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ヴェルムヘルム領 5

 ロットは不満げな表情を見せながらも「まあ、そんなもんだ。」と言うタルカスの謎な説得で納得?したようで何よりだ。

 それからはロットにやれ村娘と仲良くなる方法だの、キュリアと模擬試合をやってみろだのとりとめのない談笑が続き、宴の始まる時間が近づいたこともあっていったんお開き。

 タルカスとロットにあってはこの後、エレノアさんとエミリーの屋外での警護に当たるらしい。

 で、今の時間はと言うとソラムさんとキュリアが付いているようだ。そのため俺も含めていったんそれぞれの宿泊場所に戻って次の準備となるわけだ。


 「ただいま!」部屋の戸を開けて中を覗くとルーアが文字の一覧表と向きあってうんうん唸っている。

今日部屋を出る前にルーアに文字の一覧表を渡して、順を追って読んで見せてルーアとノートの表紙に書いておいたんだ。『持ち物には名前を書く』も兼ねてね。それを見ながら自分の名前の文字を覚えろって言ってね。その結果が『う~ん。う~ん』の原因。

「おかえりなさいませ。」ノートから顔を上げながらこっちを向くものだからひどく表情が・・変。

そこについては胸の内にしまって、本題です。

「どうだった?少しははかどったかな?」人生で初めて文字に触れるんだ。そんな大きな期待はしていないが、

「何とか私の名前に使う文字は覚えました。・・けどまだ上手にはかけなくて。」

(え?それはすごいじゃないか。)

「いや。書けるようになっただけでもすごいことじゃないか。字の上手下手は繰り返ししかないかもね」

本当にすごいと思う。俺が出てきたのはそれでも一時間ちょっと。文字を覚えたのもすごいが一時間も集中力が持続したのも大いに褒めるべきだ。

「よく今までの時間集中してやれたね。そこもすごいと思うよ。」俺が思いのほか褒めるせいか少し赤らんだ様子を見せながら照れたように微笑むルーア。

「ありがとうございます。」照れがあるようだが素直に受け取ってくれるのは感心感心。

「仁多様見ててくださいね。名前を書きますよ。」ペンを握る指に変に力が入っているようだが何とか自分の名前を一字一字丁寧にノートに書きこんでいく。

(ペンの握り方・・ちゃんと教えといてあげないとな・・)

ルーアがゆっくりと書き進めるペン先を目で追っていきながら…ちゃんと書けてるよ。

ルーアが名前を書き終える頃には自然に拍手をしていた。

「すごいよルーア。初めてにしてはしっかりと、文字も力強く書けてるじゃないか。」

それでも彼女は止めずに続ける。

「・・に・・た・・」彼女が次に書いた文字を俺は読んだ。・・俺の名前じゃないか。

「ちゃんと書けてますか?」書き終えたペンを静かに置くと上目使いに俺を見つめてそう聞いてくる。

「ああ、ちゃんと読めるよ。俺の名前だね。」

「はい。仁多様か読んでいらしたときに音で覚えました。

(一文字一文字指し示しながら声にして読んだおかげか。)

「すごいねルーア。これを忘れないようにね。

「はい!ありがとうございます。」元気にぺこりとするルーア

(そんなに喜んで貰えるとこっちも教え甲斐があるというものです。)

「・・じゃあ次はどの文字・・言葉か?を覚えたいかな?」俺の問いかけにルーアは即答。

「お父さん、おかあさん です。」

(次に覚えたい文字が『お父さん・お母さん』か。大切に育てられたんだろうな。)

「じゃあいいかな?これが『お』の文字。これが『と』の文字・・・」

順番に文字を押さえながら声に出して読む。俺が読みがげて行く文字を睨みつけるように凝視して目で追って居る。

(真剣なんだな)率直な感想だ。

「じゃあここに書いていくね。」ノートにしっかりと『おとうさん』の文字を記す。次に『おかあさん』の文字。

「ありがとうございます。」実にうれしそうに俺の顔を見ながら一言そう言うと視線を再び紙面に落としてそれぞれの文字を確認するように指でなぞる。

残念だがここで時間だ。

「ルーア『宴』の時間が迫っているから行く準備をしようか。」かなり夢中になったいたのであろう。

「え!あ、はい。すぐに準備します。」俺は慌てるルーアを手振りでシッシッ(あっち行け)と部屋から追い出した。




ルーアと村の『宴』の場に行ってみると村人がわらわらと集まってきておりかなりにぎやかな様子。

一段高くなった所に主賓席とでも言うのか大きなテーブルが一つ置いてありその奥に椅子が準備してある。

(俺はのんびり楽しみたいところだけれど・・やっぱりあっちかな?)

テーブルにはなかなか見ごたえ食べ応えのありそうな飲食物が所狭しと配されており、村長がそのテーブルの脇に所在無げに佇んでいる。

(エレノアさんが来ないと始められないし、先に着席と言う訳にもなぁ)ホスト側の必然ではあるがつらいところです。

他人事のように眺めながらそんなことを考えていたら、後ろから声を掛けられる。

「仁多殿、このようなところで待たれずともあちらで寛げばよろしかろう?」誰かと思い振り返るとそこにはバロウズさんがにこやかな表情でステージを指している。

「聞きましたぞ。タルカスとロットヘルムに何やら稽古をつけていただいたそうで。」

「は~・・そんな大したものでは、・・」

「何とも不思議なほどどっしりとした構えとか?」話半分。眉唾とは思うけれども真偽が気になるって

口ぶり。ここはスルーに限る。

「バロウズさん。私はあっちになるんですか?」ステージを見ながら確認と言うよりももう答えも聞く必要はなくステージの方へ歩き始めた。

「ああそうだ。」俺の後ろで俺を追いかけるようにバロウズさんの返事が聞こえる。

ステージの階段へ足をかけたその折一段と周辺の声が大きくなる。

「ヴァンス様が来られたぞ」「ヴァンス夫人とお嬢様だ」「何か獣を連れておられる」皆思い思いに声を上げながら2名と一匹の入場に沸き立つ。

タルカスとロットヘルムがエレノアさん達の前を進み群衆を左右に押し分ける。押し分けてできた道をエレノアさん達が歩いてステージに向かう。


ステージの袖に俺がいることに気付いたエレノアさんは手招きで列に入るよう促し二人に続いて俺もステージに上がる。

村人たちが一層ステージの周りに集まると視線が俺たち三人に集まる。いやもう一匹にも。

村長がステージ上、村人たちの前に進み出て簡単に挨拶がてらなスピーチが始まる。

「この度は我が村にお立ち寄りいただき誠にありがたく感謝いたします。ヴァンス家の皆様には今宵の『宴』を存分に楽しんでいただきたく、村人総出で準備いたしました。何卒今後ともこの村をよろしくお願い申し上げます。」

それを受けてエレノアさんが村民の前で応える。

「村長。ニシマ村民の皆さん。このような立派な『宴』をありがとう。本来であれば皆からの歓迎を受ける筈の我が夫は不慮の事故でこの場にはいない。」そこまで一息に話すと一度損m人たちをぐるりと見まわして続受ける。

「ここに我らの娘エミリーが居る。」全員の視線がエミリーに集まる。ところで構わず続ける。

「今後領内の仕置についてはこのエミリーが中心となる。・・・」村民の間からウォーと地響きのような声が響く。どよめきが収まるのを待ちエレノアさんが続ける。

「皆には変わりなく落ち着いて日々を送ってもらいたい。」ここでまた一息

「今日は言わばその祝い。皆の歓待を嬉しく思う。」一層大きなどよめきと歓声に包まれる。

エレノアさんは一歩下がり村長に視線で合図を送ると村長が再びステージ中央に立ち、

「それではこれより歓迎の『宴』を開く」大きな声で宣告して『宴』が始まった。



宴の始まりです。でも大したものじゃないんですよ。町や都市ではないですからね。村ですよ村

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