出会い5
『誤解があるようなのではっきり言っておくが、わたしゃカベ様じゃ。どうもお主には神様と聞こえとるうようじゃが。』
『・・・ほう。神様じゃなくて カベ 様と・・・で、その カベ とはいかなる カベ なのでしょう?)』
神様でも カベ様 でも頭の中に直接声を響かせるのだから得体の知れないものには変わりない。
しかし カベ とは 壁 のことか?
『その通りじゃ。その壁じゃ。と言ってもお主にはわかりにくかろうから”空間”と言えば、わかってもらえるかのぉ?』
『(”空間”だって。 ・・・”空間””がカベ様・・・)』
『うむ。今宵はこのトルバーとやらに世話になるとよい。お主とは今宵ゆるりと話そうぞ。』
(壁様は声だけなので姿が見えないが、どうも口ぶりからふんぞり返って話をしているような印象を受ける。
『(わかりました。 それでは今晩に…。)』
(ごめん。トルバーさん途中から話聞こえてなかった。)
壁様とのやり取りが終り、トルバーさんに注意を向けるとちょうど彼の話が終わるところであった。
「・・・ということだから、今晩はここに泊まって明日出立するとよいのじゃ。」トルバーさんはルミーズさんに向かい いいよな? と視線で合図を送りながら確認していた。
「はいいはい。そうですよ森から外れていくとは言え、夜はやはり危険。今日はゆっくり休んでください。」ルミーズさんも優しく微笑みながら私に声をかけてくれる。
「では、お言葉に甘えさせていただきます。」
「ああ、是非そうするのじゃ。。夕食までは少し時間があるあっちに部屋を使ってもらうのでついてきてくれ。」
そういうとトルバーさんは椅子から立ち上がり玄関からすぐの空き部屋に案内してくれた。
「部屋の中の物は自由に使ってもらって構わんのじゃ。何か必要なものがあれば先ほどの部屋にいるので声をかけてくれればいいのじゃ。」
夕食までは少し時間がある。案内された部屋の中に荷物を放り込むと、ひとまずベットに仰向けに寝転ぶ。
(・・・壁様か。まあ不思議なこともあるものだ。)
そう思いながら少しうとうとしていたようだ。
部屋の扉がノックされたのに気づき慌てて返事をすると、トルバーさンが扉越しに
「夕食ができたのじゃ。こちらで一緒に食事じゃ。」
「はーい。今行きます。」返事を返しておいて、
(あ!そうだ。)
荷物の中から食べる機会がなさそうなインスタントカップラーメンを2つ取り出して、食事に向かう。
食卓に向かうとトルバーさん達はすでに席について、俺を待ってくれていた。
「ニタ。そこに座るのじゃ。」先ほど話していた時に座っていた同じ椅子に座るようにとトルバーさんが席を勧めてくれる。
「ええ。ありがとうございます。それより、こんな物で申し訳ないのですがと、手にした先ほどのインスタントカップラーメンをお二人に渡して簡単に説明する。
「これはカップラーメンと言う保存食です。食べるときには上の紙蓋をここから半分まではがしてお湯を入れたら、もう一度蓋を戻して3分そのままにして3分後先ほどの蓋をすべてめくって中身を食べてください。」私の言葉に合点が言ったのかトルバーさんは、
「干し肉を湯で戻すようなもんじゃな?」と言葉を返す。
(・・干し肉を湯で戻す がわからないけど・・)
「ええ、まあ、そんなところです。が時間は守ってくださいね。早くても遅くても大変ですから。」
汁を思いきり吸って伸びたラーメンや、固い麵は頂けない。
カップ麺を受け取った二人は上から下からあっち向けこっち向けいろんな角度から観察している。
いまにもフイルムをはがしそうな勢いなので
「食べるまでは、その状態で置いておいてくださいね。さもないと食べられなくなりますよ。」と釘を刺しておく。
「いやぁしかし初めて見るもんじゃでな。カップラーメンとはどんな食べ物なんじゃ?」
(あ、そうか。ラーメンになじみがないんだ。)
「その紙蓋に絵があるでしょ?」二人の持つカップ麺の蓋には調理済みの箸で麺を掬い上げた写真が印刷してある。
「ああ、これじゃな。ほうほう。こういう食べ物なんじゃな。」
ルミーズさんも俺の言葉に上蓋の写真を見ながら はー とか へーとか唸ってる。
本当に初めてなんだな。未知の食べ物を写真で見せられても味の想像なんて到底できない。
当然の反応か。
「よー判らんもんじゃが、ありがたく頂くとするよ。」トルバーさんとルミーズさんにお礼を言うと、
「じゃあ、次はわしらから食事のプレゼントじゃな。食べてくれ。」との言葉で夕食が始まった。
招かれた食卓には小さなパンが大きめの皿の上にたくさん盛られ、温かい野菜スープにたれをつけて焼かれた肉が薄く削がれて何枚も皿に盛ってある。
食前酒か、少し甘い香りのするどちらかと言えばワインに近い色味の飲み物。多分果実酒なのだろう。トルバーさんが俺用に用意されたグラスにゆっくりと注いでくれる。
「安酒だがね。ニヤマーシャという町の特産品なのじゃ。」
赤色に見えていたが、近くで見ればもっと深い紫色かな?
香りは相変わらず甘い感じ、勧められるままに一口付ける。
(ん~。思ったよりアルコール度数高そう。)
一口なのに喉の奥にカッと火が付いたようなのど越し。
そんな酒をトルバーさんは軽くあおる。
なんと、ルミーズさんも当然という顔でトルバーさんに続いて、二口三口で空けている。
(強いよこの人たち。)
まあ、助かったのは食前酒の位置づけだったようでそれ以上勧められることはなかったが、そのいっぱいで俺は結構きつい酔いに見舞われていて、食事を胃に流しこむのが大変だった。
祖陰で食事の時はお酒の話でひとしきり、さっきのお酒はやはりワインで間違いはないらしいが、ワインとしては標準的な強さらしい。ほかには強いお酒優しいお酒とお酒の種類もいくつかあって、好みが分かれるのだとか。食事を終えると食器をキッチンに持って行きルミーズさんの片づけを手伝ってから部屋に戻ることにした。
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