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『"式"という名の魔眼』 ──そして、理系の俺は異世界へ  作者: あや
序章 拝啓、さようなら今までの日常
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日常の変貌

今日から本格的な冬の幕開けです。明日から冬物のダウンなどを用意しておくといいでしょう。端っこに置いてあるテレビニュースから、小さく音声が漏れている。


「だからさぁ、次の数学と物理と化学のテスト、全部40点以下だったら俺、単位出ないってさぁ~そんなん無理に決まってるやん!!まっじであの担任うぜぇ」

「いや、それはお前が悪い」

「は?お前らも赤点あるやろ、どう考えても」

「俺はぎりなんもない」

「俺も赤点は流石にないかなぁ〜?」


「ガサキは……ねーよなぁ〜、頭いいし。でもお前いっつも俺らゲームしてるよな?いつ勉強しとんの?」


「だって俺は地頭いいもん。お前みてぇーに8教科中4科目0点じゃなくて、全!教!科で!!5点以上だから」


「お前、むっちゃゆーやん!」


「「「あははは」」」


「そうそう、そういえばさぁ〜」

先生も、テレビに映る人も、みんな今が大事〜とか将来が〜とか言ってるけど、全力で遊んで笑ってられるのは今だけっしょ!社畜とか老後とか俺にはなんも楽しそうに思えない。だから今、俺は笑うんだ。


「なぁ、ガサキ吸いかん?」

「さっきも行ったじゃーん………行くか」

「よし」


俺は席を立ってすぐ隣にある喫煙所のドアノブに手をかけてドアを押す。

汚れて黄ばんだ壁に囲まれた喫煙室。狭くて、椅子もなくて、まるで罰ゲームみたいな空間。こんな場所でも、いつもの煙草の味は変わらない。地面もボロボロの床板がただ貼ってあるだけ。家のトイレ3つ分くらいしかない激狭の喫煙所だ。


狭くてくぐもった空間に、たばこの匂いが染みついていた。壁の黄ばみが蛍光灯の光でやけに目につく。誰かのタバコの吸い殻が灰皿からこぼれていた。


「よいしょっっと」

俺は何も考えずに端っこの地面にあぐらで座り、壁にもたれ掛かり、ふーっと酔いを覚ますように目を閉じながら息を吐く。


「おいおい、そこ1番汚ねーぞ」

「は?まじかよ終わったぁ、俺のカーゴパンツ終了です」


俺は地面から立ち上がり、おしりをパッパと払う。白や黒い粒子のような灰がパラパラと落ちる。

ポケットからタバコとジッポを取り出し、カバー部分を親指で跳ね、カチンッと開く。硬いホイールを回し火をつける。

これ、このオイルの匂いがガチ最高。そのまま火をタバコに近づける。


「すぅぅぅ…ふぅぅぅー」

「ガサキは大学決めた?」


「あー、一応国立かな?英語得意なら海外の大学とか行くつもりだったけど……まぁいいかな?」

「は?まじで?お前きしょ」


「おいおい…」俺は少し愛想笑いを入れる

「まぁ授業真面目に受けてちょっと勉強しとるだけやけどな」


「それが無理なんやて!」

「お前はゴミなんよ。授業中4時間も寝られるなー、俺から言わせればお前は天才や」ニヤニヤ。


「結局、前から言ってた学者目指すん?」

「まぁ〜、親父からもなれって言われてるし、楽そうだから一応ね」


「ほーん」

「おいおい!!もうちょい興味持ってくれよ」

あははは


1本目のタバコを灰皿に投げ入れる。ジリッと燃え残った火が消えていくのを見ながら、もう1本を取り出し、唇に咥える。オイルの匂いに軽く酔いながら、火を灯した。


「ガサキ、俺、思ったんやけど、この生活もあと高校終わるまでの半年しか出来ないじゃん?みんなバラバラになるし」


「でもお前ら推薦使うやつか就職じゃん?一応決まったら少しの間、またできるやん」

「いや、それはやるんだけどガサキが入試やん」


「ああ、俺?一応、何個かの国立大から推薦来とるから問題ない……と思いたい」

「お前天才すぎやろ」


「だろ?やっと俺の才能認めてくれたか」

「いや、勉強は勝っとるかも知んないけどボーリング、ダーツは俺に勝ったことないやん」


「まぁーそれはええよ。おまえに譲るわ」

「キタわ」こいつは今日一番笑顔で


「いやーガサキに勝ったからヤニがいつもよりばか美味いわ」と一言

「お前もついにこんなヤニカスになってしまったのか…悲しいぜ俺は、」

「元はといえばガサキが薦めて来ただろうが」

「ははは、そういえばね」


「もうそろいく?」

「あいよ」

俺は2本目の短くなったタバコを灰皿に押し付け、目を閉じて一息つく。脳内が少しゆらゆら、クラっとする。パッと目を開くとクラクラしてた脳内が一気に正常に戻る。喫煙室を出てから右に少し歩くと俺らの卓につく。

「あ、ガサキ、そういえば閉店時間だったからガサキのクレジットで払っといた」

「は?お前らマジでさ…」


「まぁ後で割り勘して返すよ」

「ガチで返してよ?」

「あいよー、ほいガサキ、カバン」

俺のカバンが弧を描きながら中を舞い、そのまま片手でガシッと掴む。

「さんきゅー」


外へ出ると寒く、半袖はもう終わりの季節。道行く人は上着を来ていたり、キャッチでコスプレしている人がいたり、夜なのにグラサンかけたごついにーちゃんがいたり。もうTシャツ1枚の時期は終わりかな?

「ん゛んん」

頭いったァァ

ズキン、と脳が直に掴まれるような鋭い痛みが走る。飲んだ量は多くないはずなのに、やたらと重く、嫌な感覚だけが頭の奥に残った。


「やばいヤニクラしてきたわ」

「まじ?どした急に弱すぎやろ!そんな飲んだか?」


「まじで、いてぇ」

右手を頭の後ろに回し、少しさする。

「このままボーリングいく?」

「あたまりまえっしょ!」


「あー悪い、俺とりま明日提出の化学の課題あるから帰るわ」本当は今日はなんかたるいだけだけど

「あ、待って俺やってない!」


「俺も!」

「まぁ、あのじじいの課題なら遅れても大丈夫やろ」

「まだ耐えやな」


「お前ら、エグイなぁ〜とりま俺帰るわ」

「おう、お疲れ」

「お疲れぇ」


「ふぅーーー」

あいつらと反対側へ歩き始める。あいつらはガヤガヤとちょっとうるさい位の声で話始めるが、俺はもう関係ない。

俺は表では真面目だって言われる。生徒会長だしサッカー部の部長だし。この間、物理オリンピックで優勝した。コミュ障じゃないし、外見もそこまで悪くは無い(と思いたい)。しかし!!彼女はできたことがない!おかしい!!


イヤホンを耳につけてから1番好きなアーティストの曲を聴きながら歩いて10分の距離を歩く。

がさがさ、カチっジリジリ、ポッッ

「すーーーーふゥーーーー」


寒い空気に白くにごった紫煙が中に舞う。煙は徐々に薄く広がっていき、空気中に溶けだす。

「うう、やっぱ寒くなってきたなぁ」

ポケットの中に両手を突っ込んで口にはタバコを咥える。灰を落とす時だけ右手をポケットから出してタバコを弾く。


ガチャ

「ただいま。」

「おかえり。楽しかったかい?」

俺の親父だ。少し年老いていて、高校生のみんなのおじいちゃんくらいの年齢だろうか。母親は仕事の都合で、ここ2年ほど帰ってきていない。家事や炊事、洗濯は全部親父がやってくれる。だけど、家はどこか裕福で、だから俺は塾や習い事に恵まれ、サッカーも続けられた。


「いつもの奴らと、いつものことやっただけ……」

少し下を向き、目を閉じる。次の瞬間、鋭く親父の方を見る。

「めっちゃおもろかった。」キラン

「そうか。それは良かったね。宿題は終わったか?お風呂も沸いてるし、夜食も買ってきたよ。」


「じゃあ、先に風呂に入るわ。そのあと食べられるようにしといて。」

「わかった。」

風呂に入り、夜食おにぎりを軽く食べた。食べ終われば、ごみはゴミ箱に。そのあと洗面台で歯を磨く。


シャカシャカシャカ

「ん゛んん…」

まただ。まだ頭が痛い。こんなこと、今まであんまりなかった。いや、初めてかもしれない。ただ今回も一瞬で痛みは消えた。

「ぐじゅぐじゅーーーぺ!!」


「今日の宿題は?気体の状態変化か?計算ダルいやつやん!誰が好き好んでこんなの使うんだよ!」

俺は勉強机に足を乗せて、椅子の背もたれにもたれかかる。手を動かすのは面倒だから、頭の中で計算を済ませる。

「あーはいはいOK」カキカキ…

意外とすぐに終わり、カバンに突っ込んで部屋着に着替えタンスから明日使う制服、靴下を椅子に掛けておく。そして電気を消す。少し冷たいベッドに身体を沈め、暗い部屋の天井を見上げながら考える。

「この生活ももうすぐ終わりか…」

目を閉じる。


「なにしてんだよ…」


はぁ、はぁ…。


「お、お前、何だよ、その姿…」


はぁ、はぁ、はぁ…。


「これ……お前にやるよ。要らなかったら捨ててくれ。」


はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…。


誰かの声が耳の奥でぼやけて、言葉の意味が遠く霞んでいく。どう答えればいいのか分からず、胸の中がもやもやと渦巻いた。

頭が重い。胸が痛い。足が熱い。痛い、熱い、苦しい。吐きそう。目眩もする。すべての苦しみが俺を襲う。真っ暗で何も見えない道を、ただ全力疾走をしている。


っはぁっっっ!!


目が覚めると、ベッドが汗まみれで、服の首元もびしょ濡れ。身体を起こし、頭をさする。針は12を指していた。静かな夜の空気に、秒針のチチチッという音だけが冷たく響く。こんな時間に起きるなんて、どこか虚しい。

(なんか変な夢見たな…覚えてないけど。)

机に置いてあるタバコを取り、ベランダの窓を開けて肩まで身を乗り出し、汗で熱い体を冷やしながら火をつける。

冬の夜は綺麗だ。寒いのは嫌いだけど、タバコの煙と冷たい空気が肺に入る感覚は最高に気持ちいい。

しばらく吸っていると、

「ん゛んん、痛い…」

タバコを持っていない手で頭を押さえる。

(何これ、ガチでイライラするな。)

吸い殻をベランダから投げ捨て、再びベッドに潜る。

……

「なんで…こんなことになってしまったんだろう…」

……

「お前がそんなヘマするはずないだろ…」

……

「……忘れていることがあるんじゃないか?」

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