ヴェルムヘルム領 6
『宴』とは、すごく純朴なものだ。ともかく現代を経験した俺からすると刺激と言う意味では物足りない。
料理に酒、まあこれは定番中の定番ではあるが、複雑な味付けや深みのある味わいには程遠い。
家庭料理の大盛にいつものお酒が大量にと言った具合。
歓迎の歌や踊りも披露されるが、どこかのパビリオンで民族楽器の演奏と踊りを見ていると言えばわかってもらえるだろうか。最初は物珍しいのだが、やはりリズムも踊りの単調なのだ。
こんな感想を述べるといかにも俺がそう言った方面に造詣が深いと思われるかもしれないが、決してそうではない。
何と言うのか、今ならSNSなどで好きなもの、見たいものを瞬時に見られる。あれがこれがとすぐ選べる。
言ってしまえば料理だって好きなものが届く。(もちろん対価は発生するが)
ただ、今の俺は領主親子と一段高いステージの上でその様子をながめているだけ・・・
「俺たちも参加しませんか?」
もう我慢できず、俺はもう誰とは言わず声に出す。ただ見て飲み食いって・・じっとしていられない。
「おもしろそう」即座に反応したのはエミリー さすがにまだ興味が勝る年齢なのだろう。
「お嬢様・・」ヤルマークが何か言おうとするも、その時はすでに席を立っている。
「言い出しっぺのマコトも当然参加するのよね?」手を腰に当て仁王立ちさながらエミリーが俺に言う。
「ああ、もちろん。」当然じゃないか。もうしっかり食べて飲んだしあとは体を動かすのみ
「十分に楽しんできなさいな。」俺たちのやり取りを聞き、何か言おうとするヤルマークを手で制しながらエレノアさんがそう言う。
エレノアさんがそうする以上ヤルマークも否とは言えず、しかたないという表情で軽くため息
「じゃあいくか。」俺がエミリーと下に向かうとBPがこれまた(しかたないなぁ)と言わんばかりに立ち上がりエミリーの後についていった。
「「きゃー」」
「「うわっ はは」」
村人の間から歓声が上がる。
歩みとしてはよちよちに近いがそれでも立派な猛獣の子が領主の娘に付き従ってステージから降りて来るのを見れば、まだ迫力より かわいい が強くなるのも致し方ないこと。
エミリーも例にもれず美少女であるし、さすが貴族の娘ってところか。
「さあ入るわよ」もう一緒になって踊り始めてるし、さすが貴族の娘・・・だよな?
俺もエミリーも村人に交じって歌ったり踊ったり、
一緒に飲んで食べて楽しくやっている横では護衛についているソラムが何というか引きつった表情で困惑気味に村人たちとやり取りしているかと思えば、その傍らではキュリアが村人と見まがうほどに溶け込んで一緒にワイワイやっている。
どうやら社交性に富んでいるのはキュリアのようだ。が反面任務を忘れていないよな?との疑問がわかないわけではない。その点ではソラムさんは任務に忠実に居ようとしているのだろう。どうやら初見通りある意味正反対の二人かも知れない。
一方、タルカスとロットヘルムはと言うと、タルカスが大声で笑いながらロットヘルムの背中をバシバシ叩いている。
「ハハハーッ! ブッワハー ヒーヒー だから・・・お前は・・・」
何を言われているのか不明だが力なく肩を落としてうなだれているロットヘルム
「そんな・・・ヒーヒー・・」
「ププッ・・血走って・・」
言葉がつながらないほどの勢いでこみ上げるほどツボにはまっているようだ。
二人に巻き込まれまいとしているのか彼らの周りはすっかり人の姿はなく皆遠巻きにしていて成り行きを見守っているが。
「やあ、タルカス。」遠巻きにしている人垣の外からタルカスに声を掛ける。
ヒーヒー息を乱しながらも声を掛けた主を探すタルカスに人垣を分けながら姿を見せ
「どうしたんだ?そんなに大笑いして」俺の姿を認めると更におかしくなったのか今度は膝を付き、四つん這いになって笑いながら地面をバンバン叩いて一瞬やめ、ロットヘルムの顔を覗くと再び笑いが全身から噴き出す。
「や・・ヒーッ・・マコト・・・ハハハ」話にならないタルカスは諦めてロットヘルムに訊く。
「ん?ロット。どうした?」
「・・・先輩がひどいだけです。」ロットヘルムがやっとの思いで吐き出すように言うとそれを聞いたタルカスは、
「いや。俺はwwww・・マコトも見たらこうなるって。」その状況で目に入ってきたのはロットヘルムのやや向こう、人垣の内側に若い娘の一団。一人の娘を皆が慰めている模様。
そこに現れたのがルーカ 俺のところまでササッとやってくると軽く手をひょいひょいとちょっとしゃがんでとジェスチャー その要望にお応えすると耳元に意外な言葉。
「ロットヘルム様に呼び止められたらしいのですが、振り返ったとたんあまりにも怖くて、思わず条件反射でひっぱたいてしまったとか・・・」
(???)
「何でひっぱたくことに・・・?」
「その・・あまりにも(プッふきだす)ひどい形相で(大きく息を吸って・・深呼吸)鬼かと思ったそうです。(ハーハー 言えた)。」
その言葉を聞いて改めてロットヘルムを見る。「ロットそうなのか?」振り向くロットの左頬にくっきりと赤くなった部分がくっきりと浮き上がっている。
「(すーはー)・・・(ブハッ)・・すまん。」ロットヘルムは弱弱しくにらんでくるが、傍らにいるルーカに気付いて彼女と目線があった瞬間に更に萎える。その態度に今度はルーアが少しオタオタし始める。
「申しわけありません」ブワッサと音が聞こえるほどの勢いでロットヘルムに頭を下げてまるで許しを請うような勢い
「おいおい。ルーカどうしたの?」ロットヘルムに頭を下げたままのルーアの後ろからルーアに声を掛けるがルーアはその姿勢のまま
「ロットヘルム様に大変失礼なことをしてしまいいました。なにとぞ・・・」それを聞いて思わずロットヘルムを見るが
「いや俺が悪いから・・・」と力ない返事。そのころになってようやく正常運転に復帰したタルカスが説明を始める。
「いや、なに・・・」話によれば、タルカスにそそのかされたロットヘルムが、付近にいた先ほどの慰められている娘に後ろから声をかけたそうだ。その時のロットヘルムがあまりにもがちがちの上目を血走らせ引きつった表情の上に大きな声で声掛けしたものだからあの娘さん声に驚き振り向いて表情にさらにびっくりして思わず『パッシーン』と良い音させた訳。が気付いたら引っぱたいたのは領主様に仕える騎士様で貴族様これは無礼と言われてもという次第らしい。
これじゃ収拾付かないので
「娘さんには俺から言っておくよ?・・ロットが悪い・・でいいよな?」
「・・ああ。それでいい・・・」ちゃんと喋れよロット。そんなんじゃ聞こえないよ。
「タルカスも・・」念のためタルカスにも訊くが・・・「俺は十分に楽しませてもらった。逆に褒美でも出してやろうってくらいだ。」とまた笑い始める。
「ルーカ。一緒に来てくれ。」再度声を掛けるとルーカはまだロットに頭を下げたまま・・
(そんなに重いことなのか?)
「ルーカ。ロットのことは大丈夫だ。あの娘のところへ・・」ルーカはゆっくりと頭を上げるとロットヘルムを見次いで俺に視線を移す。
「はい。申し訳ありません。」
「一緒にいてくれ。俺がまた怖がらせてもいけないんで。」
「仁多様ならきっと問題ないですよ。」その言葉を聞いてか聞かずか視界の端で更に力が抜けていくロットヘルムの姿とだっれとも分からぬ大きなため息が聞こえた気がした。
どんな声掛けしたんでしょうね。ロットヘルムって




