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ニヤマーシャ 13

 その日の午後、串を平らげた俺たちは再び町へ繰り出していた。

 途中になった散策を再開するためである。

「もう買い食いはやめておきましょうね。」俺は出発前にエレノアさんとエミリーに念を押しておいた。

「ごめんなさいね。あまりにもおいしそうな匂いだったので・・・つい・・ねぇ?」

 エレノアさんの言い訳にエミリーも乗っかる。

「お腹が空き始めたときにあの匂いは、反則よ!」

(いや、確かにいい匂いで実際美味しかったけれど、ならその場で1本か2本で済ませるとか)

「買い食いなんて恥ずかしくてできませんわ。」自分の所業を棚に上げたよこの人…

「BPもおいしかったでしょ?」エミリーはBPと話し始める。

「ぴあー」

(あー美味しかったんだ。)例のごとく俺には何となくBPの言うことが理解できてしまう。

 まあ当然の流れでエミリーもそう解釈したようで

「美味しかったんだぁ」とBPにぐりぐりと頬擦りする。BPもまんざらでない様子。

「仁多さん。どこか気になるものは有って?」エレノアさんが俺に聞いてくるが今の俺には特にこれがというものはなく、とにかくいろいろと見て回りたいのだ。

「えぇ。まずは歩き回って町の雰囲気を知りたいですね。」

「そう?ではまずあちらの通りから見て歩きましょうか?」そう言って指さす方向には衣料品を始めとする服などを売る店が集中しているよう

「はい。そうですね。」通りに入るとエレノアさんは目について一軒のお店に俺たちを誘う。

「ここであなたの服を数着買いましょう。あなたの服も悪くはないのですが、ここでは少々浮いてしまってます。」

 そう言われて改めて自分の服装に目を向けると確かにそうだ。某〇-クマンで揃えたようなカジュアル作業系服装ではこの世界の服装と明らかに違う。

 無頓着であったが、よく誰も突っ込まず、注目もされなかったものだ。

 いや実は注目されていたのだが、無頓着な俺はほぼ気付いていなかった。いわゆる二度見三度見をされていて通り過ぎた後に「なんだあれ?」と噂されていたとは。

 せっかくの申し出であるしあまり浮いた服装もどうかと思ったので素直に受け入れたがほぼ店員の言うがまま気が付けば、それなりの服を購入していた。もちろんこれはエレノアさんが支払ってくれたのだが・・


 次に訪れた店はいわゆる武器屋。

 なぜ武器屋かって言うと、ここでの一般成人男性は、いや、女性もらしいが帯刀が常識とのこと。帯刀と言われても俺の感覚じゃやっぱり袴を穿いて、腰に大小 的な時代劇のイメージが強いんだけど…

 ここではもちろん腰に大刀の人もいるけれどそう言った人は一般的には町の外で活動する人が多いのだとか。街中でほとんどを過ごす人は脇差ほどのものが多く形状は多岐にわたっているため自分の好みや扱いで変わるそうだ。

 と言われても、普段から刃物を持って生活する習慣のない日本人である俺には選択が難しく行きつくところは大小の小の方。店の中をあちこち見て回って、ようやく見つけたのが刃渡り35センチほどの狩猟に使えそうなナイフ。肉厚で簡単に折れそうもないものを選ぶ。これが意外と軽く使い勝手がよさそうであるのでそれに決める。山刀の予備と考えれば一番使い慣れている部類かもね。

 しかし厄介なことになりそうなのも実感する。誰もが刀剣類を持って歩いている世界なんだ。

 これは感覚を研ぎ澄ましておかないと、うっかり命を落としかねない世界なのだなあと。


 さて、一方自分の買い物でもないことに付き合わされていたエミリーは暇を持て余し、BPを抱くのをやめてBPを傍らに座らせて切々と語っている。

「BPは私と一緒に暮らすことになるのだから、私の側から離れないようについて歩く練習をしないといけないのよ。」

「・・みゃう」

「そう?私の言うことが解るでしょ?」すっかりお姉さんかお母さんが妹なり子供なりに言って聞かせる口調だ。

「ぴあー」

「えらいわ~。BP」

「ぴあー」

 そこに俺たちが買い物を終えて近づくと、えみりいーは俺たちに気付いてBPを少し抱え上げて顔の前で念を押す。

「んじゃBP。さっき言ったように私について歩く練習よ。」BPを下ろしてくるりと向きを変えるとそのまま店から出ていこうとするエミリー。

「ぴあー。ぴあー」元気にエミリーに付いていこうとするBP。しかしまだ体が小さいので小走りでしか追い付かない。

(うん、微笑ましくはあるんだが。)

 実際に通りではちょっと危ないかな。

「エミリー。まだ早いわよ。」同じこと話考えていたようでエレノアさんから注意が飛ぶ。

「大丈夫よ。」振り返ってエレノアさんに返事をするエミリーの目の前で勢い余ったBPが前足を躓かせて転んだ。

「エミリーは厳しいわね。」そんなBPを今度はエレノアさんが抱え上げて離さない。

「ほら帰るわよ。エミリー」

「宿で練習するからね。」エレノアさんに抱えられたままのBPにそう言葉をかけると3人と一匹は宿に向かって再び歩き出した。


 宿に戻りその門をくぐったところでBPの特訓が始まる。

「さあ、BPお母さまから降りて私の側を歩く練習よ。」エレノアさんにBPを下ろす様に促しながらBPにそう告げる。

「はいはい。お姉さまがうるさく言う前に練習しましょうね。」エレノアさんがBPを地面に下ろせば、

「BPはこちらにいらっしゃい。」とすかさずエミリーが少ししゃがんでBPを呼ぶ。

 BPはエレノアさん、エミリーと順番に見て「みゃう」と一声上げるとエミリーの方にゆっくりと歩み寄る。

「よくできました。BP えらい、えらい。」エミリーがそう言いながらBPの頭を撫でるとBPは嬉しそうに「ぴあー」とおおきく鳴いて足元にこすりつく。

「よし。いくわよ。」今度は小走りで離れに向かって走る。続くBP

(なんかよさそうだ。本当の姉妹のように信頼できる仲になってくれればいいな。)と思わずにはいられなかった。

(うん。ここで実験。『BPとエミリーの言葉が心で通じますように…』・・・どうだ?)

 これでうまく行けば、『壁様』の言っていた話も実感できるかな。





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