ニヤマーシャ 15
シホンさんも最初は俺がいるとは思っても居なかったようで、広尾場を通りかかったら何やら少々騒がしいので何事かと気になって近づいてきたそうだ。
なので、そのいきさつを広場のはずれのベンチに腰かけて、少し彼女に説明したりしながら話をしていた。
「でも、本当にさっきの石あなたに割れたの?」疑うのも仕方ないよね。
ホフマン程強靭そうに見えないし、ここの世界なら線が細い(いやいや)?とも見えるかな?だし。
「うん。多分問題なく割れたと思うけどね。割られちゃったし」
「ちょっと探してみましょうかさっきくらいの石。どう?」
「いいけど。やっぱり疑ってる?」
「あそこまでギャラリーに囲まれてやってたんだから、割れないってことはないんでしょうけど、どうやって割るかに興味がある…かな?」
「わかった。じゃあさっきの奴より少しい大きくてもいいから探してみよう。」
「いいの?」
「有ったらね。」しばらく探すと・・在りましたそこそこの石。
「シホンさん。これでいいかな?」
「ちょうど良さそうなのが見つかりましたね。それでいいんじゃないですか?」
シホンさんの了解も得られたことだし、それでは割ってみますか。
縦に、横に(一緒か?)粉々に、割り方も様々にあるよね。ホフマンは拳で割ってくれたし、言い出しっぺなことや女性の前で格好つけたいなども作用して、しばし手にした石を見つめて沈黙すること数秒。
思考のループに陥っていたことに気付いて「ハッ」として石から目を外すと思い切り疑いのまなざしでこちらをじっと見るシホンさんと目が合う。
「・・・やめとく?」
「ごめんごめん。ちょっと考え事を・・」と誤魔化してはみたもののやっぱり本人に聞いた方が早い。
「どういう風に割ろうかと考えちゃってね。」
「ほー?言うとおりに割れると・・・?」絶対に疑ってるよね?ってかもう面白がってるよね?
「よーし決めた!しっかり見といてよ。」せっかくの披露。ありえない仕上げが一番いいと思うんだこんな場合。
で、石を左手、掌に載せて正面、肩の高さに持ってきてさらに数センチ上に掲げる。
その上でしなくていい溜めを作って。(もうこれは演出)
左手をサッと下ろすと石は下の支えを失いつつも一瞬空中にとまったように見えて、やがてゆっくりと下降を始めるその刹那
石の中央を俺の左五指が穿つ「バシュッツ!」
穿って即引くと石は何事もなかったかのようにそのまま自由落下して地面に落ちる。
(やれるもんだね。穿っちゃったよ。)
落ちた石を目にしたシホンさんは言葉を失う。
「・・・・」
少し地面を窪ませて落ちたその場に留まる石。その中央に穿たれた穴を目にして
「・・・すご・・・すごいじゃないですか??」
その後はその石をいろんな角度から見て触って穿たれた穴を確認する。
「これ、仁多さんがやったんですよね?」もう感嘆の一色
「うん。そうだね。」(そうです!俺がやりました!!)
広場の遠くではいまだ筋肉披露大会が絶賛開催中のようだが、俺たちはこれ以上騒ぎにならないようにさっさとその石を端に寄せて広場を後にして近場の飲食店でゆっくりお茶しながらお話しさせてもらいました。しっかり手を振って「またね~」ってね。なかなか話しやすくて楽しい娘。きっとまた会うよね。
シホンさんと別れて再び町の散策じゃなかった、実験の続きをやろうと町中を移動しつつ考察の沼にはまっていたら正門についてしまった。
「お出かけですか?」正門の入室門管理の兵にそう問われて慌てて周囲を見回し、正門に来てしまったことに気付く。
「いいえ。・・・あ!外に出るときは何か手続きはありますか?」
俺からの逆質問に、変なことを聞いてくる奴だ。とでも思ったのか彼の兵士は、身元を証明する書類と
行き先だけでよいでよ。と教えてくれ併せてただし入門は夕刻日の入りまでが原則です。と付け加えてくれた。
何しろ他の町からの伝令や、公務の場合などを除いて夜間は閉門するとか。魔物の類はこの世界にはいないと聞いてはいるがそんな世界でもそれなりの、たとえば山賊とか、強盗とかは一定数いて町に入り込んで家を襲ったり、盗みをして町の外に逃走するとかがあるのだという。夜間閉門はその対策でもあるらしい。
そんな話を兵士としつつ町の外を眺めていると通常の旅人とは違う比較的統制の取れた一団がこちらに向かってくるのが見えたので兵士に聞いてみた。
「あちらから、一団が向かってきてますが?」俺につられて指さす方向の一団に目を凝らした兵士は、やがて「今日の予定だと・・あれはヴァンス家の方々だと思いますよ。」
「・・・あれがヴァンス家の・・・」だらだら歩いていないでしっかりしてるしなかなかしっかり統率されているようだね。
(さすが、アルフレッドさん)
どのみち未だ紹介されているわけでもなく時間もあるし、ヴァンス家の皆さんを正門で見ていますか。
見ていようとは決めたものの、待っているだけというのは時間が長く感じるもので、すぐにでも着くと思っていた一団は意外にもまだまだ遠かったようだ。
地平線や周辺に比較物がない時は遠近感が狂うとはこのことかと思いつつも、いろいろと試す時間はできた。
まず遠方視。遠くの対象をよく見てやろう!というやつだがこれも使えそう。中型の馬車が3両と騎馬が5頭。一騎がやや突出して前に居て、後の4騎が並列を作っている。
先頭の騎馬が背中に旗指物をしていて、淡紫四角旗に騎士横顔に盾と槍 あれはヴァンス家の紋章だ。軽武装の帯剣。手槍装備
その後方2騎が同じく手槍に帯剣その後ろに続く2騎…はどうも女性か?うん。女性だね。基本的には前を向いているけれど、時折首が動いてお互いの方を向いているからね。片方の女性はポニーテールのようだ振り向くたびにテイル部が揺れている。
で、その後に続くように3両の馬車。それぞれに御者の姿が見える。
馬車の窓から見える顔がいくつかあるのでメイドや執事のような人が乗ってきたのか?
先頭の馬車のみは窓から中が見えないしどうも乗っている様子はない。
ということは帰りにエレノアさんとエミリーが乗って帰る用ということか?
と、次に遠方聴(分かりにくい人にはデビルイヤーでもいいや)。 件の女性騎士が話をしているようなのでちょっと盗み聞きしてみる。遠方視と組み合わせれば読唇術さながら誰が話しているかを唇の動きで知り、その声、内容を耳で聞くことができるので誰が話したかは一目瞭然。我ながら恐ろしい。これは使い方によっては諜報のプロ級の働きができそう。
で、肝心の内容は・・・「お腹空いたね。」「もうすぐ着くから我慢しなさい。」って真顔で話す内容かい!(ま、若い女性だってことで)
お迎え隊の登場です。




