shall we dance
すみません。以前のお話にも、色々追記しながら書いています
王宮の広間を睨め回すように前のめりに歩く、うねった黒い髪と襟元に金糸のある黒い騎士服の男
辺りはみな華やかに着飾って、シャンデリアもグラスも宝石も、眩しいくらいにきらびやかだ
本来ならおしゃべりやダンス、音楽にお菓子とそれぞれに夢中になれる空間なのに、それを黒い男が遮っていく
髪は少しうねったくせ毛で、琥珀色の瞳は鋭く、額には少し皺が寄っている
歳はまだ10代と言ってもいいくらいに若そうだが、着こなれた服が初年兵でないことを物語っている
異質な雰囲気の彼を、誰もが遠巻きにして道を開ける
そんな中、1人の少女が抜け出して行く手を塞いだ
「こんばんわ」
豊かな金の巻き毛に青い瞳、深い青の美しいドレス
年は男と同じくらいの彼女はゆったりと時間をかけお辞儀をすると、笑顔で男に手を差し出した
彼は戸惑うが少女は気にせずに手を取ると、ダンスフロアへいざなう
そして彼女はにこやかに踊りながら、彼の態度をたしなめた
〜 〜 〜
「ステラ! どこ行っちゃったかと思った!」
王宮の大広間から少し外れた部屋で、エミリアがステラに駆け寄って声をかける
エミリアはとび色の髪をたかく纏めて、品のある深く赤いドレスを着ていた
部屋には軽い食事の置かれたテーブルと、飲み物のワゴンが置かれている
エミリアは父サピアとステラ、ステラの父ともに来たのだが、人の多さとざわめきに気分が悪くなり休んでいた
サピアは「大丈夫だから」と、1人で挨拶に回り、ステラも父と挨拶に回っていた
そしてそのあと父たちは気心の知れた仲間と別室に引きこもり、ステラは1曲踊ってから部屋に戻ってきていた
「ちょっとだけ踊ってきたのよ」と言うステラは、金の長い巻き毛を手で後ろに流すとグラスを取り軽く口に含んだ
ステラは瞳よりも深い青のドレスを着ている
エミリアはそれをまじまじと眺め、「懐かしいわね」と呟いた
ステラは、にっと笑う
「あのときは色々詰めて無理矢理着たけど、今はぴったりよ
それより、あなたも1度くらい踊ったら?」
エミリアはそれに首を振った
「人ごみというか、ざわめきが苦手なの」
ステラは「ファントム…」と思わず呟いて、ハッと口を覆った
エミリアは困ったように肩をすくめて「まだ見つけられてないわ」と言った