ヴェルムヘルム領 12
翌朝、エレノアさん、エミリーとともに食事を摂って部屋にいるとすぐに下僕がやってきて荷物の積み込みに入った。俺の荷物はほとんどないし、問題はルーア。確認しておけばよかったが昨晩はそこまで気が回らなかった。
それでも女の子そこそこはあるとは思うが・・・荷物と一緒に玄関に出てみると、2頭曳きの馬車一両にから馬3頭・・・から・・・空???
馬の背に荷物がそこそこ積まれてるね。馬車の天井にも・・一杯。
馬車の中を覗いてみればとりあえず2席分は空けてあるがそれ以外はそこそこ一杯。
兵士は騎馬が2に徒歩が1の3名。だけど徒歩の人が御者か?そうだよな。
でルーアはと・・・
「これもどこかに載りませんか?・・あっちとか?」何やら荷物の積み方に下僕といろいろ話し合って・・・じゃなくて載り切れない荷物をどこかに押し込もうってか?
「・・ルーア?一応聞くが・・ルーアの荷物ってどれ?」
「えぇ~っと。・・あれと・・あっちのと・・あそこの・・と、これですね。」
あれは馬の背一頭目、あっちのは馬の背2頭目、あそこのは馬の背3頭目とこれは馬車の上
で俺の荷物は俺の席の横家財道具はルーアの座る席の横・・だけ?
(家財道具ってタンスみたいなのも想像してたけど籐籠みたいな箱なんだ。)
さすがにこの時代に冷蔵庫とか、洗濯機とかテレビとか炊飯器みたいな大型家電はないのは解るからそんなに荷物はないだろうと思っていたのに・・・ってかこれほとんどルーアの荷物???
いざ出発の時刻になり見送りに出てきてくれた家人の皆さんと軽く挨拶をしながら馬車に向かう。
エレノアさんもエミリーも荷物の多さに目を丸くしていたが『道中大丈夫?』と心配の声を掛けてくれるにとどまり、シュレッドやヤルマークに至っては見えていないといった雰囲気一切荷物に触れてこない。
騎士隊の人たちからは、特にロットヘルムから『寂しくなるな。 またな。』と惜しむ声
当のルーアはメイド長らしき人に荷物のことで、お叱りを受けている模様。
(ああ・・後ろにいる下僕たちも何か言いたそう・・)
俺が馬車の入り口前に立ってルーアを達を見ていることにメイド長らしき人が気付くと、ルーアに何か一言言って馬車(俺の方)を指さす。
(『待たせてはいけません。』とか言われてんだろな?)
ルーアは馬車の方を振り返り『ハッ』としたような表情の後メイド長にペコペコとお辞儀をしつつこちらに駆け寄ってくる。
「すみません。お待たせしました。」少し息を切らせ気味で肩で息をしながら慌てて馬車に乗り込む
それを見届けてから改めてエレノアさんにお礼を言って馬車に乗りこんだ。
馬車の中に腰を落ち着け、車窓からエレノアさんとエミリーにルーアと二人でお辞儀をするとエレノアさんは馭者に向かって「出せ」と一言、すぐさま振り向いて「気を付けて。また何かあれば言ってちょうだい。」と声を追掛けてくれる。エミリーはその横で同じように「気を付けて」と言いながら手を振ってくれている。
馬車はゆっくり進み始める。俺は車窓から少し身を乗り出して見送りの皆にもう一度大きく手を振って「ありがとう」と一声かっけると車内の人となった。
快適な・・・わけない馬車の旅。クッション性は言わずもなが、車内の荷物が多すぎる
「ねえルーア?こっち向いて。」出発してから何度目かのルーアへの呼びかけ、馬車の揺れに応じて荷物が少しずつ動けば、荷崩れも起ころうというもの。それが何故か俺の側ばっかり。
今もこう手で押さえながら「どうしてこうして荷崩れするんだろうね。」と何回目かのお小言をルーアにつぶやいている。最初の頃はさすがに「すみません!」とすぐ手伝ってくれていたのだが、あまりにも誰の荷物が…とかもう少し片付けを・・とか何度も言ってるうちにどうも耳が聞こえにくくなってきたようで、もう向いてすらくれない。
まあ、いいか。
そして今。俺はこの暇な時間を有意義に使って九九表を作成している。
俺が何をしているのか気にはなっているようで横目でチラチラ見に来てはいるが俺と目を合わせるとお小言が・・と思っているのか合わせてこない。まあそんなことはどうでもよく。却って作業が早く終えると言うもんだ。
九九の表なのでそう難しいものではないがどうしても少し大きくなるのでそこは紙に入るようにうまく調整。
縦に1~9、同じく横に1~9 それぞれの交差するマスにそれぞれの経緯産地を入れていくスタイルの表
「よっし。完成。」
さすがにそれには釣られたようで、「何ができたんですか?」と聞いてくる。もうすっかりお小言対策は忘れているようだ。でもそれは良い。今はこの九九の表についての話
「これは、九九の表って言ってね。簡単に言えば計算表」
「くくのひょう?・・・計算表?」初めて見聞きしたんだろうから怪訝な表情も仕方あるまい。
「例えば・・・そうだ!7+7はいくつだ?」突然の質問に驚いたのか慌てて計算を始める。
・・・・・指で・・
(そのレベルか?)貴族や商人なら多少は計算が必要で身に付いてるのだろうが、メイドにはすぐに必要な場面は・・少ないか?
俺があれこれ思考に耽っているうちに計算を終えたのか「14です」と答えてくる。
「ん?あ!14だね。正解・・じゃあ7+7+7は?」
「14に7を・・・え~っとじゅうご、ろく、しち、・・・ん?ん?」指を数えたり空中に何か浮いてるのか顎で頷きながら数を数えている。
「え~。じゅうはち、じゅうく、にじゅう?・・で・・にじゅういち、にじゅうに?」
「21だよ。」
「???本当ですか?」そう言う反応になるのね。
「この表を見てごらん。7+7+7は7を何回足したかな?」
「1回、2回・・3回・・あ、3回です。」
表をルーアに見えやすいように置き直してから、縦の7のところに左人差し指を置いて、横の3のところに右人差し指を置いてそれぞれ指を滑らせて表の交差するところで二本の指を合わせる。
すると当然そこには21と書いてある。もう一度指を7と3に戻して、
「いいかい?7を」左指を7の上でトントンとしてから、
「1回、2回、3回」その指を俺は左に1,2,3と、ルーアから見て右方向へ(表の文字を追えば7,14,21)と動かして
「3回足すと21になるね。この表も21になるだろ?」
ルーアは表の14のところと21のところを見合わせながら「え~っと、、え~っと」と必死の表情
(難しいかな?いきなり7の段は。)
それから1の段2の段に戻りゆっくりと説明をしていく。
「うんうん」と勢いよく頷いているところを見れば少ない数字だと分かりやすいようで、表の読み方も理解してきたようだ。あとはこの表を例のように九九として覚えてもらう日本式計算術を・・・
「もう勘弁してください。」泣きそうな声で叫ぶと表の上に突っ伏すルーア、気が付けばかれこれ1時間は九九の表と向き合っていたことになる。
(さすがに、集中力も途切れるよな。)
「ふっ。今日はこの辺にしといてやるか。」とちょいとふざけていってやるとそれでも解放されることに気付いたのか、
「・・・ありがとうございます」と突っ伏したまま言って動かない。
「ちゃんと座った方が楽だろう?」
「・・・そんな気力なくなりました。」
(そうか。全力でぶつかってたんだね。感心!感心!)
読み書きそろばん昔の定番です。




