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ニヤマーシャ 8

 俺としても今後の流れが決まる分水嶺だ。判断を誤れば自分の身の振り方が大きく変わる。

 何より俺は、ここの世界の常識というか一般的な知識も持ち合わせないストレンジャーなのだ。

 それはヴァンス家の人にとっても同じ、俺という得体のしれない人間を信じてよいのかどうか。

 しかもヴァンス家は先の襲撃事件で一家の主を失っており、現状は母と娘の男爵家。道すがら聞き及んだところによれば、その存続自体も危ういのではないか?そんなところに俺の存在…俺でも心配だわ。

 俺に今できること。この世界の知識を得なければ何をするにも要領を得ない。そのためには教育役(いやこの場合「後ろ盾」か?)がないと明日の生活もままならない。

 そんな事情の中できることはただ一つ。ヴァンス家が、今回のことを恩と捉えてくれるなら思いっきり甘えたい。(じゃなかった、助けになってほしい。)ただこれ以上俺が何かをヴァンス家にしてあげられるとは今のところ思えない。

 ヴァンス家とはここまでの付き合いと割り切って、自分一人で何とか今後を切り開いていくのが本来なのだろう。

「私のことから話しましょう。」意を決して俺は話し始めようとしたが、エレノアさんが手で制した。

「あなたのことは知りたいのだけれど、その前にまず最初に言っておかなければならないことがあります。」一息おいてエレノアさんは続ける。

「まずは主人のこと。ありがとうございます。どれだけ言葉を尽くしても足りないとは、理解しております。分かっておりますが、それに主人との約束を守り私たちのことをここまで無事に連れてきてくれたことについて本当に感謝しています。それことだけでも、あなたが私たちにとって信じるに足る人であると感じて、いえ。判っています。」

「私からもありがとう。仁多さん。」エミリーもそう言って涙を浮かべつつ俺にぺこりと頭を下げる。

 道中の言動で理解はしていたが、どうしても貴族というのは偉ぶっている印象が俺には強い。偉ぶってというよりはその立場への矜持というか俺たち一般人には図り知れない軋轢もあるのだろう。その貴族の女性が俺に対して深々と頭を下げているのだ。

「・・エノレアさん。エミリーさん。どうかそこまでにしてください。あまり丁寧にされると却ってこちらが恐縮します。」本当に俺の方がこしょばゆい。エレノアさん達には頭を上げてもらう。

「お二人の気持ちは十分に分かりました。私も包み隠さずお話しします。」

 そういって話したのは、俺がジャングルで遭遇した人が行方不明になる謎の事件。ヴィラムの森に出現したこと。トルバーさん達のこと。BPとの出会い、そして先だっての事件現場に遭遇したこと。

(『壁様』のことは取り敢えず話さないでいた。話しても意味不明であろうし俺も理解していない。)

「そう言うことで、私はたぶんこの世界に紛れ込んだ異世界人とでもいう存在なんです。そして元の世界では私はただの学生。。学問を学ぶ身」俺は胸のホルスターから拳銃を取り出してテーブルへと置く。

「そしてこれがあの武器と同じ働きをする拳銃というものです。つまりあれもこれもがすべて私のいた世界の物です。」

「・・・」しばらくの無言の後エレノアさんが口を開く。「・・異世界?・・ですか?」

 他の国などであれば容易にイメージができるのであろうが、この世界ではまだこの世界以外という発想がなかったようである。

「そうです。この世界とは違う全く別の世界。」

「その別の世界はどこにあるのですか?」エレノアさんが聞いてくるのも無理はないが、こればかりは俺も説明ができない。というか俺自身も理解できていない。

「有るはず(俺が生きてきた世界なんだから)なんですが、正直なところ私にも理解ができません。ただ、そういう概念として知っているだけで。」

 知っているだけなんだ。来てはしまったが帰る方法も知らない。それ以前に異世界という言葉のイメージを知っているだけでどんな理屈かなんて考えたことすらもない。そもそも異世界って俺のいた世界とどう関係しているんだ???

「そこでお二人にお願いしたいのですが、ここの世界のことを教えていただけませんか?」

 俺のお願いに二人は顔を見合わせるがすぐに俺に向き直り

「わかりました。ではもうしばらくは私たちと同行ということでよろしいですね?」エレノアさんはそう言うと、エミリーは大きく頷く。

「あ。はいそういうことでお願いします。」今度はこっちが深々と頭を下げる番である。

(何せ渡りに船。願ったりかなったりである。)

 そして、エレノアさんからこの後の予定が説明される。

 この町を立つのがおそらく四日後。警備隊からこの事態をヴァンス家に伝えるための早馬が仕立てられており既に出発しているとのこと。

 その警備隊に明日以降事態の説明と犯罪者の引き渡し等々の処置

 ヴァンス家邸から迎えの者が到着するのが早くて明日夜。遅くても明後日には到着するであろうとの推測のほか、アルフレッドさんの処置がそのころまでかかるとしてなどの判断から導き出されているようである。

 アルフレッドさんの件に関しては宿屋が手配をしてくれており、その回答はこの後エレノアさんに報告が来るはずだ。

「仁多さんには当家の客として、当家にて滞在していただきます。」

「時に仁田さん。その拳銃と小銃について教えていただきますか。その武器のことを。」

「この拳銃は・・・」

 一応馬車の中で小銃を例に簡単には説明してはいたが、二人に銃について俺の知り得るところを余すことなく説明する。

 拳銃の弾倉を外して弾丸を取り出し機能を簡潔に説明する。

「これが弾丸と呼ぶもので、この根元の部分に火薬が詰まっています。この火薬の爆発力によって先端部分が先方に飛んでいき殺傷能力を発揮します。」

「・・・火薬というのは?」どうやらこの世界にはまだ火薬の類がないらしい。

「この場合、衝撃によって急激に燃焼して爆発するもの…と言えばよろしいでしょうか?」

「・・・何か難しそうですね。」エレノアさんは理解が追い付かないのか難しい顔をしている。

 その横で解っているのか不明だが、エミリーがうんうんと相槌を打ちながら黙って聞いている。

「そうですね。少し違いうかもしれませんが、爆発はこう…あるものが急激に膨らむと理解してください。」胸の前に両手で円を作ってからサッと広げて見せる。

「今は全体に広がりましたが、これを 例えば筒の中などでやれば、横には広がれないのでその分開いた出口の方に向かいます。そうすれば一つの方向に大きな力が」

「ドン!って 扉を蹴破る時みたいなものね。扉は勢いよく飛んでいくもの」とエミリー

(蹴破ったことがあるの?)

 思わぬ発言にエミリーの顔を覗き込むように見つめてしまった俺とエレノアさん。

「・・あぁ ちょっと違う気もしないこともないけど、蹴る力が爆発だね。力一杯蹴れば扉は飛んでいくけど、ちょっとの力だとあまり飛ばないよね?」

「えぇ。そうね。」

「その大きな力を出すためのものがここにあって、ちょうどここ」弾丸の後方丸い部分を指し示した上で

 拳銃を構えて引き金を引く。

「引き金を引いたときに、中で針が勢い良くそこを叩く と この中で爆発が起こって、結果先端部分がものすごい勢いで飛び出して行って標的にあたるってことだね。」

「その時の音があの大きな音なのね?」エミリーが目を輝かせながら聞いてくる。

「そう。爆発した勢いの音だね。」

「まるで雷でも落ちたかのような大きな音だったもの。。あれだけでも敵を倒せるかもしれないぐらいの」初弾を放った時の一瞬「時」が止まったようなみんなが止まってしまった状況を思い出しながらエミリーが話す。

「・・ということは一度撃ったらもう使えないということね。」そうなのかしら?という感じでエレノアさんが問うてくる。

「弾丸についてはそうです。銃本体については(故障がない限り)弾丸がある限り使えます。」

「そうですか。それでその弾丸というのはどれくらいあるのですか?」

「正確には確認しないと覚えていませんが、こちらの方はおおよそ4箱で200発分ほど。小銃の方は弾倉で6個分でざっと180発(-6?)ほど…(あの時6発…撃ったよな。)です。」

「それが多いのか少ないのかはともかくとして。その拳銃と小銃については警備隊にはそのまま秘匿とします。」エレノアさんはエミリーに視線を向けて念を押す様に頷く。

「はい、分かりました。お母さま」







お読みいただきありがとうございます。

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