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変人の家 7

「これが今週分の食料他、になります。」ヤルマークから今回輸送された食料などの目録を受け取り一応の目を通す。

ニッコニコでちょうど通りかかるルーアを呼び止めながら、

「うん、ありがとう。ルーア 確認と収納を宜しく。俺も後で手伝うよ。」ルーアに受け取った目録を手渡しながら声を掛けヤルマークたちを伴って応接室に向かう。

「はい。了解です。確認済ませます。」受け取ったルーアは目録にサッと目を通しながら表の馬車に向かった。


ところでエレノアさん達は元気ですか?」応接室でヤルマークたちに席を勧めながら無難な会話に終始する。

「はい。万事問題なく、・・何か気になることでも?」とはいえヤルマークには何か引っかかるところがあると見える。

「いえ。特に何がと言う訳ではないのですがね。」人数分のお茶を淹れながら背中越しにそう答え、

「BPのこともあるんでね。」と言うと、ヤルマークは、ああ と言う感じで、

「BPはエミリーお嬢様と常に行動を共にしてますね。成長が早いというか・・・」

「成長が早い?・・・」成長が早いのは解る。本人?からそう説明と言うか話を聞いている。

「ええ、おそらくもう成獣になっているのかと」

(もうそこまで・・)聞いてはいたが・・さすがに早いだろ?

「では、エミリーもさぞ驚いているんでは?」

「いいえ、それがそれほどでもなく。・・当たり前のことだと」ヤルマークが少々困惑気味に答える。

皆にお茶を提供しながら、俺も対面したソファに腰かける。

「当たり前ですか?」

「あ、その前にBPさんはすでに名をかえられて、『ブリス』と呼ばれております。」

「ほー。『ブリス』・・か。」(さすがに俺よりはネーミングセンスは良いね)

「ええ、お嬢様が申されるにはそのブリスから聞いたんだと。」

「・・・なるほどね」(順調に交流できているわけだ。)


「ところで、仁多殿はいつもこのようにお茶を自ら?」我慢できないのか、ロットヘルムがそう尋ねて来る。

(まあ、この世界では完全にメイドの仕事だものね?)

「ああ、もちろんだよ。ルーアにもやってもらうことはあるけれど、自分でやれるところは自分でね。」

「何か狙いでも?・・・」伺うように少し声を潜めて聞いてくる。その問いについてはヤルマークも同意のようで身を乗りだしてくるが、

「ん?・・狙い??。」俺にはその方が意味が解らない。(狙いがあると思われるものか?)

「そうです。メイドにやらせないことになにか?・・・」

「いや。何もないよ。強いて言えば「雇用状況の改善」ってやつだね。」何でもないと首を横に振りながら、

「『雇用状況の改善』ですか?」合点がいかないだろうね。

「現状、ここにメイドはルーアしかいない。でも彼女も実質は、ヴァンス家のメイド。」

何か重要な発表を聞いてるのかこの二人は・・うんうんと頷く二人。・・異常なほどの食いつき

「俺のメイドじゃない。その前にメイドも一つの仕事に過ぎず労働には条件を付ける必要がある。」

「労働に・・条件ですと?」ヤルマークが解らないといった表情で俺を見返す。

「ええ、奴隷じゃないんだ。勤務時間を決めて、それに応じた賃金を払い、時間中はしっかり働いて、休日にはしっかり休む。それが俺の考え方ね。」

「時間を決めて働き、休みの日ですか?」

「君は、ずっと全力で剣を振れるかい?」ロットヘルムにいたずらな質問を投げる。

「・・むり・・ですね。」

「誰でも働きづめだと疲れるし、何より集中力が低下する。そうなると、効率が落ちる。」だよね?

と言った意味で話の間を取る。

「それに誰でもやりたいことの一つや二つあると思うんだ。それを休日にできるということは、心の潤いにもなるのではないかな?・・・単に体を休めるというのでもいいし。」


それからしばらく俺流の『雇用状況の改善』について語り、二人からは屈託のない意見が。

「だから、結論的には俺はルーアも一人の人として対等に向き合ってるんだよ。」

「・・なるほど。では、より深く仕えるために必要な手法と・・・?」

(・・仕える?・・手法?・・違うよ。)


コンコン、応接室の扉がノックされ外から声がかけられる。

「どうぞ。」ルーアがスッと扉を開けて軽く一礼。自然と見なの注目が集まる。

「荷物の確認終わりました。問題ありません。」そう言うと再び扉の外に出ようとするので、

「あ、待ってルーア。」ルーアは何?と言う表情に一瞬なったがお客人の居る状況、一応メイドの立場として「はい。」と短く応える。

「何かございますか?」

「ルーアもこっちに来て話に入ってよ?」その呼び掛けに驚いたのはルーア本人だけでなく、ヤルマークもロットヘルムも・・

「・・・いえ、しかし・・」予期せぬ声掛けにどうして良いものか困惑するルーア。

「いいから、こっちに。」そう言うとやむなしと、俺の後ろメイドの定立ち位置?に来ようとするが、

「ここに腰かけて。」と俺の座っている側の開いてるほうを指し示す。

「「ほー」」ヤルマークとロットヘルムの二人がほぼ同時に感心する。

もちろんヴァンス邸においてはやってはいけないこと主人たちと同じテーブルに着くというのはそれだけでも不敬なのだ。

しばらく躊躇するルーアであったが、思い切りよく ちょこん とソファに腰かける。

ルーアが腰かけたのを見て、俺がお茶を淹れ直すために立ち上がる。

「ルーアもお茶でいいかい?」

わずかに怒気を含む対面の二人から目をそらして動けなくなっているルーアではあったが、

「はい」と小さくなった声でかろうじて応じる。

「仁多殿。・・これは・・・」二人は腰掛けたルーアから俺に目線を移して問いかける。

俺は半ば知らんぷりでお茶を淹れ直しながらルーアの分も追加して席に戻る。

「ルーアも一人の人間だってことですよ。」席に座り直して、改めて淹れ直したお茶をそれぞれの前に並べて手で『どうぞ』と勧める。

「しかし、それでは・・あまりにも・・不敬ではないか?」俺がお茶淹れをしたことか?

「ええ、他所ではそうかもしれません。 しかしここは二人の住まい・・私の家・・まあ、借り物ですがね。そこでどういうルールを作ろうが私の信念から外れない限り問題ないと思いますが?」

「うむ。それには違いはないが・・」

「では改めてお伺いします。彼女とあなた方の違いは?」

「彼女はメイド。我らはヴァンス家の家令と騎士。身分が違う。」

「ではその身分の違いはどこから?」

「出自、教養、やはり一番は血筋かの?・・」とはヤルマークの答え

「ほう、ではロットヘルム卿も同じ意見で?」

「私の場合は、小さき頃よりの鍛錬と学業を修めた結果、騎士となった。」

「なるほど?では昔からの騎士のご家系で?」

「・・・いや。・・ちがう。」

「俺はこう考えるのです。」可能な限り静かに言葉を始める。ひと時ルーアに微笑みかけて、

「仮に領民の全てがすべからく教育を受けられるとすれば、生活の質も上がり、領も富む。」

「領が富めば、人が増え、更に大きくなる。」

「それはもっともかとは思うが、先ほどの答えになっておらん。」

「あ、そうですね。教養があり職業が選べるならば誰もが上を目指せるということです。」

「それが・・ルーアにあるとでも?」二人がちらっとルーアを見る。

「もちろんです。彼女には実際やる気があります。」

「しかし、やる気だけではなぁ・・・」

「そう。やる気だけでは・・です。なので教育の機会を与えたい。」

「教育を・・ですか?」

「手始めに、この近くに村があるそうで、そこを使わせてほしい。」

「お考えはわかりました。 エレノア様にお伝えして回答いたします。」








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