ニヤマーシャ 10
自室に戻り久しぶりのゆったりとした時間。部屋に戻るもBPは俺が部屋を出た時のままほとんど動くことなく眠っていたのだろう。扉を開閉する音に反応したのか耳だけはこちらを向いている。
エレノアさん達との話で、あらかたの問題も一応の道筋をつけられたし、行く道も決まった。簡易ではあるが湯桶でしっかりと汗と埃も流せたし、あとはヴァンス家から呼び出しがなければ本当にゆっくりであるが…
まあ、そこは気にせずBPとの時間を大切にすることにする。
豹の子と言えどネコ科、子供のうちは本当にかわいい。
これではエミリーが夢中になるのも仕方がない。
(なあ BP)声に出さずにBPに呼び掛けてみる。
「ぴあー」偶然か?呼びかけに呼応するようにBPから返事かと思うじゃないか。して振り返るBP
「ぴあ~」ん?びみょ~に語尾がさっきと違うような…
BPを抱え上げてじっと目を見つめる。
それに応えるようにジッと見つめ返してくるBP
「ひょっとして俺の話聞いてる?」
「ぴあー」聞いてると言わんばかりの見事な応え
「・・そうか聞いてるのか。」
「ぴあー」
(偶然だよなぁ)
「ぴあ~」
「そうか。偶然じゃないのか?ごめん。ごめん。」
今度はグルグルと喉を鳴らして応えてくる。
「おまえはこの世界の生き物なのか?」(本人に聞いてもわかんないだろうけど…)
「ぴあ~」
「そうか?違うのか? じゃあ俺と一緒で異世界からか?」
「ぴあー」
「まさか地球からか?」(いや、まさかな。)
「ぴあ~」
「そうか?地球ではないんだ。」
「ぴあー」
「ふう。なんか普通に会話してる気分になってたわ。」
「ぴあー。…みゃう」
「『会話してるわ!』か。」
「まあ、いいや。そういうことで。明日時間があったら町へ出たいもんだな。BP?」
「ぴあーー」
「そうかそうか。出たいか?」
「時間があるといいな。」
「ぴあー」
その後、宿屋の方の案内で遅めの夕食を食堂で摂りゆっくりと就寝できたのは言うまでもない。BPの分もしっかり忘れずに take out 後でゆっくり部屋で食べてもらったさ。
が俺の聞いていた異世界ものって飯で一波乱あることが多いらしいけど、普通においしかったしまあ、多国籍料理みたいな要素はあったけど、スープに肉にパンの普通に洋食っぽいメニューだったよ。
『壁様』も言ってたしね。ほとんど俺のいた世界と変わんないってあとは食や文化の発達具合が問題となるくらいでしょ。多分。
肉の種類とかは聞かなかったけど、豚肉っぽい食感に味、ポークソテーみたいな仕上げで少し酸味が効いてたし、想像以上に柔らかい肉だった。スープには野菜たっぷりの根菜。
あれはジャガイモの一種かな?
玉ねぎに人参のようなものでカレー粉が入る手前の状態みたいな雰囲気があったな。
そうそう。
さすがにお米と麺類見なかった。今回出なかっただけという可能性もあるけどね。
また機会があれば宿の人に聞いてみ居てもいいし、エレノアさんなんかよく知ってそう。
未だ食に飢えてはいないけど、やっぱりお米は食べたいしね。ないとなれば古米でも古古古米でも
ほしくなるもんだね。実感したよ。日本のお米はおいしかったんだって。
翌朝、朝食で出会いました。お米。だと思うもの。炊いた仕上げじゃないからちょっと違和感だけど、これどういった調理法?蒸した?少し粘りが強かったんだけどこれはひょっとして品種のせい?
米も改良に改良を重ねて丈夫においしくなっていったと聞いてる。なのでこれもまだ途中なんだ。きっと
ということは、文明度からして日本の戦国時代はこう言った米を食していたのかもと想像するとまたこれも感慨深くて…とは言いつつ俺の居た世界と同じ進歩をしているとは言えないものね。偶然はあるだろうけれど。
食事のあと、町を見に行きたい旨をエレノアさんに申し出たところ警衛本部での処理が終わってから一緒に行かないかとの返答があったので快くお願いしておいた。
と今はその警衛本部。エレノアさんが警衛隊とのやり取りは全て引き受け俺とエミリーは半ば見学と言った状況。BPはちゃっかりとエミリーが抱きかかえている。
さすがに昨日我々の対応をした ヤックハルス は非番で不在だったため、現直班の班長が対応してくれている。
「私は第1班長のワッツと申します。申し訳ありません。本部班長が不在にしておりますので私が対応させていただきます。昨晩の件は第3班長からも申し送りで伺っております。」
「そう?であればよろしく。」エレノアさん外ではやはりこう言った口調なんだ。これを貴族然としたというのかどうかは知らないが、表向きは大切なのだろう。
「はい。まず簡単なものから。一件目そちらの
動物の件ですが、今回限りの特別事情を踏まえた上での処置となりますがニヤマーシャを出るまでの許可となります。」
テーブルの上に一通の書類を広げると
「こちらがその許可証となります。」エレノアさんの前に許可証が差し出される。
「なるほど。一度町から出れば終わりということね?」
その間もBPはエミリーにおとなしく抱かれながらも自分の話と知ってか知らずか警衛隊とエレノアさんのやり取りに耳をそばだてているように思える。エミリーもそんなBPに気付いているのかいないのかただ黙ってBPの頭から背中をゆっくりとなでおろしている。
「はい。危険性がない生き物であると証明ができるものであれば恒久的な許可証が発出できますが、何分猛獣と判断されましたので…申し訳ありません。」
「やむを得ないでしょう。限定とはいえ寛大な処置に感謝します。」
ミャーミャー騒がしく暴れられるよりはよっぽどいいのだが、やはり先ほどの宿でのBPとの会話もどきが気になる俺は、そんなBPが『実はすべてわかっていて』おとなしく聞いているのではないかと勘繰りたくなる。
「みゃう」
そんなもんか。と聞こえた気がした。思いがけずのその声に半ば驚いて気が付けば じっ とBPを凝視していた。
「どうかなさいました?」さすがにそこまで凝視してしまえばエミリーさんも気になるのは当然
「・・いえ、BPが意外におとなしくて静かだったもので」
(・・声が聞こえたとはいえないしな・・・)
「ええ。BPは良い子だものねぇ~。」BPの顔を覗き込むようにおどけるエミリーさん。
「ぴあー」 BPはそのエミリーの声に応えて一声鳴く。
(そのとおり?って言った???)俺はそう聞こえた気がしてまたBPを見つめる。BPは俺とちらっと目を合わせたあとスッと目をそらした。
(・・やっぱ。間違いなさそうだ。)
「次ですが、お預かりしている馬の件ですが今朝宿屋の馬房に移動させております。つきましては飼葉代
と一晩のお預かりの費用の請求書にサインを頂けますか?」
差し出された書類にひととおり目を通すと
「わかりました。問題はありません。」書類にサインをする。
「ありがとうございます。次に盗賊の処置についてですが、」
こちらの町の法律で裁き、判決に応じた収監等 又はヴァンス家で裁く。ふた通りの手段が取れることが説明される。
「こちらの法で裁いた場合の彼らの見込みは?」
「はい。実際は裁判になってみないと分かりませんが、徒党を組んでの貴族襲撃ということで最高で死刑軽くても終身労働が適用されるかと。」
「・・わかりました。それでは手数ですがそちらでお願い。」
「承知いたしました。ほかに何かご希望はございますか?」
「いいえ。厳罰に処してもらえれば私どもはそれで結構です。」
淡々と、事務的に処置が進んでゆく。まもなくして在任引き渡しの書類が作成されエレノアさんが書類にサインを済ませると、警衛本部でのすべての処置が終了となり、我々は事務所を後にした。
いや~書くって難しいものですね。では、




