変人の家 13
それからもしばらく女神さまによるルーアの特訓が続いた。
しっかしルーアの集中力には、毎度驚かされる。
『その調子よ。どこまで飛ばしたいの? どのような形で当てましょうか?それができないと水滴は当たらないわよ』
もうルーアは水滴を生成し、矢のように飛ばすところまでできている。が途中で霧散しているのがほとんどなんだ。
その原因を女神さまはイメージの欠如と言った。ルーアは水滴を作って飛ばすのはできる。それでどうしようかと言うのがはっきり彼女の中でないようなんだ。
『まあ、今日のところはここで終わりましょう。私も少し手を貸しましたので比較的スムースに行ったと思いますが、これを一人でできるようになるまで続けなさい。・・それと』
女神さまは俺に向き直ると、『今回は水じゃったが、水についての知識をお主がしっかりと教えておくのじゃ。水は何かと言うことをな。その知識は想力に半値以されるはずじゃ。水に対する理解力がな。』
(俺の時も女神さまで居てくんないかな?)
『フ・・ハハ。それはお主次第じゃ。お主の固定観念がこの姿なんじゃからな。』
「ありがとうございました。女神様・・・」
『はい。よく頑張りました。精進するのですよ。』
「いつの間にか森も怖くなくなっていたろう?」帰り道でルーアにそう尋ねると、
「そうですね?・・でも不思議。今は森がやさしく思えて。」
「しかも、女神な爺さんとも仲良くなれたようだしな。」
「それって・・失礼ですよ。女神さまに。」
「でさ。お願いがあるんだけど、ルーアが見えてた女神さまってどんな感じだったの?描いてもらえない?」本当に知りたいよね。女性が思わずうっとりする女神さまってどんな感じなんだって。
俺からすればルーアもそこそこ・・嫌多分に奇麗だとは思うんだが・・・
「う~ん。絵にですか?おそらく絵師でも無理ですよ。絵に描けないと思います。」
「そう?絵にも描けない美しさ・・と言うやつか。」
「それもありますけど・・・、わたし絵心ないんで。」
(・・そっちね)
ルーアはその日から想力の訓練に余念なく、暇ある時には絶えず何かイメージをしているそんな日が続いた。
一方俺の方は、「人間鍛えれば・・」の精神が強かったのか壁様の話の後も俺たちになじみの深い魔法と言うものの概念がつかめずもっぱら変わらずの体を使う方面にしか能力が開花せず、あえて言うならば飛行術のみ何とかイメージができて・・・しかしそれでも、あーでもない。こーでもない。と試行錯誤の連続で一朝一石にはいかないものだと痛感する。
さて、森に向かう前に家の中で発見できた部屋であるが、庭が光る・・光った原因については、いまだ解明しないものの、新たに見つけた地下室に眠るお宝にはずいぶん驚かされたと同時に、助けられる。
大量にあったのはDIY道具、そして銃器、弾薬。
とりわけ日曜大工に必要な道具については一見したところかなり揃っているようであり、ありがたいことに砥石やら油もそこそこあった。一部金物についてはおそらくこの家や馬小屋を建てたときのあまりであろうが、少しばかりある。ので工夫して使えば当面は、苦労せずにいけそうだ。
とにもかくにも、ここに(この世界に地球産の品物を大量に集積出来たのかが最大の謎であるが、残されたノートを中心にしっかり目を通して行けば何かわかるかもしれない。
それから俺は午前は森へ、午後は家で様々なことを処置していく日々となった。
そして今日は珍しくルーアを伴って森へ出かける。
ルーアも壁様事件以来森を怖がる素振りすら見せず、ともすれば森の木の地面からせり出している根っこに腰かけたりして想力訓練にいそしむ日々だったりしていた。
なので今日は森の奥まで行ってみようということになり、朝半ばピクニック気分でお弁当を持って森の深部へひたすら歩いている。
俺は、木の上に駆けあがり比較的遠くを見渡せる高さの枝を選んで飛び移りながら、ルーアのほどに合わせて進む。さながら要人警護の忍びというところか。
一歩ルーアは自身の頭上1mほどのところに手のひらほどの大きさの炎を、ふわふわと浮かべて、時折俺の居場所を確認するように上を振り向いたかと思えば、にこっと微笑みまた歩く。
あんまり気になるものだから一旦地上に降りてルーアの後ろに近づくと、ルーアは俺の方を見もしないのに、俺との中間辺りに浮かべた焔を ススーと流れるように動かしてピタッと止まる。
(ほへー)これにはちょっと驚き。特に気配をどうこうした覚えはないがバタバタと音を出してるわけでもなく。
「俺の位置をずっと把握してるってこと?」たまらず聞くとルーアは振り向きもせず前を見て歩きながら「えぇ。木の上を移動しているときも常に気配を感知してますよ。」と楽しげに言う。
「じゃあちょっと遊んでみる?」ルーアにそう提案するとルーアは立ち止まって、
「遊びって何をするんですか?」
「ルーアと俺で模擬戦でもしてみない?」
「模擬戦ですか?・・・う~ん。どういうルールにします?」まんざらでもない様子で乗ってくる。
「俺がルーアに触れるか、ルーアが俺に攻撃を当てるってのはどう?」
「確か女性の体に触れるのは・・セクハラ?とかいいませんでした?」と意地悪そうにジト目で俺を見る。
(いや。・・一体全体どこれセクハラなんて言葉を・・・?)ちょっと汗
「だって俺、体術だし。ルーアは想力だから・・」言わんでもわかってるだろ?・・・なんだが
「攻撃って当てちゃっていいんですか?ケガするかもしれませんよ。」と真顔で答える。
(確かにルーアが想力訓練頑張っていたのは知ってるけど・・そこまで上手くなったの?)
「その想力、強さとかの加減出来るでしょ?」
「できますよ。」即答ルーア
「じゃあ、怪我しない程度に加減してもらっていい?」
「・・・う~ん。分かりました。」しゃーないなぁルーア「仁多様も木を倒したり地面掘り上げたり力業は控えてくださいね?」
(しないでね。とか言わないのがちょっと気になるけれど・・・)
「もちろん。・・・では、いったん距離を開けてからスタートで良いね?」
「はい。じゃあ大体60カウント後で・・」
「了解。では、」俺は言葉が終わるか終わらないかで、素早く移動を開始する。俺の感覚では相手は俺の残像を見ているはず・・・
「じゃ、・・・」と言いながらルーアはこっちにまっすぐ向いて手を振っている。しかも胸のすぐ前で両手をフリフリしながら、
(・・・え?・・目で追われてる・・・の?)ルーアの視界から隠れるように木の幹の裏側に回って、次の移動位置を素早く探す。まずはまっすぐ上この機を障害物にして・・・上の枝、上の枝へと飛び移りいいところで別の木へ、高さ、も逐次変えながら、姿を極力隠して・・(あと40秒くらいか?)
念のため、位置をどんどんかけるルーアとの距離もばっちり、途中の木々が視界を塞いでいるはずだし、
と言うことで次は攻撃位置に移動できるようルーアからの距離を保ったっママ背後になるであろう場所を目指す。
(・・あと10秒ほど・・)
一本の木の絵で少し高めの辺りに位置して周囲を確認する。
(うん。大丈夫そう・・・)と持った瞬間背中をゾクゾクッとい嫌な感覚が流れる。
(気づかれてる?・・・・0秒、スタートでいいいか。)
左右を確認して、(・・よし移動。)と重心を移動しかけて時、目の前に小さな焔。
(・・・え?・・)このままではまずいと重力に身を任せて落下 焔からの離脱を試みる。
落下しながら下の枝を確認して腕を伸ばしてつかむ準備・・追ってくる焔を確認すれば少々距離が取れた模様。そのまま枝を掴んで回転に変えてさらに次の枝にジャンプ。ちらっと後方を見るが・・・(よし・・撒いたか?)と安心したのも束の間、焔は水滴に姿を変えて下方から穿ってくる。
「ウオッ・・と・・」思わず声に出るほど厳しい回避、一気に身を捻って何とかやり過ごす。水滴は木の脇を通ってものすごい勢いで去っていく。それを目の端で追いながら再び枝を飛び伝って高さを稼ぐ。
最後の枝を両手でキャッチし、そのまま体を振って回転力として足が上を向く直前に手を放す。そうすれば足を先頭に奇麗に情報の枝に向かえる。・・・
が、その姿勢で視界に地面を捉えた瞬間、これまた下から追ってくる・・今度は土くれ?泥団子?
迫りくる枝を脚が越え、体が越えて近づく腕でつかむと再び回転エネルギーに変えて少々無理しながら隣の枝に・・・と髪を少し風圧が襲う。(やベッ・・掠った。)
しかしその時にはすでに先ほどルーアがいたところの極近距離。
(ルーアは・・・)枝から枝へと移りながら姿を探す。
(どこ?・・・)・・・ヒュン。・・ゴッ!転回地点に近づくたびに超至近弾・・焔だったり、土くれ、水滴だったり、時には視認する間もなくただ至近弾をその風圧で感じたり。
(やベッ・・やべっ・・)最早いやな汗しか流れていない。
(もういい加減・・・ヘトヘト・・)次の枝を掴む瞬間、津の根元に身を隠すように・・されどじっと動かず・・(集中・・していて周りが見えていない?・・・)
遠目ではよく確認できなかったが、どうやら目を閉じて集中している様子。
(チャンス!・・ターゲットロックオン!・・行く!)そこからは瞬殺、ルーアに向けて木の幹をタン!タン!タン!と蹴りながら加速して一気に距離を詰める。
(もらったぁー!)ぐんぐん迫りくるルーアの姿、後方からは少し大きくなった土くれ。
(・・・俺の方が早い。)
ペシッ・・・・ずるずる・・・・




