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ヴェルムヘルム領 7

 宴の明けた翌朝。村長が昨晩のロットヘルムと娘さんの件でとにかく我らに平謝り。最も我らに事を大きくする気もさらさらなくすでに笑い話として共有されている。相変わらずのロットヘルムは放っておいて朝食の後は出立の準備に追われる。




 出発の時限となり車列を整えそろそろ出発という頃、昨晩の件の娘が両親に付き添われて目通りしてきた。


 もっとも衆人環視の中であるので、目ざとく見つけたロットヘルムは思わず小さくなる。ロットヘルムの側にいたバロウ、タルカス、キュリアは「ハハーン」と笑いながらもあえて無視。


 両親はロットヘルムの前に進む出ると昨晩の娘の態度を詫び許してほしいと懇願、しかしその傍らでは昨晩のことを思い出しているのか小刻みに震えているまま


「・・いや。昨晩は私が・・その・・娘さんを怖がらせたようで・・」はっきりしないロットヘルム


「万事問題なし。強いて言えば・・こ奴が悪い。」ロットヘルムの頭を越えて声が響きわたる。


「と、お前が言わんか!」声の主はニヤリと笑うエミリー。これにはさすがにロットヘルムもヘニャヘニャしてられず、


「すまなかった。詫びたい。許せ。」とまあ、これも急に声が大きくなるもんだから今度は逆に娘さんを追い詰める結果となってとうとう涙が頬を伝う。両親も今度ばかりはと娘を背に隠して「ありがとうございます。ありがとうございます。」と何度も頭を下げながら退去していった。


「出発!」バロウズ隊長の号令で村を後にした。




 馬車内ではルーカの文字の読み書きを見ながら、時折車窓を通して見える景色を眺めつつゆったりとした時を過ごす。


(BP。聞こえるか?)相手の姿も声も聞こえない状況で遊び半分にBPへ声を掛けてみる。


(なーに?)もちろん直接聞こえるわけではない。何となく頭の中に湧き上がってくるような感覚


(う。そっちの様子は?特に問題ないかい。)


(・・・ない。)


(何かあったら呼んでね。以上)なんか普通に分かっちゃってるけど、俺(元の世界なら)異常だよな。


 じゃあ、次はルーカに・・・伝わったら凄いことになるけれど・・・


(ルーカ。わかりますか?)


タイミングよく、おもむろに顔を上げて俺に向くルーカ


(え?ええ~っ)


「ここの書き方がわかりません。」


「うわ!・・びっくりした。」(え?伝わったわけじゃ・・・ないよね。)


「え?どうかしましたか??」そりゃ普通に質問しただけなのにこんなに驚かれちゃね。


「・・・あー。ちょっと別のこと考えててね。」


「ここは、こうでいいのでしょうか?」


「え~とね。ここに丸みをつけて・・・こう。」文字の書き方。日本語でも『わ』『れ』『ね』のような似たような字があるのと同じでこっちの世界にも・・もうちょっと複雑なのがあって・・・・


(何だろうなこの文字。ほんと、見たことある様な?ないような?)


「こうですね。ありがとうございます。」




 そんなこんなで数時間ルーアの勉強と暇を持て余して時折BPに『念』を送るものだからBPからは


『うるさい』と言われて?しまうし・・・


 それでも、領都ニウラに到着する。




 ~~ ゴ~ン  ゴ~ン  ゴ~ン ~~


 我らの入門とともに鐘が鳴り響く。通りを行く人たちも歩みを止め車列に向かって頭を垂れていく。


 その中を車列は粛々と館に向かい進んでゆく。


 館の前には十数名の家人やメイドたちが列を作って出迎えている。


 馬車が玄関に横付けされるとすぐに家人たちによって扉が開かれ、エレノアさんにエミリーそしてBPが馬車から降り立つ。


「奥様、お嬢様の無事のお戻り一同心よりお喜び申し上げます。」深々と頭を下げ口上を述べる家人。


 二人と一匹の後ろに控えるヤルマークはバロウズに何やら言伝をするかのようなしぐさをすると、静かにうなづいたバロウズはその場を足早に去る。併せて他の4名の騎士たちも後に続く。


 窓からそれらの様子を見ていた俺の車の扉があけられる。


「どうぞ。」恭しく下車を促すその家人の年齢は、俺とそう違わないと思われる。が、妙に落ち着いた雰囲気を醸し出す男だ。


「ありがとう。」一応の礼を言いつつ馬車のステップに足をかけゆっくりと降りる俺


 ルーアは俺の後に続きとんとんと軽やかに降りて来る。


 その様子に男が一瞬であるが睨むような鋭い視線を投げかけるのを俺は視界の端に捉える。


(ルーアの行いに何かミスがあったのか・・?)


 そんなことを思いながらも手を差し出してエスコート


 ルーアは「え?」という顔をするが構わず手を取って軽やかに地面にタッチダウン


「ありがとうございます。」そのままスーッと俺の耳元に唇を寄せて


「ふつう、メイドにエスコートはなさいませんよ。」フフッと小声でささやくと再び馬車の中の忘れ物を確認する。


(つい・・・ね)思わず頭を搔く俺


「こちらへ」さっきの男が俺を館へと案内する。ルーアは馬車の扉に固めておいた荷物を一抱えにすると俺たちの後を追ってくる。そこに他のメイドが合流してルーアの手から持ちきれそうにない荷物を奪いながら手分けして荷物を運ぶ。


「ルーア。こちらの荷物は私たちで運んでおくからデミット様と。」メイドの一人がルーアの最後の荷物を奪い取りながら先ほどの男のところへと言っていた。


 しばらくすると日も落ちて、周りがゆっくりと暗闇に覆われつつある。


 館内の主要な場所には、順番に明かりが灯り、特によほどの明かりを必要としない限りは一応ものが見えるといった程度か?


 エレノアさんとの面会を申し入れているが、今日はもう期待しない方がよいのだろうか?

さすがに夜に呼び出されたりはしない・・・と思う。


 それ以前に、俺を部屋に案内し荷物を運びこんでお茶などを用意してくれていたメイドたちが、

俺の部屋とその扉の外に明かりを準備し灯し終えたのちは、呼び鈴を残してどこかへ去り部屋に一人きりとなった。


「ふう」


 気にしないつもりでも他人がいればやはり本気でゆっくりはできない。そのため一人になった今、ようやくベッドに足を投げ出して仰向けに体を預ける。


(ルーアは何してんだろう?)


 館についてからしばらく経つが、一度も部屋に顔を出さない。担当が外れたならそれはそうと誰かからでも何か言ってきそうなもの・・・それがないということはまだ担当なのだろうが・・・。


世の中にはホテルなどに泊まっても、たぶん必要ないと思われる避難経路の確認や建物の周りが気になって仕方のない人種?が稀にいる。仁多もその一人のようで新しい場所に落ち着かない気持ちとちょっとした興味でじっとしていられないのだ。


(館の中も気になるし、ちょっと見に行ってみるか?)


 部屋の扉の前に立って外の様子をうかがう。が、何も扉を開ける必要はなく、五感を研ぎ澄ませば扉の前の状況など手に取るようにわかる。


耳をすませば・・・廊下にも誰もいない。


(じゃあ、出てみますか。)扉のノブに手をかけようとしたその時、ふと背後の窓から違和感が


(え?)


 違和感は一瞬。窓に視線を投げるが誰も…いない。


(嫌な感じがあったんだが・・・)


窓から顔を出して、あたりを見てみるも周辺に人影すら認めず。

(・・・・・気のせいか?・・)


気を取り直して、今度は廊下へ、右に行くか? 左に行くか?。

(案内されてきたときはこっちから来たからこっちは玄関・・と、なると・・)

廊下の左側に目をやって確認する。

(間違いない。こっちが建物の入り口方向だな。)

次に右方向に目を向ければ、暗い廊下ながら要所要所に明かりは灯っているのであらかたではあるが、廊下の先まで見通せる。

(こっちは突き当りか)

あまり大きな館ではなかったようなので廊下の奥行きはさほどない。

玄関を入ったところで廊下が二方向にあったことを思い出し玄関へ向かうことにした。








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