プロローグ4
愚作にお付き合いいただき大変ありがとうございます。
繰り返しにはなりますが、温かい心で見守っていただけると幸いです。
そうして今はこのジャングルの中に俺一人。ジョゼは目の前で消えた。
倉田と K の姿は見えない。
(確証はないがおそらくジョゼと同じ様に掻き消えたのかもしれない。そう…あの目の前の空間に…)
思わず叫びたくなる衝動にかられるがここはグッと我慢のしどころ冷静になるのが先だ。
(そうだ。まずは冷静に、冷静に、焦るとミスをする、負ける。)
これまでの柔道での試合でも同じ、焦ったら必ずミスをする。ミスして勝てる試合はない。これも一緒だ。
意識してただ大きく深呼吸をする。
(仁多 真は冷静だ。)と自分に自分の心に語り掛ける。そうするだけで妙な緊張が解けていく。
(まずは、”あれ”は何なんだろう?)
ずっと目を離せないでいた”空間”皆が掻き消えたであろう空間が本当に存在しているのかを確かめる必要があった。
ただ、目で見る限りその先の景色におかしな点はなく周辺との違和感すら感じない。
そっと足元にある石を拾いそのまま下手でゆっくりと”空間”に向かって投げてみる。
(ヒョッと音がしたような気がしたが…)
投げた石が空間に到達したと思われた瞬間。石は地面に落ちることなく消えた。
そして”空間”にわずかな揺らめきが見えた。
(まるでシャボン玉の表面みたいな…幕が振動しているように見えた。)
そこに何かがあることはこれで間違いがない。
(”空間”はそこにだけあるのか?ずっと広がっているのか?)
俺は山刀で枝を長く切り取ると1.5mほどの棒にして”空間”に向かってゆっくりと突き出す。
棒の先端が”空間”に触れた。
その先端が”空間”の表面より奥に入った部分が見えなくなっていく。
その代わりに仮の先端(見えている棒の先端)が”空間”の表面をかすかに揺らしているのが見える。
(これなら何とか”空間”の存在が認識できるな。ならこのまま左右の端が確認できるか?)
俺はその”空間”に端があるのかないのかを確認するためまずは右へゆっくりと進む。
(1m…2m…・・5m… 目測だがおおよそあってそうだな。と…ん?)
”空間””の表面の揺らぎが急に見えなくなる。念のためその先で棒の先端をゆっくりと円を描くように”空間”の存在がないことを確認する。
(どうやらここが”空間”の端のようだな。)
棒を下ろしてそこら辺の石を拾ってさらに右側の空間に数個順番に投げこんでみる。
ジャングルの草の上や地面にボトッと小さな音とともに落ちていくのが目視できる。
(よし。右側はここが端か。)ポケットからマーキングテープを取り出し付近の枝の目の高さと足元付近に結び付けて目印とする。
そして手にしていた棒をさらに地面に杭として立てようとした時、
その棒が短くなっていることに気付く。
(ひょっとして”空間”の表面をあちら側に越えた部分は消えたということか?)
その棒はそのまま杭としてその場に差し込み新たな棒を用意する。
(目印に目盛りを入れて…)棒に山刀で切り込みを適当な間隔に施す。
”空間”のある場所で表面に向かってゆっくりと棒をつきこむ。
(1…2…)目盛り2個分を突き込んだ棒を引き抜く。案の定先がちょうど2目盛り分無くなっている。
(だから、みんなも消えたままってことか。)
同じ様に左側も確認してみたがこちらは約10mほどあってかなり大きなものだと分かった。
(端を通って裏側にはいけるのか?)
板の様なものだと仮定すれば、簡単に裏側に回ることができるかもしれない。立体あるいはそれ以上のものだと無理かもしれない。が試してみる価値はあるのか。
俺は万一にも気付かずに”空間”に飲み込まれてしまわないように”空間”の右端を沿うように、2本の棒を俺の体の前側と左側に突き出して先端の様子を伺いながら”空間”の裏側に回りこむことを試みる。
ゆっくりじっくり確認しながら、万が一にも不意に飲み込まれないように進むとどうやら”空間”の裏側に回り込めたようだ。消えた足跡の先から足跡を見ている。
(どうやら板のようなもので間違いはなさそうだ。)
左右はわかったが、上下は見定められない。この”空間”を超えた先に何があるのか?どうなるのかが全く見えない。教授らも何人おそらく通ってしまったはずなのに現状戻ってきている者はいない。その先でどうなったのか?
わからないことは山積みだが…一人となった今できることは限られている。いったんベースキャンプに戻って大学研究室に連絡を取ることを選択した。
んだが…
やらかしてしまった。
あまりに一度にいろいろなことが重なった俺の頭は、うっかり現状を忘れ去っていたのだ。
”空間”の裏にいたことを…
かくして、ついに俺も”空間”を越えてしまった。
前振り長すぎますよね。
これでいよいよ私の世界が現実世界から別に移動します。