変人の家 18
ルーアは試験に関して正直ゲーム?と感じていた。今まで学習してきた内容から言えば拍子抜けしたというのが正しいが・・・
ただその一方、そんなことを知らないエミリーとタルカスはルーアに感心しきり。
我らこそしっかりと教育を受けてきたという自負があったのだが、俺は何となく腑に落ちたほとんど読み書きをする機会もなく、ある程度以上の貴族かよほどの役人か出ない限り書類の作成をすることもないようで、ヴァンス家ではその役をシュレッドかヤルマークしか担っていないようで、そもそもほとんど髪を見たことがない。ほとんどが木簡や動物の皮のような素材であったし筆記具自体が見かけなかった。実際こちらに来た荷物の目録は木簡様の木片に刻まれておりこの世界ではこれが普通のようである。
俺は黙ってルーアに向くと静かに頷いて、一言「あとは・・・」と言ってエミリーに視線を移す。
エミリーの方でも自然と俺に目が向いていたようで、ならばと俺が口を開きかければ、
(言わないほうが良い・・)と頭に響いてくる。
その声に思わずブリスの方を向いてしまったわけだが、その視線にエミリーが気付かないはずもなく、俺の視線がブリスに向いていることを知ると再び俺に視線を向けて
「何かあった?」と首を傾げながら言う。
確かに口を開きかけて急に視線を変えるなど不自然極まりないが・・・
「・・あ、いや・・ブレスがこっちをじっと見てたようなので何かあるのかな?・・・と」と、
「・・そう?」そんなこと?と言うような表情ながら、どこか腑に落ちていないと思われるように口にする。
(・・言わない方がとは。。何のことだ?)俺はエミリーのそんな返しに苦笑いしながらブレスに質問をぶつける。
(彼女・・ルーアの考えて良そうなことよ。)俺はこの世界の学習深度のことだとピンときた。
(そのこと。・・口にしないほうが良い。)
(わかってる。・・しかし俺はこの後、村で教育をしたいと思ってるのだが・・・それもか?)
(ああ・・それはいいんじゃない?)
ブレスとの無言のやり取りは結果として周りの人たちには不自然な間 として訝られたが、気にせず続けることにした。
「それでだ。・・俺がこっちに来る前に聞いていた・・え~っと、ヤンク村とショル村?に、読み書きを教えられればな・・・・と思っていてね。」
「う~ん。・・・・・村人たちに・・読み書きねぇ・・・・」俺の提案に腕組み姿になってしばし考えこむエミリー・・・が、
「村人に読み書きは必要かしら?」と真顔で言ってくる。(あ~、そこ。。。ね?)
「彼らに何か知らせる時なんかに立て札とかで立てればいいだけでは?」しかしそれには即
「そんな木片を用意するくらいなら、村人を集めて伝令に話させればいい。」とエミリー
なるほど、領主でも用意するのが面倒な木片(木簡類)を村人ならばもっと大変・・・とすればニーズがない?
(それに貴族の優位性が失われるのさ)ブリスの声が割って入る。俺はこれに思わず視線を向けそうになるが、ばれないよう無反応で「なるほどねぇ」と答えておいた。
「しかし、マコトが勝手にやる分には止めはしないが、ひつようせいはない・・・な。」
今の話を聞いてりゃ、読み書きおぼえても使うところがない。なので必要がない・・・ならば最初から無駄なことに時間を取らない。・・・と言うことだね。
「そうだね、エミリー。まあ、俺の気が向いたらってことにしとくよ。」
それからしばらくとりとめのない会話をしながら待っていれば人足たちが「終わりました」と伝えて来たので、自然と話は終わりエミリーたちは館へ戻ることに。
そして俺たちは玄関に積まれた残りの物をそれぞれの場所に運び込む。
「ふう。終わったね。」俺がルーアに言えば、彼女の方も丁度終わったようで
「はい。こちらも今終わりましたと最後の箱を棚にしまい終えて振り向くのでお互いにニコッと笑いかけてはリビングに向かう。
応接室のコップを片付けながら新しいお茶を淹れ直してリビングでゆったり二人の時間を過ごす。
「で、話は思い切り戻るけど・・・想力の話ね。」
「はい。」ルーアは軽~く返事をすると「いいですよ」といったので、
「決まっているわけではないけれどルーアの使う力って俺たちは 魔法 って呼ぶと思うんだ」
『魔法 ですか?」
「そうだね。魔法」
「魔 ってなんかイメージ悪いんですけど・・・」
「うん。俺もそう思う。けど何故か 魔法 っていうんだよね。」
「それで、その想力・・・魔力に何かあるんですか?」
そこで少し俺は考えて、
「これから先、秘匿していてもどこかで誰かに必ずばれる・・。」
「えぇ、そういう結果もあるでしょうね」
「その時、俺たちが仮に 想力と言う単語を使っていれば、察しの良い者はその概要にたどり着くかもしれない。」そう。まさに懸念すべきはここ。実際の発動に適性があるとか何が必要かとかの肝心な部分は俺達も正確にはわかってはいないのだけど。
「そうなると偶然でも 想力使い が生まれる可能性が高くなると・・・」
「そうだね。何がトリガーになるかがわからないけど、なるべくなら知られないほうが良いと思う。」
私の言葉にルーアはしばらく黙想していたが、何か掴んだのか顔を上げると
「私の始まりは女神さまに触れられたことによるのが大きいと思いますし、女神さまもそのように言っていたような・・・なので女神さまがカギとなっているのではと推測します。」どうやら最初に使えるようになった時のことを回想してその結果にたどり着いたようであるが、
「ルーアの言う女神さまって・・・壁様だよな?」
「はい。森で出会った女神さまです。」
いや、どうも俺には小汚いただの老人くらいにしか見えないんだが・・・
俺は気を取り直して話を続ける。
「その 想力 を 魔力 と呼び変えるにあたって、単純に 想力 にたどり着けないように設定が必要かと思う。」その設定によって魔力と言うものが何か特別で、その力を使うのか変換なのかして現象を生み出しているとかいうようにね。
「例えば、どういう風にですか?」
俺が知っている?と言うよりイメージから出る魔法は大きく二つ。
一つ目は、魔法使いがその生まれつきの能力の一つとして駆使する魔力
二つ目は、魔力の元となる何かを呪文を唱えることによって発動と言う形をとる魔力
出来ることなら一つ目の設定にしてしまうのが手っ取り早くほかの人にはできないよと言う理由としては簡単なんだが、これになれば、俺とルーアは人外と言うことになってしまうので避けたい。
なのでやむを得ず二つ目と言うことになるのだが、そうなると設定がいちいち細かくなってくる気しかしない。
魔力の元になる何かを何に求めるか?
呪文のような文言をその役割っぽく演出しなきゃいけないから、その発動する内容に応じていちいち考えないといけなくなる?
でも実際は、魔力の元は自身のイメージ力だし、発動もイメージ通り。
逆に考えた呪文を唱えているとイメージが壊れて続かなくなるので発動からは遠ざかってしまいそう。
あーだから詠唱省略とか、無詠唱とかいう考え方や言葉があるのか。
俺はそこまで考えてからルーアに向かって、二つ目の魔力(魔法)の考察を説明する。
「と言うことは・・私達は本当は呪文を唱えて魔法を使わないといけないけれど、その段階を通り過ぎて無詠唱でやってますってことですね?」
「そういうことになるね。 で、それっぽく魔術書みたいなのを・・・作る?」
うわぁ多分ものすごく嫌そうな顔になってるだろうなぁ
「・・・そうしないと、辻褄が合わなくなるんでしょうね。」どうやらルーアの肩も落ちたようだ。
仕事量の増加が予想されるのは容易だからね。




