ニヤマーシャ 6
後ろからは「ゼーゼー・ヒーヒー」捕虜たちの荒い息遣いが聞こえてくる。
そんな捕虜たちの様子を横目に捉えながらエレノアさんからの質問が来る。
「ところで先ほどの、彼らを倒したあの道具はどういった物なんですか?」
「そうなんです。私も気にはなっています。雷かと思うくらいの大音声を発したと思えば馬上の人が崩れ落ちるのですから。・・・不思議でなりません。」前から目を離さず少しの振りむきで御者席からエミリーも重ねてくる。
(正直に言ってもよいものだろうか?)決して悪い人たちには見えないし。
(隠し通せるものでもないし。・・何よりここは信じるしかない。)
エレノアさん達にしても俺を頼りにしたいもののどこの馬の骨・・不安はあるだろう。
何より俺も、道中エレノアさん達と過ごすわけだし、信頼関係は必須だ。
俺は手元にある小銃をつかみ直すと、弾丸が装てんされていないことを手早く再点検し、エレノアさんに手渡そうと差し出す。
恐る恐る手を出すエレノアさんであるが、あれだけの大音量と崩れ去る様子を直に見聞きしていて恐怖心がないわけなかろう。
「大丈夫。今安全を確認しました。触れても何もありませんよ。」笑顔を浮かべながら、そう説明すると
落とさないように気をつけてくれながらしっかりと受け取り膝の上に静かにおいてじっと見つめている。
「それが、先ほどの武器で『小銃』と呼んでいます。」俺の声に顔を上げたエレノアさんは
「・・ショウ・・ジュウ・・」とゆっくりと噛みしめるように言葉にする。
御者席でも同じように「ショウ・・ジュウ」と言葉にしているエミリーさん。
ポケットの中から弾丸を取り出しエレノアさんに示しながらゆっくりと説明する。
「これを小銃にセットし引き金を引けばまっすぐ敵に飛んでいきます。」
エレノアさんの膝の小銃のひいき金部分を指さす。
その指差しに(これ?ね。)
「そう。それです。」
「弾丸が撃ち出されるときに出る音があの大きな音です。」
「・・・小銃。私たちは初めて見ましたし、初めて聞くものです。」
それからしばらく馬車の中ではエレノアさん相手に小銃の弾込め、狙い、撃発など一連のことを説明し、射撃手順のデモストレーションとなった。もちろん弾込めはない。
「反動がすごいので引き金を引くときには小銃の保持はしっかりしていないと頬骨を折ったり肩を怪我したり思いもよらない事故やけがになることがありますから。注意してください。」と付け加えながら
(間違ってもエレノアさん達が銃を撃つことはないか。)
「町の門が見えてきました。」
御者席からエミリーの声が響く。
その声に誘われて前を覗くと確かに城壁とその一部に暗い場所(門)が見える。
「少し入門者が多いようです。ちょっと列になっていますね。」エミリーさんから様子が伝えられる。
「待ち時間があるということでしょうか?」エレノアさんに尋ねると、そんなことはなくそろそろ門兵がこちらに気付いてやってくるはずだという。
さすがにこれだけの捕虜(罪人)を引き連れていれば、そのまま入門とはいかないであろうが、今日のところは簡単な説明で事情を汲んでもらって、明日改めてということになるだろう。なによりアルフレッドのことを早急に手配しないといけないのである。
「早速、門兵がこちらに向かってますよ。」エミリーさんが荷台の俺達に向かってそう告げる。
「ニタ殿。小銃は彼らに見られないように何か掛けておいた方がよいでしょう。」
「そうします。それと BPのような生き物は大丈夫なんでしょうか。?」
小銃の上に簡単に毛布を掛け。自分の荷物で見えない位置に移動する。
「BPですか?その大きさで、この状態なので登録さえしておけば問題ないはずです。」
詳しくは知らないが、以前そうして入門していた者の姿を見かけたことがあるそうだ。
先頭の馬に乗っていた兵士が御者をしているエミリーさんに声をかけてくる。
「ニヤマーシャ警備3班長 ヤックハルスです。こちらヴァンス家の馬車とお見受けしましたが。」
「ご苦労様です。間違いありません。私がエミリー・ヴァンスです。」馬車を停止させながらも、さすがに貴族ご令嬢堂々とした名のりである。
ヤックハルス班長の視線は馬車をサッと一巡しつつ後方の捕虜と馬に視線が止まる。
「や!これはご令嬢自らとは知らず、大変失礼いたしました。」班長はサッと姿勢を正してエミリーさんに敬礼をする。どうやら挙手の敬礼で地球と同じ様である。
「かまいません。」班長の敬礼に簡単に目礼で返しつつ続けるエミリーさん。
「道中、盗賊に襲われました。彼らはその罪人です。そちらに引き渡します。」
「では、こちらで引き取ります。」
「助かります」
「いえ。この後盗賊の件で2、3 伺っておきたいことがありますので、警衛本部にお立ち寄りいただけますか?」
「その件ですが、優先案件が発生しているので明日こちらから使いを出します。あなた宛てでよいかしら?」エレノアが顔をのぞかせエミリーから交渉を代わる。
「わかりました。それではこの件は一旦保留としておきますので、明日の連絡は本部班長へお願いします。」サッと一礼すると、馬首を回し後方の班員たちに指示を出す。
「馬車後方の盗賊を連行する。」
「ハッ!」班員たちは速やかに馬車と盗賊を繋いでいたロープを解くと引綱につなぎ直して連行の体制をとる。
「班長。連行の準備できました。」
「よし。連行しろ。」ヤックハルス班長は班員の先任にそう支持すると再びエレノアに正対する。
「それではヴァンス様。私が先導いたします。」
「よろしく頼みます。」
ヤックハルスは手綱を緩めて馬をゆっくりと前に進め始める。彼の馬が前方に位置するとエミリーもゆっくりと馬車を出発させる。
半時後馬車はニヤマーシャの街中にいた。
「それでは宿に向かいましょう。」エレノアはそう告げた。
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