『付喪神』
……深夜。
「どうしてこうなった??」
俺の目の前には身長百九十センチの大男。身に着けているものはブーメランパンツ一つだけで、スキンヘッドに筋肉はガチムチ、なにかを塗っているのか全身がテカテカ光っている。そいつがボディビルのポーズっぽいものを取っていて、ニカッっと笑った口元からは白い歯がキラリ。
◇
……日付変更前、二十三時三十分。
『あぁぁ、んっ、あ~~~~』
俺はサブスクでアダルトな動画を見ながら自分を慰めていた。右手に持っていたのは高校生になった頃に親に隠れて買ったいわゆるオナホ。日付が変われば三十の大台に乗るというのに俺の恋人はずっとコイツだった。
「三十まで経験がないと魔法使いになるなんてよく言うけど……」
独り言ちながらも右手は止めない。やがて日付が変わった直後に達したらしい。
ボフッ
直後、右手から白い煙が上がったかと思ったら右手に持っていた物が消えて、大男が立っていた。
「さあご主人っ!いつも通り我を使ってくれっ!!」
……なんて?
◇
「ご主人とて日本人。付喪神くらいは当然ご存じであろう?」
「あー。長く大切に使われたものに魂が宿る、ってヤツだろ?」
「うむ。我はご主人の半生に渡って愛されてきたからの。ご主人が魔法使いになった事でこうやってヒトの形を持って顕現できたのだ」
いや、俺だって擬人化ゲームとか色々やりましたよ?だけどさあ……
「さあご主人、存分に使ってくれっ」
と言って背中を向けてポーズを取る。後で調べたら『バック ダブルバイセップス』と言うらしい。なんでこの人、股間からなんか垂れてるんですかね?壮大なドッキリとしか思えなかった俺は色々と質問してみた。
「うむ。我がご主人に身請けされたのは、ご主人が高校一年の時であったな。店員は顔に出さぬようにしておったが、バックヤードでは『若い子が大人ぶっちゃって可愛い~』と大盛り上がりであったぞ」
グサッ
「初めて我を使った時は、今でも懸想しておる二つ歳下の幼馴染への思いの丈を口にしておったな」
ヤメロッ
「受験勉強と称して彼女が遊びに来た時は、我は机の一番奥に隠されて会話を聞いておった。相手もその気はあったのに結局勉強だけで終わってしまったな。いやあ我がご主人ながらヘタレな事である。机の奥で息をひそめて展開を見守っておったと言うに」
え?嘘??アイツはただの幼馴染で俺に想いを持ってるわけないじゃん。
「そんな事だからご主人は……いや、まあそのおかげで我が顕現できたのも事実ではあるな」
いやいや。もうこの話はヤメよう。
「先ほど観ておった動画も、黒髪ショートヘアのメガネっ娘であったな。もしかして彼女は最近、そのようなルックスをしておるのではないか?」
ヤメテー。俺のライフはもうゼロよ~~。
「もういいっ、今日は寝るっ」
と宣言するとガッカリした表情でボフッと煙に包まれて大男が消える。あとに残ったのはテーブルの上にたたずむ使用後の玩具だけだった。
◇
……翌日。
俺は昨夜の事件(?)を検証するために外出していた。
【アンティークショップ A・YU・MI】
「おいーっす。アユミ、居るかぁ?」
「あ、コウ君久しぶ…………きゃあーーーーーっ変態ぃ~~!!」
あ゛っ?
ふと思い立って振り返ると昨日の大男がいた。相変わらずブーメランパンツ一枚に全身をテカテカ光らせてサイドチェスト(調べた)のポージングをしている。
「ちょっ、おまっ、街中でそれは事案だろっ!!」
「ご主人、心配ご無用であるぞ。昨日の夜中からご主人のカバンの中に潜んでおって実体化したのは今ここでだ」
そう言いながらモスト マスキュラー(調べた)にポーズを変える。アユミは混乱のただ中だった。なんとかアユミをなだめてお店の応接コーナーに通してもらう。ここなら外から見られないためだ。
アユミは二つ歳下の幼馴染で俺にとっては妹のような存在だ。小柄で童顔、黒髪のショートカットに最近はおしゃれな丸眼鏡をかけている。このメガネもヴィンテージメガネと言うそうだ。まあ妹分と言いながらずっと想いを秘めてきたんだけれども、どうしても『コイツは妹分』っていう理性が働いてしまって付き合った事はもちろん告白した事すらない。適切な関係性を表すなら『腐れ縁の悪友』とでもいうべき存在だった。
「一応、言い分は理解したけどさあ。なんで私を巻き込むのよ?」
「だってアユミってアンティークショップやってるじゃんか。コイツのたわ言が本当なら他にも付喪神がいるはずだろ?この店ならいそうじゃん」
アユミは『はぁ』とため息をつき、そんなのお構いなしに俺は喜々として店内の物色を始めた。だからだろう『そんな玩具なんて使ってないで私に告ってくれればよかったじゃんか』と小さく呟いたのを俺は聞き逃してしまっていた。
明治時代の家庭用ガスランプから昭和のちゃぶ台まで並んでいるものを冷静に見ればカオスな空間だが、不思議と統一感のある店内のレイアウトはアユミのセンスがいいからだろう。
一回り店内を探したがそれらしき物は見つからなかった。と、店の一番奥の目につきにくいところに大きなタペストリーが飾ってあるのを見落としていたことに気が付いた。
「コレねえ……いいものっぽいんだけど出自が分からなくてさあ。冷やかしのお客さんに粗雑に扱われないように奥のほうにかざってたんだよねえ」
アユミに許可をもらって触ってみるとなんか違和感を感じた。『眠れるモノよ、我が声に応じて姿を顕せっ』と中二病っぽく念じてみる。
ボフッっと煙に包まれてタペストリーが消える。
「「えっ??」」
アユミとおたがいの顔を見合わせる。どうしよう、けっこうなお値段がついてたよなこれ。やっぱ弁償しなきゃダメか?頭の中で必死に言い訳を考えてると足元から叫び声が聞こえた。
「踏んでくださいッ」
「「……なんて?」」
◇
「踏んでくださいッ」
という声に足元を見る。矢絣の着物に袴と編み上げブーツ、どこかで見たような大正時代のチャーミングレディが大の字に寝そべって息を荒くしていた。
「え~と、どちら様で?」
「玄関マットです」
「へ?」
「貴女がタペストリーと勘違いして壁に飾っていた玄関マットですっ」
「「あ、はい……」」
なんとか再起動したアユミと共に話を聞いてみた。伊集院という旧華族の御屋敷の玄関マットで当時の有名な舶来ブランド品だそうだ。一時期、伊集院の家が傾いた時に売りに出されて以降はあちこち人手を渡ってきたらしい。昭和末期に折紙が紛失して以降『ちょっと古いタペストリー』としか思われなくなったそうだ。
伊集院家についてスマホで調べてみるとかなりの名家だったらしい。コイツがその旧華族の玄関マットだったという事が証明できれば今ついてる値札より軽く二~三桁は高値が付けられる。残念ながら証明できるのは本人(?)の自己申告だけだが。
ちなみにこの会話をしている間、玄関マットの背後では筋肉が様々にポーズを変えていたが全て見なかったコトにした。
「それでさあ。いきなり踏んでくれ、ってのはどういう了見なんだ?」
「だって私、玄関マットですよ?踏まれる事だけが私の価値なんですっ!壁に飾られてるだけなんて許される事じゃありません」
「は、はあ。すみません、知らなかったもので……」
アユミはまだ目が虚ろなままだ。
「アユミ、ちょっと外の空気でも吸いにでかけないか?巻き込んだお詫びにコーヒー代くらいおごるからさぁ」
「え?お散歩デート?」
なんでそうなるんだよ?まあ俺も嬉しいんだけどさ。
そうして玄関マットに留守番を頼んで店を出た。俺の玩具はカバンの中だ。こんなモノを持ち歩いていて誰かに見られたら赤っ恥だけど、店に置いていく事はアユミに断固拒否されてしまった。
◇
俺たちが住んでいる街は『小江戸』と呼ばれる観光地のため古い町並みが残っている。ぶらぶらと気晴らしに散歩したあと、俺たちは落ち着いた雰囲気の喫茶店に入った。
「お待たせしました」
「……ねえコウ君。このカップ、ウェッジウッドだけどメイドとか執事さんとか出てこないよね?」
「怖い事言うなよ」
とは言いつつ俺はさほど心配していなかった。このカップからは長く使い込まれた『愛着』のようなものが感じられなかったからだ。
「しかしさあ。アユミの店ってけっこうな品置いてあるんだな」
「えへへぇ。まあギャンブルみたいな商売だけどねえ。一山いくらで買ったものの中に稀にすごいお宝が紛れてるんだよ。家が絶えちゃうっていう古い農家さんから家具一式を買い取ったら超貴重な古文書が出てきてさあ。それを学術的な民間機関が高値で買い取ってくれてそれを資金にして今のお店開いたのよ」
「へえ」
「他にも古い農具に交じって錆びた刀が出てきて、調べてもらったら有名な刀匠が打った物だってわかった事もあったかな。まあそんな感じ。ハズレ引くと処分料のほうが高くついて赤字なんだけどね。二つくらい掘り当てればそれが年商になる感じ。だから毎年の税務処理が大変でねえ」
「俺もフリーランスのライターだからなあ、毎年の税務処理は苦労してるよ。でもそれじゃあ付喪神がついてるようなお宝は売れちゃってると考えたほうがいいのかもしれないな」
「確率は低いと思うけど、玄関マットさんの実例もあるわけだし、まったく可能性がないわけじゃないと思うけどねえ」
そんな雑談をしながらコーヒーを飲み会計はスマホ決済にしようとした。会計カウンターでふと横を見ると黒電話が置いてあった。ネットで見た事はあるけど実物を見るのは初めてだった。
「これ、使えるんですか?」
「いや、インテリアとして置いてあるだけだよ」
「見せてもらっても構いませんか?」
許可を取って触ってみる。これどうやって電話かけるんだろう?数字を押してみてもスイッチになってる様子はない。と初老のマスターが笑いながら教えてくれた。
「こうやって受話器を持ち上げて……指を差し込んでまわすんですよ」
ジーーー、コロコロコロ。
『はい持ってみてください』といって受話器を渡された。『ボフッ』カウンターにおばちゃんが腰かけてた。
「まったく電話のかけ方くらいちゃんと覚えてなさいよ、スマホなんて使ってないで」
マスターが反対側のお尻のポケットにスマホをそっと隠すのが見えた。
「だいたい最近の電話は軟弱なのよ。落としたくらいで壊れるし停電したら使えないし」
「いや固定電話だって停電したら使えないだろ?」
「舐めんなよ坊主。昔はねえ、電話局から個人宅の電話機まで電気が供給されたんだよ。だから地域で停電が起きても電話局から電気供給できれば通話できたんだ。それが今や光ファイバーに置き換わっちまったせいで電気供給を受けられなくなっちまった。いやな時代だよまったく」
マスターがそっと目を逸らす。あ、逃げた。その後もおばちゃんの話は延々と続いた。
◇
「いやあ参ったねえ。余計疲れたよ」
「っていうかすまないなアユミ。結局あの黒電話、お前の店で引き取る事になっちゃって」
「それは別にいいよ。アンティークショップで黒電話使ってる、ってそれはそれで雰囲気出るし。代わりにあの会計カウンターに小物置かせてもらって、ウチのお店の宣伝でもさせてもらえばお客さん増えるかもだし」
おばちゃんの話はとにかく長かった。なので、なんとか店を出た俺たちは近くの小さな公園で少し休むことにした。
「おう、冴えないおっさんのクセに可愛いねぇちゃん連れてんじゃねえかよ」
ヤンチャな高校生四人組だった。アユミは童顔で昔から可愛かったからなあ。さて、こんなガキ相手に騒ぎは起こしたくないし、暴力を振るわれてはかなわん。ボフッ
「ふむ。なかなかにイキのいいおのこであるな。ご主人、ここは我に任せよ」
アブドミナル アンド サイのポーズを取った筋肉がなんかピクピク動いてる。
「お前たち、我についてくるがいい」
そう言って人目に付かない方向に歩き出す筋肉。高校生たちはフラフラとその後をついていく。
「ねえコウ君、なんでそうなるの?」
「さあ。男を引き付けるフェロモンでも出してるのかねえ?」
放置して帰ろうとしたらアユミは絶対に反対だと言う。理由を聞いたら『アレを世の中に解き放っていいの?』と逆に訊かれてしまった。確かにまずい。
十五分もしないうちに筋肉が戻ってきた。いつも以上にテカテカしてる。太ももに『正』って書いてあるのは見なかったコトにしよう。
「これでご主人にもあなきょうだ「ヤメローッそれ以上しゃべるなっ」……」
そんなバカな会話をしていたらさっきの高校生たちが戻ってきた。目は虚ろだし、膝はガクガク震えてる。
「ねえコウ君。もしかしてコレって筋肉を被ったサキュバスだったりしないよね?」
「俺もそんな気がしてきた。でナニしたんだ?お前」
「ふむ。若いだけあってイキオイはあったがまだまだ青いな。テクニックがまるでなっておらぬ。簡単に搾り取ってしまったわ」
やっぱりサキュバスじゃねぇかよ、おい。と、俺に気が付いたヤンチャ高校生たちが一斉に土下座してきた。
「「「「兄貴ーーーーッ。さーーせんッしたっ」」」」
「この者どもはご主人の舎弟になると言っておったぞ」
イラネー。もう疲れた、帰ろう。
◇
一週間ほど経って新しい商品が入荷したと聞いて俺はまたアユミの店に出かけていた。
ぐにゅっ
「ありがとうございますっ」
足元を見ると玄関マットが息を荒くしてた。
「なんだ、ちゃんと玄関マットとして使われるようになったのか?よかったじゃねぇか(ぐりぐり)」
「もっと踏んでくださいッ」
「でもなあ、事情を知ってる俺だったからいいようなものの普通のお客さんだったらドン引きだぞ?(ぐりぐり)」
「アンタだって気づいたから慌てて実体化したんだよ」
「よう、黒電話のおばちゃんじゃねぇか。ちゃんと引き取ってもらえたんだ?」
「ああ、おかげさまでね。電話として仕事するなんて久しぶりでガラにもなく緊張しちまったよ。しかも今は留守番電話さ」
「え?黒電話の時代に留守録機能なんてなかったろ?」
「留守録じゃないよっ、留守番だって言ってんだろ?店長が出かけてんだ、店番とも言うね」
「留守番電話じゃなくて『留守番してる電話』ってワケかよ?」
なんかこの店もおかしな事になってんな、誰のせいだか?
「もちろん、コウ君のせいだよね?」
いつの間にかアユミが帰ってきたらしい。ここに来た目的を思い出してふたりでバックヤードの倉庫に行き商品を見せてもらう。今回は比較的新しい物や粗雑に扱われてきた物ばかりで付喪神が宿ってる物はなかった。
「ああもう、今回は大赤字だよっ。ねえコウ君、ちょっと散歩行こ散歩っ。黒電話のおばちゃん、留守番電話よろしくねえ」
「あいよー」
「別にいいけど……軽いなあお前ら」
そうしてブラブラと出かけたのは由緒ある寺院。お寺なら神様はいないだろ、たぶんだけど。
そう思っていた時期が俺にもありました。
ボフッ
「ふむ。ワシを起こす者がおるとは思わなんだ」
「あぁコウ君。このお堂、天海僧正をお祀りしてるんだってぇ」
「えーと、天海さんってぇとあの?」
「何を指して『あの』かは分からんがの。ワシが徳川将軍家を影で操ってたとか、妖の類という話なら全て作り話じゃぞ?」
「でも天海僧正って百歳以上生きて三代将軍家光の時代まで権力握ってたんですよね?」
「ほっほっほ。ワシらが仕えておった家康公が享年七十三。秀吉公は長生きであったが家光公に至っては五十前に身罷られておる。庶民ならば五十に届くほうが珍しかった時代じゃよ?百歳以上も生きると普通思うかの?」
だから妖説とかあるんじゃねぇか。
「この際だから言うてしまうが『天海』とは家康公に政治/軍事の献策を行なう知識人集団だったんじゃよ。その中の一人が『天海僧正』を名乗り表舞台に出ておった。年老いたり病になれば似た容姿の者が新しい『天海僧正』になる。これを知っておったのは家康公と家光公だけじゃがな」
ここでも秀忠は不憫なんか。
「そうするといくつか疑問なんですけど。貴方は何者なんですか?」
「簡単に言えばチーム天海の集合意識じゃな」
「で、そんな事、俺に話しちゃっていいんですか?」
「そなたらが触れ回っても誰一人信じまいよ。証拠は一切残しておらぬ」
「じゃあなんで俺にそんな話してくれたんです?」
「チーム天海は献策集団と言うたであろ?知識人集団として知恵を絞り主に策を献上する事こそが我らの望み。この時代に起こしてもらったそなたを新しい主と認めたというわけじゃ」
思わずアユミと顔を見合わせる。
「えーと、歴史の教科書に載るようなすごい人がコウ君の軍師についてくれた、くらいに思っとけばいいんじゃないかな?」
「まあそういう事じゃの。主の要望とあればいくらでも進言しよう」
「えーと、じゃあさあ。私の望む幸せに近づくにはどうしたらいいと思う?」
「差し当たりこれから近くの神社に行くことをお薦めするぞ」
なんでこいつらこんなに軽いんだろう?アユミのリクエストもあり、天海のおじいちゃんの言う通り近くにある大きな神社にむかった。
◇
「さすがに神様本人が顕現したりは……しないよな?」
「あ、私知ってる。そういうの『フラグ』って言うんでしょ?」
「不穏な事を言うのは止めなさい」
「だってここ、縁結びと家庭円満の神様を祀ってるんだし……」
なぜか急に顔を赤らめるアユミ。とにかく本殿に参拝する。
時間帯のせいか、辺りに人はいない。と、ボフッ……ボフッ……ボフッ……
ほらあ、やっぱり出てきたあ。いかにも益荒男って風情の神様は素戔嗚尊だろう。そうすると隣の和風美人さんは奇稲田姫命か。大きな袋を背負ってるのは大己貴命だろうな。一般には大国主命と言ったほうが分かりやすいだろう。
「おまっ、どうすんだよ?ホントに神様出てきちゃったじゃねぇか」
「ん?安心するがよい。我は分け御霊に過ぎぬよ。街の付喪神たちが少々騒がしくてな。これだけ大きな宮を構えておるとどうしても、な。まとめ役を引き受けておる。まあ町内会長くらいに思ってくれればよい」
いやいやいや。八岐大蛇伝説をはじめとして日本の神話のトップスリーに入るような神様なんでしょアナタ。いくら分け御霊でも町内会長はないでしょうに。
「それでこうしてヌシの前に顕現したのはな。この地の周辺の付喪神たちから議題が上がっておってな」
なんだろう、ものすごく嫌な予感しかしない。
『付喪神Oさん。ご主人が長年懸想しておるおなごとの仲が中々進展しないでじれったい。早く年貢を納めてほしい』
ちょっ。
『付喪神Kさん。ウチの店主が連れてきた男がヘタレで困る』
おい。
『付喪神Gさん。もっと踏んでくださいっ』
「だそうだぞ?」
アユミと顔を見合わせる。本日何回目だろう?
「ねえ、コウ君はどう思ったの?」
俺はアユミから目を逸らした。
「えーと。持ち帰って前向きに検討したいと思います」
そう言うと逃げるように神社を後にしたのだった。背後でアユミが『私たちの幸せ~』と言ってるのは聞こえないったら聞こえない。
◇
「ご主人。我慢は身体に毒であるぞ?さあ我を使ってくれっ」
勘弁してくれ。神社で神様に煽られてから一か月、俺はアユミと逢っていなかった。どんな顔してアユミに逢えばいいのか分からないって言うのもある。
様々なポーズを決める筋肉を鬱陶しく思ってたらアユミから電話が来た。
「あ、あのねコウ君。新しく入荷した物の中にコウ君に見てもらいたいのがあるんだけどいいかな?」
「ああ、いいぞ」
久しぶりにアユミの店のドアを開けると足元から荒い息づかいが聞こえた。ふと目を向けると大正時代のチャーミングレディから期待に満ちた目を向けられる。俺は踏まずに跨いだ。
「あああっ、踏んで、踏んでくださいぃぃっ」
「踏んであげなよ」
黒電話のおばちゃんまでそんな事を言う。俺の背後でポーズを決めてる筋肉は無視だ。
「あ、コウ君。呼び出しちゃってごめんね」
「お、おう」
「この万年筆なんだけど……」
むっ!確かに気配があるな?ボフッ
「吾輩は万年筆である。名前はまだない」
あーはいはい。
「むっ……お嬢さん、月が綺麗ですね」
こいつ、玄関マットにI love you って言いやがったぞ。だが玄関マットのほうは踏んで貰えなくて機嫌が悪いらしい。
「はあ?まだ昼間ですけどぉ?月なんて出てないですけどぉ??」
場の空気が凍り付いた。なんとなく気まずい中、意を決したように口を開いたのはアユミだった。
「コウ君って文筆業でしょ?だからプレゼントにって思ったの」
「あ、ああ。サンキューな」
さすがにイラネーとは言えない。
「それで本題なんだけど入荷した商品の中に気になるものがあって見てもらいたかったから……」
バックヤードの倉庫に行くと小さな箱が置いてあった。確かになんらかの気配がある。
「『手文庫』って言ってね。昔の道具箱っていうか文具入れみたいに使われていた物なんだけど……あ、あとは文箱にも使ってたんだったかな?」
手を添えてみると確かにいる。起きろ、と念じてみた。『ボフッ』っと出てきたのは二十台の和装の青年だった。
「呼び出されるとは思ってなかったな。僕が先生の持ち物だって事は内緒にしてたはずなんだけど?」
「先生っていうのはどなたなの?」
「吉田松陰先生だよ」
「「大物キタ!!」」
「先生の物だっていう証明が僕のどこかにあるんだけど、その証明をするには僕だけじゃダメなんだよねー」
色々話を聞いてみると萩に残っている書物が濃厚だと分かった。
「ねえコウ君。その……行ってみない?」
まあ、俺はフリーランスだからノートPCとモバイルWi-Fiだけあればどこでも仕事はできる。アユミの店もしばらく休業にしても構わないそうだ。だから俺たちは旅行に行く事にした。黒電話のおばちゃんに留守番を頼む。緊急時の連絡のためにスマホを契約して渡すととても嫌そうな顔をしたけど、事情が事情だから、と納得はしてくれた。
玄関マットは一緒に行くと言って聞かないので仕方なく連れていく事になった。おかげで交通費が一人分余計にかかる。俺の玩具は何度置いていこうとしてもいつの間にかカバンの中に潜みこんでくるので最終的に諦めた。パンツ一丁の筋肉についてこられるよりはマシだと自分を言い聞かせる事にする。それから文豪の万年筆も俺の胸ポケットに挿した。
お出かけ前日には天海のおじいちゃんに色々と助言をもらい、そうして俺たちは旅に出た。
◇
萩市内のホテルにシングルの部屋を二部屋取った。嫁入り前の娘さんと同室というわけにはいかない。
「……ヘタレ」
なんでだよっ。玄関マットは実体化を解いて元のマットに戻ってもらう。さすがに部屋代が嵩み過ぎる。電車ではしゃいでたからこのくらいは勘弁してもらおう。
大きなマットを抱えてのチェックインは初め不審がられたが、アユミがアンティークショップの名刺と古物商免許を提示して商談のための旅行と説明した事で納得された。
翌日、まずは松陰神社を訪れる。俺とアユミ、玄関マットと手文庫の四人組でだ。和装の青年と美少女の組み合わせと俺たちは一見するとダブルデートに見えなくもない。アユミがそっと手をつないでくる。ちょっ、指を絡めてくるなってば、恥ずかしいだろ。
俺の内心の動揺にも関わらずアユミはご機嫌だった。宝物殿では空振りだったけど、市内のいくつかの施設を見て回っている時に、手文庫がイキナリ興奮してショーケースのガラスを『バンッ』と叩いた。ショーケースの中には松陰が書いたとされる巻物が多数展示してあり、その一つの前で大興奮している。
「これです。この子ですっ」
学芸員さんがギョッとした顔で駆けつけてくる。
「お客様、館内ではお静かにお願いします」
はあ、すみません。手文庫をたしなめるも興奮は止まらない。ふとつないだままだった手が引っ張られる。振り返るとアユミが目で訴えてくる。
「大騒ぎになるぞ?」
「もうなりかけてるし、仕方ないんじゃない?今なら他のお客さんいないし」
大きなため息を付くとガラスケースに手をついて心の中で念じた。バフッ
「兄さん、探していたのはこれだろう?」
顕れた少年は手になんか紙を持っていた。学芸員さんは腰を抜かしている。まあそうなるよね。アユミが学芸員さんを助け起こした後、ここの最高責任者である館長を呼んできてくれることになった。これだけ常識外れな事が起きたんじゃそうなるよね。
「なぜ警報装置が働かないんだ?」
やってきた館長は開口一番にそういった。
「本来、ここで展示されていてしかるべき『物』だからだと思いますけど」
「いやだとしてもセンサーに反応が出るはずだろう?」
「そこは神だから、としか……」
そんなヤリトリの後、館長は一時臨時休館と警報装置オフを指示した。理解した訳ではないが取り合えず事態収拾のために色々な疑問は飲み込んだって感じだ。
警報装置を切った後、ガラスケースから出された巻物と手文庫、おまけの玄関マットを連れた俺たちは小さな会議室に通された。
「先生は捕まる前日に、僕の軸の部分に細工をしてこの紙を隠したんです」
「しかし、なんなのでしょう?この紙は?」
「たぶん『開け方』を書き記したものだと思います」
館長の疑問にアユミが答える。ボフッ。そのタイミングで手文庫が元の姿に戻る。
「裏側のこの留め金を外して……ひっくり返してここをずらして……再度裏返してこうスライドさせれば…」
「「「あっ!!」」」
手文庫は二重底になっていた。その内側にはなにか書いてある。
「たしかに松陰先生の署名がありますね…………こ、これはっ!」
一緒に見ていた学芸員さんも大興奮してる。何が書いてあったんです?
「これは幕末の歴史がひっくり返るような大発見ですよっ」
「「えっ?」」
俺とアユミの声がハモる。それから手文庫を引き取ってもらう交渉が始まった。
◇
本来の用件が想像以上に早く片付いたので、レンタカーを借りて秋吉台までドライブに来てみた。
「ホントに良かったのか?ただで寄贈しちゃって?」
「うん、天海のおじいちゃんも言ってたじゃない」
天海のじいさんの助言はこうだ。曰く『相手が金額を提示して引き取りたいと言ってきた場合は、多少上乗せした金額を要求すればいい。しかし、相手がいくらでも出すから譲って欲しいと言ってきたらただで寄贈しろ』との事。もちろん金銭的にはただでも条件を付けて、だ。その条件とは発見したものを大々的に公表する事、だった。それがどう作用するのかは俺には分からなかったけれども、アユミはそのアドバイスに従う事に決めた。そのアユミが立ち止まる。
「この商談が成功したら言おうとしてた事があるんだ。ねえコウ君。私ね、ずっと前からコウ君の事が好きでした」
「……あ、え?お、俺はお前の事はずっと妹分だと思ってて……そういう関係になっちゃいけないんだと思ってたんだが」
「そう答えるって知ってたから今まで黙ってた。でもずっと、私をオカズにしてたんでしょ?筋肉の塊からそう聞いてるよ??」
あのヤロウ。余計な事しゃべりやがってっ。視界の片隅に次々とポージングを変えていく筋肉が目に入った。無視だ無視、俺はそっと目を逸らす。
「あー、目を逸らしたっ、コウ君イヤラシイ」
クソっどうやって言い逃れようか。ぎゅむっ、っと音がしてアユミの顔が近づいた。足元から「もっと踏んでください~っ」って声が聞こえてくるがこれも無視だ。
小柄なアユミの事は普段は見下ろすような形になるが今だけはアユミの目線は俺と同じ高さにあった。目の前にいつになく真剣なアユミの瞳が写る。やれやれこりゃ全面降伏だなあ。
俺は参ったとばかりに両手を上げる。
「俺もずっと好きだったよ」
そのままどちらからともなく抱き合って唇を合わせたのだった。
◇
夜になってホテルに戻るとシングル二部屋をダブル一部屋に変更してもらった。玄関マットは元の姿に戻させると紐でグルグル巻きにしてクローゼットに放り込む。これで今晩は邪魔されないだろう。俺の玩具には文豪の万年筆を突き挿しておく。この状態で実体化したら大惨事だが、念には念を入れて、貴重品用金庫の中にぶち込んでおいた。
これで二人の初めての夜に邪魔は入らない。もっとも、甘々な雰囲気にはならずどこか茶化した空気になってしまったのは俺たちらしい。
翌日ホテルをチェックアウトした。え?昨夜はお楽しみでしたがそれが何か?
それから出雲大社に向かう。素戔嗚尊の分け御霊から、機会があれば本霊にも逢いに行ってくれって言われてたからね。萩の帰りに寄り道する事は初めから予定していた。
鳥居をくぐろうとしたところでスタッフに囲まれて中からなんか偉そうな人が出てくる。
「我が主神様から神託を賜っております」
そのままついてこいと言われる。えーと、ここ関係者以外立ち入り禁止なんじゃないかな?奥の広間に通されるとしばらくして、ボフッ
「「わっ!」」
「わはは。ようやくその気になったようだの。祝言の用意をして待っておったぞ」
はい?気が早いですってば。丁重に辞退すると一応は納得してくれた。
「うむ。やはり祝言は地元であげたいという気持ちはよく分かるぞ。我が分け御霊のところで祝言をあげるがよい」
訂正。分かってくれてない。
一通りの歓待を神様から受けた後、『結婚祝い』として刀を受け取った。【天叢雲剣】って書いてあるよ?コレ??
「心配するでない。模造刀じゃ」
いやいや、そうじゃなくて銃刀法違反になっちゃいますってば。
「ふむ。ならばこれならばどうじゃ?」
渡された刀はその場でスーっと小さくなり一見するとペーパーナイフのようなサイズになった。まあこれなら……
「刀の形をしておるがそれも我が分け御霊であるからな。破邪の護符として持つがよいぞ」
そりゃこんな武闘派の神様の破邪の護りならたいていの厄は祓えそうだよな。
「実は破邪だけではなくてな。物に宿った神を呼び起こすヌシの力、魔法使いを昨夜卒業したであろう?」
え?そうなの??ヤバいじゃん。
え?えーと??隣を見るとアユミの顔が真っ赤になってる。俺に向かって小さく『バカ』とか言ってくる。
「しかしな、その才、我は惜しいと思うのじゃ。付喪神たちにも慕われておるようだしの」
だからなんなんだ?
「我が力を貸してやろう。その刀を身に着けていれば、今まで通り力を使う事が出来るであろう」
ああ、それはありがたいな。これからの人生設計が昨夜アユミと話した通りに進められそうだ。
◇
旅行から帰ってきて、俺はアユミに正式にプロポーズした。アユミのほうは今まで賃貸物件だったお店を建物ごと買い取る事にしたそうだ。ちょうど二階は空き店舗だったので、大幅にリフォームして二階を俺たちの新居にする事にした。
萩で手文庫を寄贈した後、様々な大学や研究機関から表彰された。新聞にも『幕末の常識が変わる!』なんて見出しで大きく記事になったし取材もたくさん受けた。それで表彰されるって事は報奨金ももらえるわけだし、取材を受ければそれも報酬が入る。結果として、天海のおじいちゃんが言う通り萩で売り払うよりも桁違いにたくさんのお金になった。今回のリフォーム費用はここから出ている。
役所に婚姻届けを出した後、俺たちは新婚旅行に行く事にした。新居はしばらくリフォーム工事だし。ちなみに行先は南紀白浜だ。ホントは海外旅行に行きたかったけど付喪神たちのパスポートが取れないので断念した。付喪神たちを連れて行くのは出雲大社で言付けを頼まれてたって理由もある。交通費が余分にかかるのはこの際仕方がない。
行きがけに先にお使いをすますべく伊勢神宮に立ち寄った。ここでも入り口で職員に捕まって奥に通される。広い部屋に御馳走が並んでいた。俺とアユミ、それから玄関マットに黒電話のおばちゃん、万年筆の青年と筋肉。それに神社の職員さんが何人か。宴もたけなわになると、おばちゃんがくっちゃべり、玄関マットははぁはぁしてて筋肉は様々なポージングをしている賑やかながらもカオスな空間になる。
ふと見るとふすまが少し開いていて、そこから顔半分を覗かせてる女性がいた。職員さんたちが顔を見合わせるとこっそりと近づいて『そーぉいっ!』
「きゃっ」
「「!!」」
天の岩戸かいな。
「我が主神様は人見知りでしてなあ」
「あー、それで。実は出雲大社で言伝をお預かりしてるんですが」
「そ、それはなんと?」
「そのままの言葉で伝えますから怒らないでくださいね?『ねえちゃんもあんまり家に籠ってないでたまには外にでないと引きニートって呼ばれるぞ』だそうです」
「いやーっ、スサノオちゃんってばぁ、いじめないでぇ。しくしく」
この人、ホントに日本神話の最高神なんだろうか?
「コホン。改めまして、わたくしが天照大神。神と人が断絶してしまった今の世において神と人とのつながりを果たした貴方がたを歓迎しましょう」
それから宴が進み最後にうちの付喪神たちを一時的に預かってくれる事になった。
「たとえ短い期間でもわたくしのそばにいればその神気でそなたたちの神格もあがるでしょう」
俺もアユミも否やはない。せっかくの新婚旅行は二人っきりで楽しみたいからな。
◇
そうしてたどり着いた南紀白浜。海は綺麗だし温泉もある。オフシーズンなんで海水浴はできないけど、その代わり人が少なくて落ち着ける。
『幸せのピンクポスト』っていう恋人の聖地からお互いの両親への手紙を出したり、ついでに友人たちにも手紙を出したり。アユミがどうしてもっていうから自分ち用の絵ハガキも投函した。俺知ってるんだぜ、こういうのって将来黒歴史になるって。他にも観光名所を一通り見てまわったりした。
ホテルの部屋にも温泉があるので一緒に入ってイチャイチャしたり、美味しい海産物に舌鼓を打ちながらイチャイチャしたり、夜は当然イチャイチャしたり。
……ってイチャイチャしかしてないな。だってしょうがないじゃん。俺だって長い時間ガマンしてたんだし、ずっとガマンさせちゃったアユミはもうリミッターオフで甘えまくってくるし。
こうして約一週間の観光を終えて、俺たちは付喪神を引き取りに伊勢神宮に立ち寄った。
「……筋肉コワイ」
えーと、今のが日本神話最高神の第一声です。
「お前、ホントウに何やらかしたんだよっ」
「ふんっ……ん?我は筋肉美をアマテラス様に披露しただけだが?」
サイド トライセップスのポーズを決めながら筋肉が答える。
「ひっ」
それだけでこの国の最高神は怯えた顔になった。
「どうやら荒い性格の益荒男が弟君なので、マッチョ耐性が低いようだな?」
「分かってるんならやめたげなさいよっ」
アユミのツッコミが入る。バック ダブルバイセップスにポーズを変えた尻に容赦なく物理的に。
「それでお前ら神格は上がったのかよ?せっかくのアマテラス様のご厚意だぞ?」
この質問がまずかった。なぜなら黒電話のおばちゃんのおしゃべりが止まらなくなったのである。曰く『肌のシミが減った』『肌のハリがよくなった』等々。ドコの中高年向け化粧品だよ。
それ以外にも天照大神が踏まれる事に興味を持ってしまったり、深く考えたらイケナイ事が沢山あったので、付喪神を引き取って早々にお暇したのだった。
◇
俺が住んでいた1LDKの賃貸マンションは家具や家電が備え付けだったので、引っ越しはとても簡単だった。アユミの店のリフォームも終わり、明日には俺は新居に引っ越す。
「兄貴ーッ、ホントにコレ、もらっちゃっていいんッすか?」
「おお、俺にはもう必要ないからな、大事に使ってやってくれ」
引っ越し当日の朝、俺のところにやってきたのはいつぞや絡んできたヤンチャ高校生だ。
ボフッ
「ご主人、今まで世話になったな」
「ああ、いやまあ。俺のほうが世話になったよな?」
「うむ。ご主人、さようならダ」
「ああ、さよならだな。これからはソイツに可愛がってもらえよ」
「心得ておる」
結婚して使わなくなるからと言って捨てるのは忍びない。だから念のため声をかけてみたら喜んで取りに来る言うから譲る事にした。
「じゃあな、お前ら」
「うむ」
「ァザーーッス!!」
そう言って筋肉とヤンチャ高校生は我が家の玄関から出て行った。思えばアイツが最初だったんだよなぁ……
そんな風にシンミリしていると、部屋の外からなんか不審な音が聞こえ始めた。イヤな予感がしつつドアを開ける。両手をマンションの廊下の壁についた筋肉とそれに背後から覆いかぶさるヤンチャ高校生。
「おいってめぇら。場所ぉ考えろっ、家に帰ってからやれぇっ!!」
そんな笑い話もありつつ、俺はアユミとの新居に生活を移した。結婚式も素戔嗚尊の分け御霊が祀られてる神社で執り行ったのだが、思い出したくもない。
「コウ君。宅配が届いてるよ~」
アユミが荷物を持ってくる。中身は原稿用紙の束だった。
「何をするの?」
「ん?小説にチャレンジしてみようかと思って。今まで雑誌のコラムとかの仕事しかしてないし」
「でもわざわざ紙で?」
「あー、万年筆の付喪神がうるさいんだよ。パソコンじゃなくて手書きで書いてくれ、って」
「へえ。大変そうだけど頑張ってね。ところでどんな作品にするの?」
「ああ、タイトルはなあ。
『付喪神』
にするつもりだよ」
End
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