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ニヤマーシャ 1

「大変お世話になりました。」

朝になり、すべての用意を整えた俺は、トルバーさん達に見送られてニヤマーシャの町へ向けて出発した。

うれしいことに出発前にはルミーズさんがサンドウイッチのようなものをお弁当に持たせてくれてトルバーさんは昨晩のワインとは違う種類のお酒を小分けにして持たせてくれた。

「いろいろと用途もあろうて。」

お酒は飲む以外に何の用途があるのか俺にはわからなかったがまあそこそこ使い道はあるらしい。

一番の用途は飲むだが、2番目以降には旅の商人などと仲良くなるためのアイテムとしてとか、気つけ薬としてや、まあ工夫次第で活用はできるらしい。とそこまで言われたら俺も一つ使い道に気付いたぞ。

けがなどの時の殺菌・消毒だ。トレバーさんにそれを伝えると

「サッキンとは何じゃ?」ですか? えっ殺菌の概念まだこの時代にない…のね?

「傷口にお酒を振りかければ怪我がひどくならなくて良いってこと。」

「ほう。そうなんじゃな」納得したのか、していないのかトレバーさんは俺の言葉にうんうん頷きながらも首を傾げたりしている。

(まあ、細菌とかウイルスとかの概念がないと理解できないかもね。そういうものだと覚えない限りは。)

これが文化レベルの違いかもと思い至りながらあまりうかつな発言ほ厄介なことになるかも…だな。魔女狩りの対象にされかない。気を付けないと。


 教えられた道を黙々と一人進む。何せ道と言ってもほぼほぼ獣道。何せ通る人と言えばトルバーさん夫婦とまれに町からの来訪者と言ってもほとんどいないらしいが、で、今回は俺が新しく道を着けているような状況。しっかり説明を聞いていなければ迷いそうな細道である。

とはいうものの草丈が高いわけでもなく、周囲が木々で覆われているわけでもなく低草の生える開けた土地であり、ほぼ一直線と言える。

配置しているわけではないようだが、うまい具合にこの細道のところどころに立木があり程よい木陰を提供してくれている。それだけでも非常にありがたいのだがさらに湧水をたたえる泉まである箇所があり、ここが栄えないのが不思議なほどだが、考えてみれば誰も行かないヴィラムの森に街道があっても無駄なことかと思い当たる。

さてこの細道を一日歩けばやがて、旅人によって踏み固められた本当の街道に出るらしいがそれでも人がようやくすれ違える程度の幅しかないらしい。ということは幅1mもないということか。そんなことを思いながら獣道同様の小径を進んでいると湧水と木立を備えた休憩所?が見えてきたのでそこで大休止を取ろうとずんずんと進む

(いい感じの場所だな。それにいい具合に岩の椅子もあってこれは休憩しない手はない。)

岩に腰かけ、装具荷物を下ろし周りに並べる。水筒から汲み置きの水を一気にのどに流し込む

(ふぅ~。一息付けるというもんだ。)

湧水を汲んで飲み水にするため火を起こす。沸騰させて殺菌するためだ。トルバーさん達は湧水なら問題なく飲めるというけれど、湧水といえど何が混じっているかも知れない水はやはり怖い。それにおそらく抵抗力がここの人とは格段に劣っていることは想像に難くない。仮に俺の見かけどおりに丈夫だとしても、それでも生水は怖いと思ってしまう。もう仕方がないことだと思う。


ぱちぱちとくべた小枝が水分を破裂させながら小気味良い音を発している。十分に火力が強まり安定を見せると俺は少し離れた泉に水筒用の水を汲みに行く。鍋に汲んで焚火で沸騰させるだけなのだが何もしないよりはまし。本当はフラスコなどで蒸留してやりたいのだがそんな器具はない。従ってこの鍋で沸騰させることしかできないのである。

(これだけでも生水よりはるかに安全)

安全は一番大切なこととは考えているが思うようにいかないのが人生すでに何日か前から緊張の連続である。他の隊員の消息不明、”空間”の出現、異世界への転移、異世界人との交流、”壁様”との話等々


さて、鍋の水が間もなく沸騰するぶつぶつという音を立て始めた頃になり鍋に集中していると何かしら湧水の更に奥側から「ピアッ、ピアッ」と何かの生き物の鳴き声と思しき音が聞こえる。

耳を澄まして音源に近づいていくと鳴き声はぴたりと止む。

(こちらの方向から接近できないようだ)どうも接近を感じられているようでぴたりと鳴き声が止まる。

そして少し離れると再び鳴き声が始まる。明らかに察知されているようだが、この鳴き声は子が親を呼ぶ声しかもかなりの時間鳴いていたのかすでに声が弱弱しい。明らかに危険な状態と言ってもいいだろう。長年の体験からそのことは伝わってくるのだが、本来ならば「自然のままに」の原則で保護したりはしない。しかしここは異世界しかも人以外に初めて巡り合う生物、研究者として興味が湧かないわけがない。それに ”壁様” も、俺の『思うようにやればよい。』というようなことを言っていたし。

そこまで考えればすでに俺の心は決まっていた。この鳴き声の主を保護しよう。

遠くから声の発生源をじっくりと確認し、一気に距離を詰める。目の前の草むらを手で搔き分けると視線の先には黒い動物が必死に顔を上げて俺のほうを見ている。明らかな幼体であり、どちらかと言えば生まれてふた月程度とも見て取れる。それもつかの間精一杯の虚勢を張ってか「しゃー」と威嚇なのだろう。

(うっかり手を出すと怪我の元だし…そうだ。)”壁様”パワーが使えるか試すチャンスでもある。

(この子が俺を信用してくれるように。)もちろんそのこのためになればと熱心に願った。

しばらくはにらみ合いが続いたがやがて黒い動物は「ピアッ、ピアッ」と鳴き声を変えた。

万一を考えながらゆっくりとその子に手を伸ばせばその子も一生懸命に俺の方に這ってくる。やがて俺の指先に黒い子の鼻先が触れ、次に舌先が指に触れた。

その刹那おれは一気にその子を抱え上げると岩の椅子に戻り、荷物から栄養ゼリーと水筒の水を用意しその子に分け与えた。



いつもお読みくださりありがとうございます。

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