プロローグ───呪いの鎖
ずっと書いてみたかったお話です。ぜひ読んでってほしいですm(*_ _)m
本当は百合にするつもりですた
「悪女め!!」
「簡単に殺すな!」
「虐殺の魔女!!」
民の汚い喚き声が聞こえる。全くもって耳障りだ。
「下賎な豚共が!」
断頭台に上がった彼女が叫んだその言葉に、民はますます怒声を強める。
「───ガッ!!」
誰かが石を投げ、それが彼女の頭に直撃した。それを皮切りにどんどん石が投げ込まれていく。
そのあまりに凄惨な光景に、異世界からやって来た聖女メイナは震えるしか無かった。
「おいで。ここにいるのは辛いだろう。」
そう言ってメイナの背を優しく引く彼は、ディアナの婚約者でありこの国の第2王子のアレクだ。輝く金色の髪に深い青の瞳を持った彼は、まさに貴公子然としている。そして彼を含め、彼女の周りにはこの国の未来を担うであろうそうそうたる面子が並んでいる。
「……いいえ、私には彼女を見届ける義務があるわ。」
かつて気高く美しかったディアナの人生は、聖女メイナがやって来た事で狂ってしまった。
(私には止めることができない……。)
魔法の天才であったディアナは、悪魔から力を奪い、聖女を生け贄に国に生きる全てを無に返そうとしたのだ。ディアナの計画を阻止したのは聖女メイナとその仲間達。
彼らの怒りは最もだろう。彼らを止める強さを……清らかな心をメイナは持ち合わせていなかった。だからせめて最後までディアナと向き合い、己が作り出したこの光景を目に焼き付けようとしたのだ。
だが、その真っ直ぐな心意気はさらに彼女を苛立たせた。
(下民共にまで手を出すなんて、男なら誰でもいいのねアバズレが。)
殺意の籠った目が、聖女メイナを射抜く。彼女の人生はもうあとは首を切られるのみだ。その前に、と彼女は願った。
(あの女に呪いを。あの女に不幸を。あの女に復讐を。)
そんなクソみたいな願いを残したまま、彼女の首はあっさりと落とされ、その短い生涯に幕を閉じた。
ハッと目を覚ますと、そこは見慣れた部屋だった。豪華で趣味の悪い部屋に、ふかふかすぎるベッド。小さくなった己の体と、少し若返った侍女達に冷静に状況を把握する。
「───神に愛されていたのは貴女だけじゃなかったみたいね。」
そう言ってディアナは笑った。
(考えてみればおかしな話じゃないわ。)
聖女が訪れる前、神に愛された少女とはディアナのことであった。美しい容姿と、神に与えられし魔法の才能。充分に説得力がある。
「でも、やっぱり復讐なんてしないわ。」
最期はおかしくなっていたが、彼女は元より意味無く人を殺すなんて愚かな真似はしない。仮にも王族に加わる予定だったのだ。厳しい教育の中で、民を大切にする心意気も民を上手く扱う人心掌握術も叩き込まれている。聖女に狂わされさえしなければ───
「……自分の幸せを見つける。」
第2王子の婚約者となるために全てをかけてきた。彼女の人生は、彼女のものではなかった。だから、今度こそ自分の為に生きるのだと誓う。たかが1人の人間に囚われて生きるようなことあってはならない。
(前の人生では馬鹿な真似をしたけれど、今回はそうならない。だって、諦めが付いているのだから。)
「あんな屈辱、もう受けないわ。」
彼女の目には前を向く光が宿っていた。
「───ふざけないで!!!」
真っ白な空間に、叫び声が響く。それは聖女メイナのものだった。
「ごめんなさい、ごめんなさい、愛しい子。」
そう涙を流すのは、この世界に迷い込んだ彼女を拾い上げた存在。───メイナは、神の意思によってこの世界にやって来た訳ではない。人々の救いを求める思いが奇跡を起こし、彼女の魂を導いたのだ。しかし所詮は人の力。いきなり連れてこられた彼女は消滅寸前だった。それを神──女神アターシャが拾い上げ、丁寧に保護し慈しみ、満を持して世界に送り出した。
しかし、消滅寸前の彼女に意識はなく、二人で過ごした長い長い時間を覚えているのは女神だけ。目覚めていきなり異世界だった彼女からすれば、女神は憎悪の対象に他ならない。
「やっと元の世界に帰れると思ったのに!!!」
そう、稀代の悪女が処刑されてから数年、彼女は元の世界に戻るための魔法を研究し続けていた。ずっと帰りたかった。そしてやっと成功し、ここまで来ることができた。なのに、そんな彼女に女神は、戻ることはできない、と告げたのだ。
「あの子の、ディアナの呪いがあなたの魂を縛り付けているのです。」
「!!そんなはずない。あの時ディアナには魔法封じの腕輪と私の浄化結界がかけられていたの。呪詛なんて行使できるはずないわ。」
「……私のせいなのです。あの子は、愛する子供たちの中で取り分け目をかけていた子でした。巡り続ける魂の中、あの子の魂は特別強い光を放っていた。でも彼の力を奪った事でその輝きは失われてしまいました。それがどうしても憐れで…」
悪魔族という人類を脅かす存在も、彼女が作り出したもの。彼女にとっては大切な魂の一つだった。傷つければ、罪となり汚点となる。
「憐れで、あなたは私に、何をしたの?」
メイナが、怒りを堪えるように言葉を絞り出した。
「彼女が報われて欲しい、と思ってしまったのです。…神の意志は強力です。世界ごと法則を書き換えてしまう。もちろんすぐ解呪し、害を取り除きました。しかし、世界をも書き換えた彼女の怨念が、今も貴方をこの世界に縛り付けているのです。」
「……!!最後まで、最後まで邪魔しかしない!なんて醜悪な女なの!!ディアナ!!!」
メイナの顔は怒りに歪んでいた。彼女はそもそも、アレクには世話になっていたが恋仲になどなっていない。にも関わらず勝手に嫉妬し、勝手に怒り、勝手に悪魔と契約し、そしてそれを止めたら、勝手に処刑されて死んでいった。そしてその煩わしい存在が、未だに彼女をこの世界に縛り付けている。
メイナは深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、女神を見据えた。
「……どうすればいい?」
どんな状況でも、自分にできることをひたむきに頑張るのが彼女だ。女神はその姿に、より一層愛おしさを感じた。
「私の全てをとして、時間を巻き戻します。そして根源を潰す、彼女の魂自体を消滅させれば良いのです。……然るべき対処が必要なのです。」
具体的には、彼女が呪いをかける処刑の日までに魂を消滅させること。穢れた魂は聖魔法で簡単に浄化できる。
「……時間を巻き戻したあと彼女の魂は分離した状態で、その世界でディアナとして生きる魂は綺麗なままなのです。核はそちら側にあるため、そのままでは消滅させることはできません。」
メイナは、女神の目に未練があることを感じとった。
「聖魔法を行使するには、方法が2つあります。ひとつは、彼女を殺す方法です。器を無くした魂は核が曖昧になり、簡単に消滅させられるでしょう。」
「……。」
「そして……もう1つは、汚染された部分を1度彼女へ返す方法です。穢れた魂と綺麗な魂は簡単に混ざり合わない。後者はとても難しいですが、その方法なら汚染された部分だけを消滅させることができます。そうすればまだ彼女は存在でき……」
「ふざけているんですか?」
「……!!」
「私が、わざわざ彼女を救うと本気で思っているんですか?絶対に嫌です。貴方のワガママに付き合ってあげることはできません。そもそも、魂が綺麗だった頃から彼女は私に危害を加えていたの。ただの自業自得ですよ。彼女には、さっさと消滅してもらいます。」
「……そう、ですね。彼女の犯した罪を庇うことはできません。貴方には、本当に申し訳ない事をしました。愛しい子、貴方の魂に愛の女神の祝福を。」
そうして、女神は去っていった。
「ディアナ、お前を絶対に許さない。これ以上ない屈辱を味あわせてあげるわ。」
そう言って、彼女は空を睨み続けていた。
ディアナが回帰してから5年、あれからいろいろな事をして、いろいろな事が変わっていった。前世で私を道具として扱い、虐待し続けていた両親は牢屋にいるし、私にたくさんの濡れ衣を着せた令嬢達は断罪された。
私も前世の罪滅ぼしをするため、前世の知識を利用して救える命はできるだけ救い、拾える心はできるだけ拾い上げた。そしたらいつの間にか、私が聖女と呼ばれるようになっている。
そしてもっとも変わったことは、
「ディアナ、これ君に似合うと思って。」
そう言って美しい髪飾りを手渡すのは、私の婚約者であるアレクだ。
「おい、抜け駆けすんな!」
「抜け駆けも何も、ディアナの婚約者は私だ。」
「今は、そうですけどね。」
そう言って騒ぎ立てるのは、かつての処刑場で聖女を囲っていた彼ら。前世では彼らの愛を求め続けて狂ったというのに、諦めた途端簡単に手に入ってしまった。
(でも、今年聖女がやってくる。)
15歳の春、彼らをいとも簡単に射止めた彼女がもうすぐ現れる。不安がない訳ではない。けれど、それは不要な心配だと彼らが言ってくれたから、私は穏やかな気持ちで過ごすことができた。
そのはずだったのに。
聖女が現れたとの報告があってから数日、彼らと顔を合わせる回数は減って行った。王命によって聖女のお世話役の任を受けているだけだろう。が、どうしても不安が募ってしまう。決定的だったのは、宰相候補の彼に言われた言葉だ。
「婚約者がいる貴方と頻繁に顔を合わせるのはあまりよろしくありません。そろそろ、距離を置く頃合なのかもしれませんね。」
ひどく真っ当な言葉だ。だが、その言葉には否応なく聖女の影がチラついていた。どうしても心が醜く歪んでしまう。きっと前世の、彼女に対して接する彼ならそんな事は言わなかっただろう。彼女に婚約者なんてものはいなかったが、そう思わずにはいられなかった。
今、私は王宮に招かれている。
「カルーメル公爵令嬢、聖女様の話し相手となるようにという旨の王命が下っています。」
これも前と同じ。私はこの時間を利用して、彼女を散々痛めつけた。まったく馬鹿なことをしていたと思う。
「しかし、聖女様は素晴らしい。もう既にほとんどの分野を習得し教師を必要としていないそうですよ。」
(……?)
そんなはずない。彼女は異世界から来たせいか習得が驚くほど遅く、教師泣かせだったのだ。しかも礼儀作法の教師が私の手の者だったから礼儀もしらず、社交界では格好の笑いものだった。
「聖魔法ではもう既に大司教を上回るほどだとか。」
これもおかしい。前回彼女が魔法を扱えるようになったのは、もっとずっと先の事だ。その実力が大司教に迫るのなんて、それこそ私の死の直前だったはず。……覚えの悪い彼女は、その分人一倍努力家だった。最初の頃は上手く笑いものにする事ができたのに、だんだんと実力をつけその存在をかけがえのないものとしていった。それに焦った私は、悪魔なんてものに縋ったのだ。
「少々お待ちを」
招かれた先の庭園で一人。ざわめく心をどうにか落ち着けようと、紅茶を1口含んだ。そうこうしていると、にわかに騒がしくなる。
「聖女様!どうか落ち着いてください!」
「私は取り乱してなんか居ないわ。落ち着けと言うのなら、私を放っておいて。」
「聖女!あなたの為を思っての事なんだ!」
「私が苦痛に思っているからと言っているの。」
「メイナ、言うことを聞いてほしい……」
「名を呼ばないで。」
それは彼らと、聖女だった。
メイナといえば、天真爛漫でひたむき、そして驚くほど真っ直ぐな少女だった。そんな彼女らしくない他者をあしらう姿に、思わずディアナは目を見開いた。
「あれは、本当にメイナなの?あれはまるで───」
まるで、かつての私のようだ。その言葉は続かなかった。メイナがこちらに目を向けたのだ。そして、恨みの詰まった射殺さんばかりの目でディアナを睨みつけた。
「!!!」
聖女はそのまま無言で去っていった。彼らもその後を追いかけている。彼らが、こちらを見ることはついぞ無かった。
ディアナの中に、壮絶な違和感と不安が立ちこめる。
(彼女も同じだ。)
そう、確信した。
読んでくださってありがとうございました!ディアナは負の感情を全てメイナに押し付けたので、処刑後ディアナは爽やかに、メイナはどんよりとしています。誤字脱字報告あればぜひお願いします(>人<;)




