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ニヤマーシャ 7

 宿は街中、やや高級地域寄りにある一般の宿ではあるらしい。往路で昨日宿泊したばかりの宿である。低階層の建物の並ぶ街中にあってやや高い3階建ての大きな宿である。各地を転々とする旅の者や商人に人気の表向き大衆的な宿は、離れの建物を敷地内にいくつか所有しており、その離れは一部貴族の御用達ともなっていて、今回もその離れの一つが提供される。が、入ってきた馬車の紋章に女将の表情が一瞬曇る。

 が、そこはプロ。

 即座に何食わぬ表情に戻ると、他の従業員を引き連れながら深々と礼を取り出迎えを行うと、馬車の手綱を取るエミリー、馬車から降りるエレノアさんに俺が引き続くかたちで降りていくと後がいないことを確認して素早くエレノアさんの側に歩み寄ると、営業スマイルを表情に張り付かせて

「いらっしゃいませ。」とあいさつすると

 ツツーとエレノアさんに近寄り、真顔になってエレノアさんに言葉をかける。

「奥様。早急に必要なことはございますか?」

「ありがとう女将。早速ですがアルフレッドのために部屋を一つ。それから(遺体の)保存技師の手配をお願いします。」そうしているとエミリーが御者席から降りてき来つつ

「馬と荷物をお願い。」と女将へ

「はい。奥様、お嬢様すぐに手配を。」即座に隣に控えている従業員に保存技師の手配を指示し、更に奥に目線を飛ばして一人の男に目を止めると、

「ジョニアス!こちらの方も部屋に案内して。」

「はい、ただちに。」女将の指示を受けたジョニアスは俺のもとにやってきて部屋にエスコートをしようとしたが、エレノアさんがストップをかけた。

「一刻後を目途に私どもの応接間に彼を案内してください。」エレノアさんがジョニアスに直接そのように指示した後 俺に向かって

「少し今後について話が必要でしょう。一刻後に案内させますから私どものところにいらして下さい。」

「わかりました。それでは一刻後に。」と応えると、待っていたジョニアスにエスコートを促す様に頷く。

「それでは、こちらです。」ジョニアスの案内で俺は自分に割り当てられた部屋に向かった。

「女将。手配の件はその折に教えておくれ。が、早く作業に掛かれるようなら初めてもらって構わない。その件も含めて一刻後に。」保存技師の確保については気がかりではあるが、エレノアさんの中で、優先事項は俺との今後の話になったようだ。

「はい。すべて承知いたしました。それでは」女将は深々と頭を下げると、後方に下がりすぐに仕事に戻って行った。



 コン。コン、コン

 一刻の少し前、俺は旅の汚れをさっぱり落として、その勢いでBPもじゃぶじゃぶしてやった。部屋中を逃げ回ったBPだったが今は俺と部屋に備えられた椅子にくつろいでいる。と、部屋が静かにノックされた。

「仁多様。お迎えに参りました。」扉の向こうからそう声がする。ジョニアスだな。

「今行きます。」ジョニアスの呼びかけにそう答えて、くつろいでいるBPにも声をかけておく。

「おとなしく待っててくれ。」少し暴れて疲れているならこのまま寝ていてくれるだろうけど。

静かに外出の用意をすると扉を出てBPを起こさぬよう静かに扉を閉める。

「お待たせしました。」ジョニアスさんに待たせたお詫びをしつつ、彼の案内で離れのエレノアさん達のもとに向かう。

 俺の案内された部屋は本館のようで、一般的には商人や旅人たちが利用する一般的な部屋が備わった造りであり、2階から3階は個から複数人の宿泊できる部屋がそこそこあるようで。現代風に言えばシングル、ツイン、それ以上と言ったところか。

 もちろん俺が利用する部屋はシングルに相当しているが、それでも高級の部類に入るのであろう。

 価値はわからないがちょっとした雰囲気の調度品が備わっており、なかなかにくつろいだ部屋である。

 ベッドもやや広めに設計されており、ここの世界の平均的は身長は、私より少し大きなサイズなのかもしれない。

 現に警衛隊の隊員にしても、盗賊たちにしてもイメージとしては『ごっつい』が適切であり、幅も少なからずある。唯一の例外はヴィラムの森のトルバーさんぐらいか?日本人としては大きい部類の俺がここでは標準より少し小さいかも知れないという事実は少なからずショックだ。

 そうこうしているうちに、エレノアさんの待つ応接間に着いたようだ。ジョニアスのノックの後静かに扉が開かれ、身だしなみを整えた二人が目に入る。給仕によって供されている飲み物を飲みながらくつろいでいるようである。

「エレノア様。お待たせいたしました。仁田様をお連れしました。」二人を前に深々と頭を下げつつ報告するジョニアス。

「ご苦労様。」軽くいたわりの声をかけるエレノアさん

「仁多殿。そちらの席にどうぞ。」エレノアさんの言葉にジョニアスが席の椅子を静かに引く。

「ありがとうございます。大変お待たせしたようで。失礼しました。」俺も遅くなったことを詫びながら席に着く。

「飲み物は何になさいますか?」給仕が側にやってきて俺に尋ねるが、実際ここの飲み物を俺は知らない。

「では、まずサッパリとした冷たいものを一杯。その後に温かいもの・・お二人と同じものを。」

 給仕は「承知」といったん下がるとすぐに冷たい飲み物を持ってきた。

「それではいったん人払いをします。誰も残すことなく退出を。」エレノアさんが人払いを命ずる。

「何かございましたら、こちらのベルでお呼び下さい。」ジョニアスさんがテーブル脇のベルをエレノアさんの側に置くと、すべての人をまとめて退出していく。

 全員が退出するのを待って、エレノアさんが口を開く。

「さて、これからのことを話し合いましょう。その前に仁多さん。あなたのことをもう少し知りたいのだけれど?」

(確かに出自の怪しい不詳な男は心配だよな。)









いつもお読みいただいてありがとうございます。

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