さよならの終盤
悪いが、俺はここで死ねない。
友達や親に最後の言葉すらかけてないんだ。まだあいつらと酒を飲みに行かないとね。あ!?そういえば前の飲み代もらってないな…ふふ。
俺は剣を握り締めながら、そんなことを考えていた。
「………」
「なにが勝ちだって?」
奴は目を細め、口角をにやりと上げる。余裕そのものだ。
俺の剣が反発し、思わずバランスを崩す。
その隙を見逃さず、柳の剣が俺の腰を狙う。
あいつの目は細まり、口角を上げて余裕を見せている。
倒れ込みながらも、剣はそのまま俺の腰に向かって振られた。
「やばい!やられる!」
反射的に後ろへ下がるが、間に合わない。
間一髪で体を後ろに引くが、刃が制服のポケットをかすめた。
がちゃぁ
「うっ…」
後ずさり、ようやく距離を取ると、あいつはすぐに立ち上がった。
「あれ??」
斬られたはずなのに痛みがない。制服のポケットが切り裂かれているだけだった。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ」
ポケットの中を見下ろすと、俺のスマホが真っ二つに割れているのが見えた。
「お、おまえぇぇぇ!!」
指をさし叫ぶ。
「俺のスマホバキバキじゃねーか!!この間、機種変したばっかりなのにぃぃ」
涙目になりながら、奴を責め立てる。
「ふふ、充電でもすれば治るんじゃない?」
あいつはニヤリと笑った。
「ざけんな!俺のスマホは最新型だから君みたいなボロボロガラケー……」
奴の上に灰色のもやもやが立ち込め始める。
地面にはどす黒い雲の影が地面を暗くしていた。
「くっ…マジかよこいつ…」
瞳孔が開き、顔色が変わった。
逃げるように雲の外へ走り出し、
膝をついてスライディングで灰色の霧から抜け出す。
その瞬間、霧の中に雷が落ちた。
ばちばちーん
俺は両腕で顔を覆った。
「えー……そんなことある?今、晴れてたよな?」
うるさい。音がデカすぎる。
音が収まったと思い顔を上げると、砂が半径5mほど真っ黒に焼け焦げている。
「焦げたのか…お、おい、お前、大丈夫か」
雷なんて間近で見たことない俺は呆然としてしまう。
「君に心配されなくても大丈夫だけど…」
ザザザと砂の上を這うように立ち上がるあいつ。
左膝と左尻には砂がべったり。
「あっぶねぇなぁ!!バカかよ、君は」
「あ…怪我は、ないよな……?」
試験の鐘が鳴り、ざわつきが広がる。
「……え、今の……魔法じゃなかったか?」
「見間違い? いや、たしかに──あの光は……」
「規定違反じゃ……?」
空気が一気に張りつめる。誰もが黙り込み、教官の口元に注目した。
やがて、重い沈黙を破るように、教官が口を開く。
「両名──予備学科行きとする」
その言葉に、場が凍った。
次の瞬間、生徒たちがざわめき出す。
「落第……じゃないのか?」
「ち、違う。予備学科だってさ……」
一歩、アーヴィン・クローネが前に出た。
両手をひょいと広げ、道化めいた笑みを浮かべる。
「ふふーん、やっちゃいましたねぇ? 剣術試験で魔法なんて、前代未聞ですよぉ!」
「でもぉ──いいんですよ、そーゆー破天荒。ワタシ、大好きなんですぅ♪」
「ようこそ、特別組へぇ。さぁさぁ、これからが本番ですよぉ?」
俺は、地面に転がった剣を見つめながら息を整える。
柳は剣を鞘に収めながら、口元だけで笑った。
「君……やっぱり只者じゃないね」
「今度は“魔法あり”で戦おう。全力で、ね」