ニヤマーシャ 18
何やら付かれる俺をほったらかして専属メイドが決まってます。
専属メイドが何なのか?こんな生活に無縁な人生を送ってきた俺にとっては???な事態。
そもそもメイドをどの場面でどのように使えばいいんだ?
俺の知ってるメイドなんて、「萌え萌え きゅーん」とか言うのしか知らんし。
とにかくも、一応のメンバーが紹介されこの場にいないのは雑用や馬係をしている方達ということで特に場を作っての紹介はないらしい。(会った時に「よろしく」程度でいいようだ。)
これで一応この場はお開きとなるようだが、さてどうしようかと思案しているとルーカがやってきて改めましてのあいさつがあった。
「仁多様。何なりとお申し付けください。まずは何かご不自由等ございませんか?」
近くでこう言われるとこれまでの生活との差が浮き彫りになる。頭の中で「萌え萌え」がリフレインしてくる。
大きくかぶりを振って萌え萌えを弾き飛ばす。が言葉の端々がやばい。
「・・そうですね。(照れ)・・特に不自由は・・・・」ちょっと考えてエレノアさんに視線を向ける。
「ちょっとまってて。」ルーカにそう伝えるとエレノアさんの方へ進む。
エレノアさんは、騎士たちと帰りの件で日程調整をしていたが、俺が近づくのを認めると騎士たちの話をいったん止め俺に向き直る。
「どうかしましたか?」
「いえ。まずはルーカさんを付けていただきありがとうございます。お世話になります。」まずはお礼から
「その上で少しお話しておきたいことがあるのですが、この後お時間頂けますか?」
「ああ。ならば私たちは少し待たせてい頂く。先に話されるとよい。」バロウズ隊長が気を利かせてくれるように申し出てくれる。
「うん、すまんな。」バロウズ隊長の申し出にエレノアさんは優先権を俺に与える。
「場所を変えたほうが良い話でしょうか?」
「そうですね。何かと込み入ったことになる様ならばその方がよいかと。」
「なら、後ほど時間を用意しましょう。ヤルマーク。その際同席しなさい。あと時間の設定を。」
「はい。かしこまりました。この後ですと・・そうですね1時間後にこの場所では?」
時間と場所を提示してエレノアさんの判断を仰ぎながら俺の方にも目配せがある。
俺は黙って頷いて同意を示す。その反応を見、ヤルマークはエレノアさんに目さんを移す。
エレノアさんは「では、そのように。」と応えて俺に対して頷くと騎士たちに向き直り話を戻す。
俺はヤルマークさんに部屋で待機する旨を伝えて退席することにした。
部屋を出ると、宿の従業員が一人待っていてどうも俺の誘導のようだ。
俺の後ろからはルーカが静かに少し離れてついてくる。いざ部屋の前に到着したときに、宿の従業員を呼び止め、一時間後にもう一度先ほどの場所に行くこととその先導依頼、また併せて隣の部屋の確保を依頼する。
俺が入室すると、ルーカも一緒に入ってくる。これには俺の方が戸惑った。
「ええッと?‥何か用かな?」戸惑いつつも意図を知りたくて・・仮にも男の部屋に若い女性が入ってくるのは・・・と俺は思ったのだが。
「はい。お部屋の確認と、不足品があればその補充をさせていただきたく。」とのたまう。
のたまう?・・だよな。いちいち気にしていたらいけないのかも。こういうことには不慣れだから、緊張が先に来て・・部屋の外と内では感覚的に・・・緊張する。(汗)
俺が勝手にどぎまぎしている間にルーカは部屋の中をどんどん確認していき自身の手帳に何やらメモを書きつけている。
「ルーカさん?えーと。俺は何をすればいいのかな?」どうしていいか解らず思わずルーカに質問をしてしまう。
「はい? 仁多様はごゆっくりとおくつろぎ下さい。」書きかけていたメモを終えたようで顔を上げると
「お茶を用意します。」そう言うと部屋を出ていった。
「失礼します。」ノックに合わせて声がかかる。ルーカだ。
「はい。どうぞ。」応えるとすぐにルーカが入室してきてテーブルにお茶のセットを展開していく。
(へー、さすがの手際なんだね。)
ティーポットから立つ香りに、カップに注がれる茶の湯気がさらに香りが増す。傍らのはおつまみになるお菓子。
「どうぞ。」お茶が注がれたカップとお菓子が差し出され俺の目の前に並ぶ。
「ありがとう。」さらに追加される数々の物体を前にして気付いた。これ何?
「ねえ。ルーカさん?」ルーカさんに教えを乞うように声を掛ける。
「はい。何でしょうか?」準備しつつの手を止めて、声を掛けて俺に顔を向けて応える。
「こういったことに慣れていないので教えてもらいたいんだけど。」
姿勢を正しながら俺に向き直るルーカさんに率直に聞く。
「このマナーと言うのかな?どうやって飲めばいいのか教えてもらえる?」
俺の質問が意外だったのか少し考えるように首を傾げた後に
「・・はい。特にこれと言ったマナーはありませんが、これらのジャムをお好みでお茶に入れていただきながら、お菓子とともに楽しんで頂ければ、・・あとはお代わりも用意しておりますので必要であればお申し付けください。」ルーカはいくつかのジャムを指しながらスプーンと取り合わせて混ぜるしぐさを見せながらお菓子を示してくれた。
(なるほど。ジャムを入れるのか。)
「このジャムたちはお菓子と合わせて食べてもいいのかな?」解らないのでこの際聞いてしまえ。
「もちろんです。甘味を足すことに使っていただければよろしいかと。」
「そうなんだね。教えてくれてありがとう。」
「どういたしまして。何なりとお聞きください。」そう言うとすべての用意を終えたルーカさんはテーブルから少し離れた場所に姿勢を正して待機に入った。
(いや。だからそれが慣れないので・・・緊張するなぁ・・・)
見られながらひとりでお茶をするのは緊張以外の何物でもない。
暫くすると、ようやく時間が取れたのか、エレノアさんから呼び出しがあった。
こちらの部屋に先導してくれた宿の従業員だろうか、部屋の扉をノックする音にルーカが素早く反応してわずかに扉を開けて用件を聞いている。先ほどの宿の人が迎えに来たようだ。
「仁多様。エレノア様からお呼び出しがございました。向かいましょう。」
特に準備するものもなく、特に持っていくものもない。あえて言うなら口元をぬぐう程度か。
「そうですね。すぐに向かいましょう。」それだけ言うとナフキンで口元を拭いルーカのアシストで席を立つ。
俺が扉に着く頃にはすでに底にルーカの姿があり扉を開ける。
扉の外には従業員がスタンバイしていたので、何も躊躇うことなくその案内に付いて行くだけだ。
歩み始めた背後で静かに扉が閉まる音と施錠の音がすると同時にルーカが後をついてくる足音を感じる。
コンコン
応接室の扉をノックするルーカ。中からは堂園声と合わせて静かに扉が開かれる。
その扉を開けていたのは見知らぬ男性が2名それぞれ左右の扉を開けると扉の前に立つとすかさずルーカが応接室の中に歩み入り、エレノアさんへ一礼をすると
「仁多様をお連れしました。」と報告?をする。扉を開けて立っている男性が手の動きで俺の入室を促す。
「お時間を頂きありがとうございます。エレノア様。」俺も一歩部屋に足を踏み入れたところで軽く一礼して挨拶をする。
「構いませんわ。」ゆっくり頷きながらそう答えたエレノアさんは部屋にいる家人に目配せして退出を促す。
ルーカが一礼して退出し、先ほどの男性二名が部屋の外から静かに応接室の戸を閉めるとエレノアさんと俺だけが部屋に残された。
知らないことがどんどん出てきます。俺にとっては緊張の連続です。




