初対面の焦り
目を開けると、見知らぬ場所にいた。
視界に入ったのは、どこか薄暗い学校の教室。椅子も机もすべて木製で、色あせて黒ずんでいる。正面には黒板があり、左側の窓からはわずかに太陽の光が差し込んでいた。
「ん……?」
目をこすろうとしてみる。体はガチガチに凝っていて、ちょっとやそっとじゃ動きそうにない。俺は何かに座り、上半身を突っ伏していたようだ。
確か…いや、何も覚えていない。
頑張って顔を上げて周囲を見渡してみる。どうやらここは普通の学校の教室で、俺は教室の真ん中、一番後ろの真ん中の席に座っているようだ。教室は所々ほこりっぽく、決して綺麗とは言えない。
「ここ、どこだ?学校?なんで?」
(待て待て考えろどこだここは?遡ろう。俺は確か……だめだ何も思い出せない。一番直近の出来事は朝目が覚めただけ。確か遅刻しそうだったような??)
通っていた高校とは違う。俺の学校はもっと綺麗で、椅子や机はプラスチック製のはずだ。
椅子から立ち上がり、思いっきり背伸びをする。
「んーー…ふぅ。」
まずはこの教室の中を見てみるか?いや、誰もいないみたいだし、動き回ってもいいかもしれない。
ふと黒板の上にある時計を見ると、6時半を指している。これが朝なのか夕方なのかはわからない。外はまだ明るいから、朝かもしれない。時計はローマ数字で書かれていて、ちょっとオシャレな感じだ。
視線を下に移すと、教壇の上にB5くらいの小さめの紙が一枚置かれている。読まずにはいられないよな。
紙には黒と赤の文字でびっしりと書かれている。
「ご入学おめでとうございます。あなたは我が校、フィリシアム学園センター校の生徒にふさわしい人材でした。急ではありますが、入学式後に校門前に集合をお願いします。あなたの健闘を祈ります。 学長」
「ほうほう……は?」
こんな文面、一度読んだだけで理解できるはずもない。赤文字は「フィリシアム学園」「校門前」「健闘を祈ります」の3箇所だ。学長の署名部分はペンでぐちゃぐちゃに塗りつぶされている。
「フィリシアム学園…?校門前?健闘?一体ここは何なんだよ…あ、そういえば」
ポケットに手を入れてみる。右ポケットにはスマホ、左ポケットにはタバコ、後ろポケットには折りたたみ財布がある。盗まれてはいないらしい。
スマホの電源を入れてみるが反応なし。画面は真っ暗で、自分の顔が薄っすら映っている。
「まあ、とりあえず校門に行ってみるか。そこで何かわかるかもしれない……いや、でも勝手に動いてもいいのか?」
少し目を閉じて考えるが、状況を把握することが先決だと思い直す。
音を立てないように扉を少しずつ開け、その隙間から廊下を見渡す。
扉を完全に開けて顔を出すと、目の前は綺麗めの廊下だった。右側は普通の高校のような廊下で、左側は行き止まり。上を見ると「1-λ(ラムダ)」と書かれた表札が掛かっている。
足を片方ずつ廊下に出し、静かに歩き出す。
教室から左へ進むと、「1-θ(シータ)」「医務室」「階段」と書かれた札が見えた。まるで普通の学校のようだ。
やがて大きな下駄箱のような場所に出る。
「……おい、下駄箱にしてはデカすぎるだろ!400人分くらいありそうだ。そんなに生徒がいるのか?」
下駄箱の奥には大きな昇降口の扉があった。曇りガラスだったので外は見えそうにない。
ガラス張りの扉に手をかけ、押して開けてみる。
外には普通のグラウンドが広がっている。砂地に陸上トラックの線が引かれ、横にはサッカーゴールが立てかけてある。
「ガチの学校みたいだな、ここ」
グラウンドの外周には巨大なコンクリートの壁がそびえ立っていて、一部に豪華な校門の扉が見える。
そこへ向かって歩き始める。
しばらく歩いた後、振り返ると、俺がいた建物は巨大な洋風のお城のようだった。
「え……いつこんな場所に……?」
一瞬立ち止まってから、校門へ足を進める。
(人?が立ってる?)
目を細めると門の前には、俺くらいの年齢の人間が10人ほど立っていた。
(あの人たちも、同じく閉じ込められたのか?まさか俺を閉じ込めた側じゃないよな…)
そう考えながら近づく。
周りの目が一斉に俺を睨みつける。
「誰だお前」
男の声が響く。周囲を見ると、女子3人、男子7人がそれぞれ違う制服を着ている。中にはピアスをつけたり、金髪だったり、制服をだらしなく着ている者もいる。
「ああ、僕は君たちをここに呼んだわけでも手紙を書いたわけでもないよ。みんなもここに集められたの?」
「あなたはここの在学生ですか?入学生は今、2人来ていませんが他は全員揃いました」
白髪長髪で緑色の瞳の女子がにこやかに話しかけてきた。だが残念ながら俺は、ここの在校生でも入学生でもない。
「あー、いや、悪いんだけど、俺ここがどこかわからなくて……」
少し愛想よく笑いながら答える。
「じゃあ、あなたは入学生ですか?」
「あー残念ながら」
「じゃあ、侵入者ですか?」
は?まさか。侵入者どころか監禁されている身だ。
「いや、だから急に目を覚ましたら……」
「さてさてぇ〜皆さぁん、お集まりいただきありがと〜ございますねぇ!」
どこからともなく、突然響いた軽やかな声。その直後、ふわりと宙から舞い降りるように、奇抜なローブをまとった男が現れた。帽子には羽飾り、杖はキャンディのようにカラフル。まるでサーカスのピエロのような出で立ちだ。
「改めましてぇ〜、フィリシアム学園、学園長の“アーヴィン・クローネ”と申しますぅ。よろしくどーぞぉ〜ですぅ!」
その軽薄な物言いと動きに、生徒たちは一様に戸惑ったような視線を向けていた。が、誰一人笑ってはいない。というのも、男の放つ“気”が異常だったのだ。視線を向けられるだけで、背筋に氷を這わされるような感覚。
「ふふっ……怖がらなくてもだいじょ〜ぶですよぉ。わたくし、子どもにはとっても優しいんですからねぇ。ええ、優しいんですよぉ?」
笑いながらも、その目はまったく笑っていない。黒曜石のように深く、何もかもを見透かしているかのような目だった。
「さてさて、入学生の皆さぁん。今日からあなた方は、この不思議な不思議な学び舎で、ちょ〜っとだけ……命懸けのお勉強をしてもらいますねぇ!」
「フィリシアム学園は、ただの学校ではありません。才能ある者が、さらに強くなるための場所でございますぅ。」
「まずは“適性試験”ですねぇ。どのくらいの魔力をお持ちか、どの程度制御できるか、バッチリ測らせてもらいますよぉ。ふふふっ、ドキドキですねぇ?」
そして、ふと真顔に戻り、ひとこと。
「――落ちたら、予備学科行き。そこは“才能ないかも組”が、頑張って這い上がるところでしてねぇ?」
声色はそのままだが、空気がピンと張り詰める。生徒たちの背筋が自然と伸びるのがわかった。
「でもまぁ、大丈夫大丈夫〜。命まで取るような試験じゃあ、ありませんからねぇ……たぶん」
そう呟いた学園長の笑みは、心なしか楽しげだった。
「まあこんなところでは窮屈ですので試験場を用意しました~」
瞬きをすると俺は別な場所にいた。
学長の言葉を合図に、生徒たちはそれぞれ名前を呼ばれ、順に案内されていく。
俺も訳も分からないまま名簿に名前を呼ばれ、促されるまま試験場へ向かう。
案内されたのは、広場の裏にある広大な闘技場のような場所だった。観覧席には教師らしき人物たちが並び、生徒たちは一人ずつ、中央の魔法陣のようなものに立たされている。
「おいおい、待て待てどういう事だ」
俺は焦りながら目が点になる