで細い首筋にナイフを突き立てて一撃で仕留めると、『医療費を圧迫する、生産性の無い若者の未来を食いつぶす老人に死を』と書いたメッセージカードを置いて、寝ているらしい孫を起こさないように、依頼者である息子に軽く報告だけして闇へと消えていく。


「おかえり。おばあちゃんを殺すの、躊躇った?」

「子供の時より全然抵抗が無かったよ。まぁ、もう十分長生きしてるしね。孫だっているし、いつ死んだって悔いのない人生だったと思うよ」

「……私、おばあちゃんになれるのかな」

「どうだろうね。この組織、お年寄りの人を見かけないけど。殉職するからなのか、一定の年齢になると完全に引退してまた別の施設でひっそりと暮らすことになるのか。それとも今回みたいに消されちゃうのか。怖いけど今度聞いてみようかな」

「そこはさ、まずはお母さんにしてあげるねって言うところでしょ。ザコは気が利かないね」


 帰宅。そういうことをしてしまった事もあり、完全に僕の部屋に住み着いてしまったミヨにコーヒーを渡され、二人でそれを飲みながら組織の年齢層の偏りについて話し合う。

 僕の真面目な答えは彼女にとって不正解だったようで、彼女は僕をベッドに押し倒す。


「エリートの私と落ちこぼれのザコの遺伝子、混ぜたら普通の暗殺者になるのかしらね」

「子供は暗殺者にはならないよ。取り上げられて、普通の孤児としてどこかに預けられて育てられることになってる。例え会えなくても普通の人生を歩める子供を作れるのが、僕達にとっての最大の報酬なんだ。まぁ、僕達みたいな若手じゃそんな許可は下りないと思うよ。男の僕はともかく、エリートで働き盛りのミヨちゃんが妊娠出産で組織に穴を開けるなんて許されないと思う」

「5年後。私が生き残ってたら、その時はパパになって貰うからね」


 死亡フラグなのか生存フラグなのか判断に困る台詞と共に、不満そうにカバンからゴムを取り出す彼女であった。

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