変人の家 10
奥の扉を開ける。同じ引き戸なんだが、こっちから見れば押す格好になる状態
カチャッ
こちらも拍子抜けするほどに、スムースに開く。
10m程の直線の後、右方向にゆっくりとカーブを描きながら通路は続く。
数mおきに、アクリルチューブの様なものが地上に向かって埋め込まれておりそこからわずかに光が漏れ伝わってくるようでかすかに明るく、試しに懐中電灯を消してみたが、壁伝いなら難なく通れそうな明るさは保っている。
よく、地上からこの採光窓?が見えなかったものだ。と感心する。
体感で90度ほど向きを変えたところであとはひたすらまっすぐな通路となる。
(左・・右・・直進・・)
曲がり終えたあとは緩やかな・・本当に緩やかな上り坂。勾配率にして2~3パーセントくらい?気付かないくらいの緩やかさで続く。
かなり歩いたその上り坂の先は一段低くなっていて2畳ほどの広さを持った空間が現れる。
(この部屋はやや下り?)しかし体感は難しいくらいの傾斜が設けられているようで、どうも先ほどの段差が一番高くなっているよう。
しかも残念ながら、この部屋が終点であったようでその先へと続く通路は見つけ出せない。
もちろん懐中電灯で隈なく探すが・・・部屋の傾斜の先には握りこぶしほどの小さな穴が・・
これは排水溝(穴)と考えたほうがスマートかもしれない。事実部屋の両端には溝らしきものが掘ってあり排水溝で間違いないと思われた。
床面に何もないとみれば、次は壁、そして天井へと懐中電灯の灯りはゆっくりと動いて行く。
「なにもないですね・・」ルーアから気落ちした声が漏れる。
灯りが照らし出した天井にはしっかりと木の板で天井が作られており・・・
(ん?・・・・あれは・・)
板と板の間に隙間と言うか線が現れるのは解る。が、父子以前なところに直交する隙間・・
(これは明らかに開閉扉じゃないのか?)
このままでは背が届かないし、何か届く様なもの・・棒とか。
そんなものも持ってきていない。 ふとルーアを見る。ルーアも灯りが照らし出した箇所を見ており違和感には気づいているよう。
「あれきっと、開きますよね?」
「うん。・・多分。明らかに人が通れるくらいの大きさの四角形だもんね。」
そう。例えるなら床下収納の扉が天井に張り付いているようなイメージ
「俺がルーアを肩車する運で探ってみてくれる?」
「いやです」即答である。
(・・・なんで?)
「恥ずかしじゃないですか。・・そんな・・私もまだうら若き・・・ですよ。」
(いや何もそんな気は・・・)とは思ってみたが、確かに恥ずかしい格好だよな・・とちょっと想像して思い当たった。
部屋がそんなに明るくなくてよかった。多分俺もルーアもかなり赤くなっていたんでは・・・
「なら、仁多さんがそこで馬になってください。」
(・・う・・ま?・・)
「そこに四つん這いになってっもらって私がその上に上がって天井見てみます。」
「あ。・・馬ね。じゃあ、お願いするね。」俺はさっそくちょうど良さそうな場所で膝を付いて馬になる。
「いいよ。」
「じゃあ、乗りますね。・・・絶対上・・見ないでくださいね。」
俺の背に片足が乗り、続けてもう一方の足が乗る。
(・・意外と・・・・軽い。)
「重いとか思ってます?」声は柔らかだが口調が厳しい。
「ん?いや、全然」もし、もしも本当に重くても正直に言えないのはこんな場面だよね。
でも噓を言わなくてすんだ。実際に重いと感じないからね。
「上、見ちゃだめですよ。」念を押す様に強めの口調で再度言われる。
「はい。動きません。」
ルーアはひとしきり天井の四角の辺りを探っていたが、
「どうしたらいいと思います?」と困った口調
「どこかの辺を上に押すか、左右にスライドさせてみるとか・・」
「一応押してるんですけど、こっちは・・おっもー。」どうやらかなり重量があるのか?
「念のためほかの辺も順に押してみて。」
「はい。」押してもだめなら・・・と言う言葉もあるが、
「あっ!何か浮きました。」先程とは違う辺を押していたルーアが軽く叫ぶ。
「こっちですね?あ。この『辺』だ。」開いたという声に思わず上を向きそうになるが、
「前だけ向いてて下さい。」と警告の声が飛ぶ。
(・・・・・はい。)
どうやら天井扉は上向きに上がる様子で、ルーアが俺の背中でつま先立ちになったよう。
おそらく背が届かなくなりそうで背伸びした。ってかんじかな?
確かに重くないとは言ったが、つま先立ちは一転に力が集中するから地味に痛い。
(『痛い。』は言ってもいいのか?)汗、 汗、 汗
扉がすべて開き終わると、るーがが俺の背からピョンと飛び降りる。
(・・だからぁ、飛び降りたらその一瞬すごく痛いのよ。)
スカートなどを直しながら天井を向いて「あんな感じです。」と明けた天井板を指さす。
一辺が蝶番で固定され、天井裏側に押し上げてやる仕組みのよう。
おそらく一番細工が容易なつくりなのかも知れない。
「よっこらしょ。」掛け声に合わせて地面から立ち上がる。そして明けた天井板の下まで行くと届かぬまでも、その中の様子をじっくりと見る。懐中電灯で照らしながら天井板から土の天井までの距離を見定める。1mくらいは有ろうか?
ルーアに天井の穴を照らす様にと懐中電灯を預けて、飛び上がりすぎないように穴の中央を目指して、ひょっと跳躍。
天井板を支える梁部分に手をかけて中を覗けるように懸垂で上がる。
(強度は十分)「灯りをちょうだい。」
片手をルーアに伸ばして懐中電灯を受け取る。
天井裏を照らしてよく見てみる。
天上裏には約1mの隙間人が四つん這いで這って行けば余裕で通れそう。
ちなみに天井裏の通路?は先ほどの通路の続きのように同じ方向に延びている。
と、天井扉を開けた脇には縄梯子が、
するすると降ろしてみればしっかりと下まで届く長さ。
(なるほどこれを引き上げておけば、誰も通れないよな。で、板を閉じれば・・気づきにくい・・か。)
「あがってくるか?そこでまってるか?」
「上がります上がります。ちょっと待っててください。」言うが早いかルーアがさっそくと縄梯子を握り足をかけるが・・・
縄梯子って思った以上に昇り降りしにくいんだよね。下が固定されないからふらふらして。
上がってきたルーアの手を取り天井裏に引き上げる。
「ありがとうございます」結構きつかったようでちょっと息切らしかけ?
「よし、、じゃあ。多分もう少しだと思うから」
「はい。」
灯りで照らすと先の通路はそんなに長くない。
とにかく突き当りまで進む。
(へえ。ここにもこんな工夫。)
突き当りには人一人が立てるほどに下向きに彫り込まれていて・・・上からかすかに光が漏れている。
「・・・出口だね。」
今度は手が届くし、階段様の段が作ってある。天井にもなっている板をめくると・・・
(・・森の中・・だったか。)
外に出て周囲を見回して見ると、出てきた扉は森の深部方向に開いた大木のうろに隠れるように作られており、森の周囲からは見つかりにくい。
(上手くできてるわ‥。)思わず感心せずにはおられない。
振り返ってみれば、家は大分後ろの方に・・そりゃそうだここは森の中だからね。
ルーアは目を見開いて固まっている。
「・・・・」
「おーい。ルーア?・・・」
呼びかけに我に返ると「・・も・・り・・の中ですよね?」と静かにつっくりと確認するように口にする。
俺は何となく笑みを浮かべて、「そのようだね。10mくらいはしっかり入り込んでるね。」
現実に改めて気づき、青ざめていくルーア。
両肩にやさしく手を置いて、「落ち着いて」と
黙って頷きながら周囲の大木をまっじまじと観察し更に圧倒される様子のルーア。
(なんか震えてきてる・・・よな?)
「深呼吸。ゆっくりとね。」なるだけ緊張させないように軽ーく話しかけゆっくりと深呼吸を・・・
「はい。・・・ふぅーっ・・・ふぅーっ・・」
それほどまでに畏怖の対象なのか?この森は・・
『・・仕方あるまい。』なんか聞きなれた声・・
『あ。久しぶりです。』心の中で応える。
『・・久しぶり?・・いや、そこまではないと思うが…』
『(そんな、感じか?まあ、いいいや)森に来れば聞こえるんだ。』
『まあ、わしが森から出れんからのぉ。それより戻ってきたんかな?』
何か声がうれしそう。
『いいえ、特にそんな意図はなかったんですが…』
『なんじゃ、寂しいのぉ・・』




