表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/68

ニヤマーシャ 4

騎馬リーダーに合わせた照準のまま静かに引き金を落とした。

(・・そう。引くのではなく、落とす。)

『ズキューーン』小銃の発射音が周囲の空気を震わせつつ、発射された弾丸は寸分も違うことなく騎馬リーダーの左側頭部を打ち抜いた。その衝撃にほんのわずかに上体を右に傾けながらゆっくりと前向きに崩れ落ちていく。それを最後まで見届けることなく続けて一人目の弓の男に照準を合わせる。その間コンマ数秒。

リーダーの容赦ない言葉により弓の二人の矢もまた、母と娘に向かって放たれようとしていたが、小銃の発射音は弓の二人の動きを一瞬止めるとともに他の騎馬隊の男らの行動も止めた。

間髪を開けず2射目が放たれる。間髪を入れずに2人目の弓矢の男へ照準を・・3弾目発射!

弓の男たちが静かに落馬してゆく。

その間に馬車の男はリーダーに迫りつつあったが、相手が崩れ落ちるのを見るや否や脇を固める騎馬の男たちに向かう。しかし、行く手を塞がれそのうちの一人の剣を受けてしまう。

3弾目を発射した後で素早く小銃の発射モードを連発に切り替え据銃し直しつつその場に立つ。

騎馬隊はそのころになってようやく意識を取り戻し周りをきょろきょろしてようやく俺の存在に気が付いた一人が、俺を剣で指し示しながら叫ぶ。「あそこにいるぞぉーッ」

その声に騎馬隊の全員の目がこちらに注目するが、残り9人

(どいつが、リーダーになる?それともすでに烏合の衆か?)

短射3発!連中の前方に打ち込む。ズボッ、ズボッ、ズボッ3発の弾丸が地面を穿つ。

再び起きる騎馬隊の思考停止。

(むりもない。出会ったことのない武器だろうて・・何が起こっているのか正確に理解していないだろう。)

騎馬隊が思考停止状態のうちに次の行動に移る。

腹の底から精いっぱいの声を出す。

「聞けぇー! 一撃でお前らの3人を倒した。その上でまだ戦うのなら相手になるが返答やいかに!」

騎馬隊の誰もが動かなかった。戦意を喪失しているようだが油断も容赦もしない。

「全員馬から降りて武器を捨てろ!」

騎馬隊の行動を急かす様に今度は上空に向けて短射一発

キューーン

騎馬隊の剣が次々に地面に向け放棄される。次に先を競うように馬から降りていく。

「よーし。全員横一列になれ。」互いに顔を見合わせながらバタバタしているので銃口で一人を指し示し

「お前少し前に出ろ。」示されて男が一人前に出る。

「両手を頭の上に組んで地面に膝を着け。」恐る恐る男が俺の指示に従って何とか所定のポーズをとる。

「後も者は同じように横に並べ。」順々に男たちが並んでいく。

全員が同じポーズで並んだのを確認し彼らの後ろに回る。一人ずつ地面に付いた膝を開かせていく。立ち上がりにくくするためだ。

馬車の男の様子を見る。息は絶え絶えだが安堵の表情が垣間見られる。

「あんた。動けるか?」 「・・あなた」 「お父さん・・・」女と娘は男に駆けよって傷の具合を見ながら処置をしているが、大して効果は期待できそうもない。かなり深手のようだ。

「娘さん。悪いが御者の様子を確認してくれないか?」その呼び掛けに娘の反応が早い。

「はい!」返事をするや否や周囲を見渡して御者を確認すると駆けだしていく。

御者の傍らに滑り込むと、(本当に滑り込んだ。活発な娘)即座に心音と呼吸の確認をしているよう。

遠目にも半ば絶望ではあったがやはりこと切れていたようで、娘はこちらを振り返ると静かにゆっくりと首を横に振った。俺もそれに応えるように(残念です。)と大きく頷いて返した。

「あなたーっ!」母親の方はすでに絶叫の状態に近い。その声を聴いて先ほどの娘も父親のもとに駆け戻る。

俺も捕虜から目を離さないよう注視するが流れる血が止まる様子はない。

娘は(何とかならないの?)という目で俺を見てくるがさすがに医学の知識はない。

腕や足なら止血も可能かもしれないが、胸を切りつけられていては俺には処置がわからない、ただ押さえて止血が可能なら何とかなるのだろうがすでに血が流れ過ぎたようで顔色は優れない。

(持たない。)俺の率直な感想だ。母親は一生懸命傷口を押さえているが吐血する。

「・・エレ・・ノア、・・エミリー・・(グボッ)」

「アルフレッド!(あなた!)」

「お父さん!」二人は男の手を固く握ったままじっと見つめるが言葉が返ってくるまでに間があく。

「・・・すまぬ。どうやら私はここまでのようだ。」この言葉に返すこと言葉を詰まらせる二人。

そのあとアルフレッドは俺に目線を走らせて

「どなたかは存ぜぬがご助力感謝する。・・・」

しばらく俺の値踏みをするようにじっと見続ける。

「あ、すみません。私は仁多ニタと申します。」軽く頭を下げながら名乗った。

やがて、「フッ」と気を抜いように力を抜くと唐突に俺に話し出す。

「・・いや、こんな格好で申し訳ない・・(ゴボッ)・・私は、アルフレッド・ヴァンスだ。」

「いえ、こちらこそ。お気になさらず・・」

「・・何やら恐ろしく強力な武器をお持ちのようで・・妻と娘が無事で何よりだ。」血の気の失せた顔でそうとは思わせない笑みを湛えて妻と娘に目線を移す。

「助けてもらっておきながら重ね重ねだが、二人を何とか我が家までお願いできないだろうか?」

俺が突然のことに答えられずに立ち尽くしていると、

「恩人に礼の一つもできんとあっては我がヴァンス家の恥になる。・・」

そのまま目線を妻に合わせながら付け加える

「なあ・・・エレノア?」 その言葉にエレノアも泣き出していた口元をぎゅっと締め

「・・・はい。・・・もちろんです。」大きく頷きながらアルフレッドの言葉に同意する。

「ニタ殿、紹介が遅れてすまぬ。妻と娘だ。・・先ほどの願い頼まれては・・くれない・か?」

「・・私でよければ・・・」それ以上は何を言っていいのか考えが及ばず以降は無言となる。

「・・ああ、・・・すま・・ぬ。」そこまでを言葉にしてアルフレッドは息を引き取った。

草原に二人の絶叫が響き渡った。






いつもありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ