手紙
「ねぇお父さま、次はいつごろお屋敷に行ける?」
サピアが部屋で手紙に目を通していると、開いた扉をコンコンとノックしてエミリアがひょっこり顔を覗かせた
とび色の髪に薄茶の瞳、まだ9つの娘は同じ髪と瞳をした父サピアの顔を見ると顔を曇らせた
「お邪魔しました」
ぺこりと頭を下げるエミリアを「待ちなさい」とサピアは止める
「お屋敷には行かない。もう、行けない…急なことだが引っ越しをされたんだ…」
エミリアは1度背中を向け、すぐにまたくるりと向き直る
サピアは何も言えないでいるエミリアに近寄ると、膝をついて娘を抱きしめた
そこに使用人のジェイムズがバタバタと、珍しく足音を立て息を切らせて駆けてきた
「旦那さま…先ほど、上のお屋敷全員が亡くなられたと…」
血の気のないジェイムズにエミリアがびくりと身体を震わせると、サピアは大きなため息を吐いた
「全員ではない。奥さまがショックのあまり…それだけだ…」
サピアは「お前の親類も全員無事だ」と立ち上がり、ジェイムズの肩を安心させるように叩いた
ジェイムズはまだ息を切らせながら、うっすらと涙を浮かべた
エミリアが詳しいことを知るのは、また少し先のことである
屋敷への不法侵入、「神の裁きを」とうわごとを呟く僧侶、銀の装飾が施された短剣、惨殺されたのは母親と子ども…
誰も直接は言わなかったが、うっすらと聞こえてくる噂話や記事を読んでエミリアは概要を知った
「エミリア! 大丈夫だ! ルクスは生きている!」
噂が辺りを取り囲む中、サピアはエミリアにお屋敷の主人、ストウルとの手紙を見せてくれた
手紙に同封された小さなメモには、「僕は大丈夫。急なことでごめん。ルクス」とガタついた字で書かれている
エミリアはサピアに頼んでメモを貰うと、時々ルクスに手紙を届けてもらうことにした
住所は教えて貰えなかったので、家同士のやり取りの中に混ぜてもらう
けれど、その手紙もいつの間にか絶えてしまった