ニヤマーシャ 21
お風呂場で、俺としてはちょっとした事件があったものの何とか部屋に戻り、いま涼みがてらゆっくりとさせてもらっている。相変わらずルーアも同じ部屋に居るが、かろうじて気にならないくらいには慣れてきたのだろうか?それともルーアが懸命に気配を消しているのだろうか?
「ルーアさん?」
「はい。仁多様 ルーアとお呼び下さい。」
「すみません。・・え・と・ルーア・・。」黙って俺の方を直視しているルーア、目力が強くないか?
「『すみません』と言われても困ります。」
「・・ああ・・ごめん。」
「『ごめん』も同じではありませんか?」
「・・・」ルーアのダメ出しに何も言えなくなる俺
「何かご用件でしょうか?」(もう仕方ないですねぇ)。という態度と雰囲気が駄々洩れだが仕方あるまい。
「ルーアはエレノア様から俺のことをどのように聞いている?」
「エレノア様からですか?」俺の突然の質問に???な感じのルーア
「エレノア様からは仁多様はヴァンス家にとっての恩人。失礼のないようにお仕えしなさいときつく言われております。」少々本人を前にして言いにくかったのかは判らないがそう答えた。
「それ以外は?」
「それ以外ですか?・・といいますと?」
「例えば・・そうだな。俺の生まれとかそういった話は?」
「いえ。そう言ったことは何ひとつ聞かされておりません。」きっぱりと言い切るルーア
「ただ・・いろいろと聞かれるだろうから丁寧にお答えするようにと・・それとそのことは誰にも・・シュミンにも口外しないようにと言われています。」
「・・シュミン?」シュミンはわかったがなぜシュミン?
「あ!‥シュミンは私と同じ生い立ちです。このヴァンス家に拾われたのもアルフレッド様のお目に留まって・・なので一番仲が良い友達なんです。」
少しずつ判明する人間相関図。今後の俺には大事な情報になるのかもな・・
「そうなんだ。その友人であるシュミンにもここでのことは秘密にしろとエレノア様が・・・ね。」
(なるほど。この後家が少々もめるかもと言っていたことと少し関係があるかもね。ないことを願うけど・・)
「よし。。ではルーアそこに座って。・・とその前にキミ用の飲み物も用意してからね。」
「・・え?あ。はい。」
暫くして、言ったとおりに自分の飲み物を持って俺の斜め前の椅子に腰かけるルーア
「飲み物は随時飲みながらでいいから。フランクに行こう。」
「・・わかりました。」何が始まるのか少々不安げな表情になっているが、何も心配することはない。俺はオオカミじゃないんで。とそういうことの心配はされていなさそうだけど。普段は主人?と同席など許されないんだろうから居心地が悪いんだろうなぁと推測しつつも座ってもらわないと俺は話しにくい。
「まず最初に言っておきます。この部屋・・と言うか、他の者の目がないところではルーアは立って待機の必要はありません。」この宣言にルーアは目を見張って『えっ』と言う感じの視線を送ってくる。が、
「俺がこの国の人ではないことを知っていますか?」と質問を続ける。
「はい。何となくですが・・髪の色とか、雰囲気が違うのでそうじゃないかと思ってました。」
「正直でよろしい。」しっかり観察し、ちゃんと考えているだけでも評価できる。
「俺の国ではメイドを使う文化はない(うそ)。なのでメイドは要らない。」
「それは
「・・・それは・・私が不要・・・と言うことですか?」
言われたことが意外だったのかちょっとトーンが落ちてる。少しショックを与えちゃったかな?
「そうじゃない。ルーアは必要です。ただメイドとしてのルーアじゃない。」
この言葉は余計にルーアに混乱を与えてしまったのか返事が返ってこない。
「ルーアはずっとこの世界でこれが当たり前のこととして生活して来ただろうからイメージできないだろうけれど」
「さすがにここのみんなに俺の文化を押し付けることはできないけれど、俺の近くにいる限りはルーアにはそれに協力してもらいたいんだ。」
「よく理解できないのでもう少し説明をしていただけますか?」
「メイドは仕事だ。でもそれはルーアの気持ちを抑え込んでまでやってもらうものとは考えてません。仕事上の上下はありますが、ルーアも感情を持った一人の人。気付いたこと、思ったこと・・例えばここをこうすればもっとこう・・うまくいくとかあれば遠慮なく意見・発言してもらいたいんだ。」
俺の申し出に少し考えこんでいた様子のルーアだったが、やはりこれまでの価値観を変化させるのは容易なことではないかもしれない。
「・・気付いたこと、思ったことなどを仁多様に逐一話せば良いのですか?」やはり一度には拭いきれるものではない。。か。
「言い方を変えよう。シュミンとはどんな接し方をしている?」
「シュミンとは友達です。一緒にお茶したり、いろいろ普通にお話ししたり。」
「普通にいろいろ話をするだろ?俺はルーアとそう言った関係を築きたいと思っている。」
「私はメイドです。主人と対等にお話など恐れ多く・・友人などとは・・」
「だから、そこの考え方。メイドは仕事でルーアは人格を持った一個人。俺との間に身分差はない。」
またしてもルーアの目が見開かれる(・・身分差はない。・・)
(そうだよな。封建制度が身に付いている人に急に『皆が平等』なんて理解・・受け入れなんて難しいわな。)
「・・皆が平等?・・平等?・・皆が・・」ルーアの中でその言葉が静かに繰り返されていく。
(・・皆が平等・・・)
「ゆっくり慣れてくれればいいよ。」混乱が収まらないのはわかる。だからゆっくりでいい。すぐにできるなんて思ってないから。
遠くを見る目をしているルーアを温かく見守りながらしばらく静かな時が過ぎる。
「うん!今日はこれで終わろう。明日は移動だよね?」
話題の切り替えは伝わったようだ。
「・・はい。そうです。出発の時間までには荷物を纏めないと・・です。」
俺の部屋を改めて見渡しながらルーアが言うが・・・
もっとも俺の荷物は多いとは言っても、所詮一人で持てる量。たかが知れている。
「では、また明日の朝伺います。」そう言いペコリと頭を下げて退出しようとするところを振り返り、
「仁多様。何かの時はお声を掛けてください。隣の部屋が私の部屋になりました。」と右を指し示す。
「わかった。ありがとう。でもきっと朝までぐっすりだよ。おやすみ」
(そう。ルーアの勤務時間は終わり。急な呼び出しブラックは・・しない・・したくない。)
「はい。お休みなさいませ。」ニコッと微笑えむすっとルーアが退出すると扉が閉まった。
(武器・弾薬は特に目に触れないようにしとかないとな)
仁多真の平等宣言 封建制度に一石が投じられる?




