絶望へようこそ
ジリリリリ――。耳をつんざく目覚まし時計のうるさい鉄の打撃音が部屋中に響く。
「ん゛っっ?」
鋭い頭痛がこめかみを掻きむしり、冷たい汗が背中をつたう。目を薄く開け、時計をチラリと見る。
「もうこんな時間?」
眠気はすぐにどっかへ飛んでいった。脳がズキズキと脈打ち、胸の奥から気怠さが這い上がる。二日酔いか? 頭が痛い。昨日もこんな頭痛だったな。二日酔いじゃない。いや、昨日も同じ痛みだった。薬でも買って帰るか?いやめんどいな…
「いや!そんなこと考えてる暇はない!」
ベッドから飛び起き、制服に身を包み、朝ごはんも食べず自転車に飛び乗る。学校までは約30分の距離だ。
ガラガラ教室の前の扉を開ける
「おいーガサキ遅くれてるぞ」
「はぁ、はぁ、一応間に合った。お前ら、どうしたん?はぁ、はぁ、今日は時間通りかよ。」
息は切れ、胸が激しく上下する。自転車を停めてから教室まで全力疾走したからだ。
「オールした」キラッと輝く目で言う友人。
「お前ら、はぁ…強ぇな。」
「今日の昼休み、いつものラーメン行こや。」
「まぁ俺ら朝駅前でラーメン食ったけどな。」
「はぁ、はぁ、ふー。あいよ。」
ここから4時目の授業まで記憶は途切れていた。普段は適当に授業は聞くが、今日はずっと机に頭を伏せていた。昼休みも気づけば眠り続けていたらしい。俺は主人公席だから先生の視界の隅にいて、誰も起こさなかった。
4時間目の最後20分に俺は目を覚ました。朝からの記憶は霧の中。寝たことさえ覚えていない。
キンコーンカンコーン
「はーい今日はここまで」
その言葉を俺は待っていたんだよ!!
「よし、行くか。」
「あいよ!」
4時間みっちり寝たおかげで完全復活!当然、腹は減る。
学校を抜け出し、5人で廊下を走り、下駄箱で靴を履き替え、目の前の駐輪場へダッシュ!俺以外はロードバイク、俺だけママチャリ。
「ガサキ、早いって。」
「俺、朝飯食ってないから早く食べたいんだよ。」
横断歩道に差し掛かり、体を少し右に向け、ハンドルを右に切る。信号は青だ。目の前には遠くにトラックが見えるが、こっちにはまだ届かない。
次の瞬間、一気に暗転。
プツンッ。
「……????」
見回すと薄暗い細い小道だ。周囲は闇に沈み、目の前の細道はまるで異界への扉のように細く冷たく伸びていた。周囲には何もない。森の奥のようで、闇が濃い。
ぽたり…ぽたり…
(ここ一回来たことある?)(いやそんなはずない。)
水滴のような音が聞こえる。だが、水のような柔らかさはなく、硬く粘度の強い滴だ。
頭に手を伸ばすと、右の頭がまるで欠けたように無い。脳が直接指に触れてヌメヌメと気持ち悪さが背筋を走る。
その瞬間、未知の痛みが脳を裂き、激痛へと変貌した。
「が゛゛゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁああ」
頭をヘッドショットされた感覚。右目の辺りもえぐられていた。血が顔を伝い落ちるのを感じるが、暗くて見えない。
腰が抜け、後ろに崩れ落ちた。
ドスンッ。
左足を見ると、太ももの半分から下が無い。正確には動かせず、黒く塗りつぶされたように見えた。
「ァァァァァァ……」
更なる激痛が体中を襲う。
「ぐ゛゛ッッぁぁぁああ」
頭と足を押さえるが、何もできない。ただ呻くのみ。
はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…呼吸が乱れる。
ない。ない。ない。左足がない。幻肢痛だ。まさか本当に経験するとは思わなかった。
息が苦しく、頭が痛い。きつい、きつい、きつい。肺が焼けつくように熱く、呼吸は次第に浅く、途切れ途切れになった。ネクタイを緩めようと手をかけた瞬間、
胸に拳が入るほどの穴が空いていることに気づいた。
それに気づいた瞬間。呼吸ができない。ワイシャツは血で真っ赤どころか、黒く侵食されていく。
「はぁーーーはぁはぁはぁはぁ……」
呼吸は次第に小さくなり、息がだんだんと細くなり、声も消える。
まだ死にたくない。
もう楽になりたい。早く…
またあいつらに会いたい。
もう嫌だ、痛いよ…。
まだみんなと遊び行きたい。
動きたくない…。
光が見たい。
何も見たくない…。
まだ俺は18歳…。もう人生終わるのか?いやだ!!。
終わってほしい、まだ、まだ終わりたくないけど…痛みは、絶望はもう耐えられな…
もういいよ…。
真っ暗に沈み、意識が消えていった。
「?????????????????????」
その声は?夢の中の声か?俺だ。俺の声だ。何かに囚われている?体の感覚がない足も腕も呼吸で動く体でさえ感覚がない。
「忘れるな。」
(声は俺だ。動画のようなガラガラした感じじゃない)
「覚えているか?」
(なにが?誰を?)
「全ては繋がっている。」
(繋がる?誰と?なにが?どうやって?)
目が覚めると。俺は知らないところにいた。