聖夜
聖夜に雪が降るのは祝福の証
13歳のエミリアは自宅の玄関先で、暗闇にうっすらと降り積もる雪を眺めて白い息を吐いた
とび色の髪は三つ編みにしてから丸く結い、白い毛糸のマフにウールのコートにケープを重ねている
エミリアの目の前には見慣れているはずの、家の馬車が停まっていた
これから王宮の聖夜祭に行くエミリアは全てを覚えておきたくて、馬車の前できょろきょろと辺りを眺めた
「はやく乗りなさい」
付き添いとして参加する父サピアは黒いコートに黒い帽子を被り、エミリアの背を優しく押す
エミリアは父の手を借りて、ゆっくりと踏み台から馬車へ乗った
薄茶の目をキラキラさせて、珍しくもないはずの馬車の中でもきょろきょろ、そわそわと落ち着かない
サピアはそんな娘を穏やかに見守り、しばらくするとエミリアは小さく歌を口ずさみながら足だけでステップを踏み始める
ゆらゆらと身体を揺らすエミリアを支えるようにサピアは手を取り、足踏みでリズムを取る
「ファーストダンスはお父さまとね」
嬉しそうに言うエミリアに、サピアも笑顔で頷いた
馬車は表通りを走り、門での確認のあと広いロータリーを回って屋敷の前へ着く
賓客の滞在にも使われる屋敷は、両翼に広間が二つ、奥にも同じだけの広さの部屋が二つあった
エミリアとサピアは玄関ホールで招待状の確認を受けると、左奥にある部屋へと案内された
吹き抜けのホールには階段が2本伸び、踊り場にある窓が鏡のようにキラキラしたシャンデリアをより輝かせていた
エミリアは思わず上を見上げ、サピアに引きずられるように歩いた
「確認致します」
エミリアの後からする招待状の確認の声だけが、とても現実めいている
部屋に入るとサピアがエミリアのコートを脱がせ、部屋の端にあるコート掛けに掛けてくれた
部屋はテーブルと椅子がまばらに置かれ、腰掛けて喋っている子もいる
兄弟なのか似た年頃の男の子が、小声で拍子を取りながらダンスの確認もしている
「エミリア!」
そんな中、声をかけてくれたのはステラだった
胸元と肩がフリルで覆われた、明るい黄色のドレスを着ている
隣にはステラと同じ金の髪に、同じ色のドレスを着た女性が立っている
ステラは目の前に来ると、女性を母のローラだと紹介し、サピアにステラだと名乗りお辞儀をした
「娘がお世話に…」
「いえ、こちらこそ…」
と大人が儀礼的な挨拶を交わしてる間、ステラは嬉しそうにエミリアの手を取った
「そのドレス、お揃いみたいね!」
エミリアの着ているドレスは白だったが、確かにデザインがとても良く似ていた
2人は、黄色と白のドレスで愉しげに踊りだす
タン、タンとステラが小声で歌うように拍子をとり、サピアとローラは音の出ない手拍子を刻んだ
2人のあまりに楽しそうな様子に、サピアはファーストダンスを代わろうかと申し出るが、エミリアが断った
「ダメ! 1番はお父さまと!」
そして次にステラと踊るのだと、エミリアは言い張る
すっかり大人のようでいて、まだそんなことを言ってくれる娘にサピアの顔がほころぶ
「羨ましい…」とローラが隣で呟くと同時に扉が開き、会場への移動が告げられた