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ファントム  作者: かな
序章
6/23

収穫祭(当日)


収穫祭当日、エミリアは紺色のダブルボタンの制服ではなく、髪と同じとび色のドレスに同じ色のケープを羽織り、ベールのついた帽子を被る


集合と祈りのため礼拝堂へ行くと、みんなとりどりに装っている


「お母さまのドレスを…」「使用人の…」「護衛の…」と、身近な人の服を借りたという会話が、そこここで起こっている


エミリアはグループで固まっている人たちを避けながら、きょろきょろと辺りを見回した


それに気づいたステラが、エミリアを手招きする


エミリアは瞳より深い青のドレスに、髪と同じ金色の杖を持ち、本を抱えた黒髪三つ編みの侍女と一緒にいた


「ニナなら祭壇の奥に…」と、ステラは小声で教えてくれる


「ありがとう存じます、王妃」


エミリアは恭しく礼をしてから、ベールをあげて「ありがとうステラ」と小声で囁いた


そして、すぐにできるだけ奥にいたニナを見つける


ニナは瞳と同じ青い色のドレスを着て、そわそわと落ち着かないように揺れていた


いつもは飾り気のない彼女だが、今日は両サイドの髪を編み上げて、金と青のイヤリングに揃いのネックレスを付けている


エミリアが近寄ると、ニナはほっとしたように微笑んだ


それから、「侍女が気合いを入れ過ぎちゃって…」と言い訳をするようにはにかむ


エミリアはベールをあげて「可愛いわ」と微笑むと、影のようにニナの後ろに控えた


「堂々と」とエミリアが言うと、「分かっているわ、お姉さま」とニナは答えた


しばらくすると先生がクラスごとに生徒を誘導し、仮装評価用に胸元に貼る番号を配った


そして全員で祈りを捧げ、先生の諸注意を聞くと、待ちかねたようにワッとみんなが外へ出た


今日は学校が開放され、生徒たちの親が各地にある領の特産品を教室で売り、武術大会も催されている


学校のあちこちにはランタンが吊るされ、生徒たちは歴史上の死者を模して歩き回る


女生徒の目当ては主に上位仮装者が招待される王宮の舞踏会で、男子生徒は主に武術大会での表彰だ


エミリアとニナは校舎を一通り見て回ると、休憩のために食堂へ入った


「頑張ったけど…結果はきまってる…」


カボチャのポットパイを頼んだニナは、パイを割りながら呟いた


「そうね」とエミリアも頷いて、お茶を飲む


ベールのついた帽子を外して、髪と同じとび色のドレスとケープだけの装いのエミリアはとても地味だ


向かいに座るニナは、金色の髪に青い瞳


青いドレスを着て、金と青のネックレスにイヤリングと華やかで、物語の通りに対象的だ


「でもロイヤル、アカデミーだもの。在学中は平等に、といっても、ある程度は仕方ないわよ」


それにロイヤル以外の枠もあるわ、とエミリアは付け足した


「そうね」とニナも頷く


けれど家のためには、できるだけ目立ちたいのだろうとエミリアは思った


「こんにちは」


するとそこに、ステラが声をかけて隣に座った


金の巻き毛を豊かに垂らした彼女は、深い青のドレスを着ている


侍女役のミナも一緒で、彼女は黒い髪を三つ編みにして白いエプロンに頭巾という一般的な使用人の格好をしていた


「こんにちはステラ」エミリアは声をかけて、「あなたは表彰されそうね」と褒めた


ステラは嬉しそうに微笑んで、「あなたも」と応える


「お姉さまの方は幾人か見たけど、対でこそ意味のあるお話だもの」


4人はそれから、誰が良かったか意見を言い合い、また校舎へと散った


〜 〜 〜


収穫祭で表彰されたのは、中等部、高等部、各クラス3組ずつだった


夕方、掲示板に名前が張り出された後、該当者は中等部と高等部の間にある庭園に集まった


「意外と多い…」


そう呟いて辺りを見回したのは、金髪碧眼のニナだ。瞳と同じドレスを着て着飾っている


隣にいるエミリアはとび色の髪に同じ色のケープとドレスで、帽子についたベール越しに1人1人をゆっくりと眺めている


同じクラスからはステラも選ばれ、武術大会の上位者として騎士の格好をした男子生徒もパラパラと混じっていた


「誰か探しているの?」とステラが尋ねると、エミリアの視線に気づいた1人がひらひらと手を振った


エミリアは反応しなかったが、とび色の瞳に薄茶の瞳をした騎士姿の生徒はどことなくエミリアに似ていた


エミリアはそのままゆっくりと全員を眺めたが、ため息を吐いてステラに目線を移す


「いいえ、ここにはいないわ」


ステラは「そう…」と返して、不思議そうにエミリアを見る


やがて指示があり、指定されたグループごとに校内を歩き、先生から労いとお菓子を貰って収穫祭は幕を閉じた

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