4.燃え盛る心臓
灰の谷を抜けた三人は、火の山の頂上へと続く最後の道を進んでいた。
道の両側には、純粋な炎の精霊たちが、彼らを祝福するかのように優しく舞っていた。
リラの髪は、精霊たちの輝きを浴びて、より一層鮮やかな赤色に燃え上がっていた。
ついに、彼らは山の頂上にある、巨大な洞窟の入り口にたどり着いた。
洞窟の中からは、脈動するような熱と、力強い光が漏れ出していた。
「あそこが…精霊王の待つ『燃え盛る心臓』だ」アウルが静かに言った。
彼の顔には、長年の研究が報われるという、深い感動が浮かんでいた。
セレスはリラの手を握った。
「ここまで来られたのは、君がいたからだ。
僕たちの力は、君の炎と一緒になって、初めて本当の力を発揮できた」
リラは、二人の顔を交互に見つめた。
かつては孤独だった彼女の隣に、自分を信じ、支えてくれるかけがえのない仲間がいる。
その絆こそが、彼女をここまで導いてくれたのだと実感した。
三人が洞窟の中へ足を踏み入れると、目の前に信じられない光景が広がっていた。
洞窟の中心には、巨大な炎の塊が、心臓のようにゆっくりと脈動していた。
それは、ただの炎ではない。
純粋な生命の輝き、そして、全てを包み込むような温かさに満ちていた。
それが、炎の精霊王だった。
精霊王は、リラを包み込むように、直接心に語りかけてきた。
『よくぞ来た、我らの子よ。お前の心は、強き炎となり、全ての試練を乗り越えた。
お前は、もはや我らの加護を『持つ』者ではない。お前自身が、加護そのものだ』
その瞬間、リラの体からまばゆい光が放たれた。
彼女の髪は、精霊王の炎と共鳴するように、さらに鮮やかに、そして力強く燃え上がった。
瞳の琥珀色は、精霊王の炎のように深く輝き、彼女の体中を、計り知れない力が駆け巡る。
それは、破壊の炎ではなく、生命を育み、世界を温める、真の加護の力だった。
リラは、自分の内なる力が、村一つを救うどころか、大地に恵みをもたらすほどの巨大なエネルギーであることを悟った。
「私の力……」
リラがそう呟くと、精霊王は優しく応えた。
『その力は、お前が選びし者たちと共にあることで、真の輝きを放つ。
その少年と、その賢者と共に、世界に調和をもたらすがよい』
リラは、セレスとアウルに顔を向けた。
セレスは、リラの輝きを畏怖と感動の眼差しで見つめ、アウルは、その現象を目の当たりにし、研究者としての生涯を捧げた甲斐があったと涙を流していた。
リラは、もはや「呪われた少女」ではなかった。
彼女は、セレスやアウルと共に、精霊と人間の架け橋となり、大地に再び恵みをもたらす、炎の精霊王の加護を体現する存在となったのだ。
彼らの旅は、今、終わりを告げた。
そしてそれは同時に、世界を巡る、新たな冒険の始まりでもあった。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
少しでもリラたちの物語を楽しんでいただけたら嬉しいです。
次回は、リラの故郷の町に戻る場面が描かれる予定です。お楽しみに!
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