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ファントム  作者: かな
最終章
50/56

ケルナ

即位式がつつがなく終わったあと、エミリアとサピア、スタンリーはケルナへと向かった


即位式では、アレックスに代わり後見人だった王兄殿下が皇太子を引き継いだ


そして約1ヶ月後、ルーベンの誕生日にまた即位式が行われる


今回の即位式にも、次にも、王妃さまは出席なさらない


皇太子殿下も出席なさらなくていいようにひと月の期間を空けているが、こちらは本人の意向次第らしい


エミリアたちはそのひと月の間に、スタンリーの父でもあるケルナ領主に会い、フロリアの屋敷を引き払うことにしていた


「カリーナさまはすでに、フロリアの屋敷を王妃さまに明け渡されたそうだ」


あの屋敷には、アレックスさまの好きな温室もある


ノアの迷路園も、パトリシアの薔薇園も…


エミリアは少しだけ寂しさを覚えながら、馬車の外を見た


馬車はすでにケルナに入っている


王都から山沿いに走り、ケルナに入ったあとは真っ直ぐ領主館を目指した


赤茶けた渇いた土と、渇いた木々が外を流れていく


「これでもケルナは豊かなんだよ」


ポツリと、スタンリーは呟いた


「騎士たちの宿舎や、鍛錬場もあって、国からお金が入ってくるし…


小麦も作れるし、鉱山もある


それに、ケルナの陶器は色鮮やかで綺麗だよ」


エミリアはスタンリーの言葉に、ただ頷く


サピアは「ケルナの食器は王都でも人気だ」と言い、しばらくその話を続けた


そしてサピアがケルナに対しての見識を語っているうちに、馬車は館へ到着した


「昔は、騎士たちの宿舎がある山沿いに建っていたんだよ」


スタンリーは馬車を降りると、エミリアに説明しながら手を差し出した


エミリアが手を取ろうとすると、ふわりと持ち上げられて降ろされる


「すみません、使用人がほとんどいないんです」


サピアにもそう声をかけ、サピアはゆっくりと足を伸ばして馬車から降りた


屋敷はどうしてこんなところにあるのかと思うほど、ポツンと佇んでいる


比翼の屋敷はそれほど大きくもなく、周りを低い木の柵が囲っているだけだ


スタンリーは御者に小屋を示し、御者は馬車を小屋へと走らせる


スタンリーは両開きの玄関扉に向き直ると、ノックもしないで押し開けた


「手紙は届いていると思います。父上はいつも書斎にいるので、そこに行きましょう」


スタンリーはそう言って屋敷に入ると、「ただいま帰りました」と、自分の名前とともに触れ回りながら歩く


そうして玄関ホールを抜けて両脇に伸びる廊下を右に進むと、奥のドアが開いて男性がゆっくりと壁を支えにして歩いてきた


スタンリーはそれを見るとすぐに駆け寄って、肩に掴まらせる


エミリアとサピアも小走りで歩み寄った


「あぁ…挨拶が遅れてすまない」と、男性は頭を下げストウルと名乗った


髪はすっかり白く、背も丸く、随分老いた印象があった


エミリアとサピアも挨拶を返し、「食堂へ行こう」と言うのに従って廊下を戻った


ホールの左手側が食堂になっており、白い床に日差しが反射して、とても明るかった


スタンリーは父親がお茶を淹れようとするのを止めて、自ら用意を始める


エミリアとサピアは扉側に腰かけ、ストウルは窓に背を向けて座る


「皇太子殿下は、予定通り地位を返納なさったよ」


スタンリーは父親に話しかけながら、テーブルに茶器を並べた


ストウルは深く頷く


そしてスタンリーがキッチンに引っ込むと、「私は…もう、どうしたらいいのか分からない」と呟いた


「皇太子殿下は、きっとルーベンさまに変わるのでしょう。そして、ルーベンさまが次の王になるのでしょう。それが私の望みでした」


ストウルは言って、それが叶ったからもう何もないのだと言う


エミリアとサピアは何も言えずに、しばらく目の前のカップを眺めていた


「…良ければ、王都にいらっしゃいますか?」


やがて、サピアはおずおずと口を開く


「エミリアもどうやらフロリアから王都に戻るようですし…」


サピアはエミリアを見、エミリアは頷いた


それからまたしばらく沈黙が続き、スタンリーがお茶を注ぎに食堂へやってくる


ストウルはお茶が注がれるのを見ながら、「この領地を返納すると言ったら、どうする?」と、スタンリーに問いかけた


「それなら、一旦任せてほしいけど…」とスタンリーは言い、ストウルの隣に腰かけた


「でも、手放したい気持ちも分かる」


ストウルは俯いて、「私は領主だから、最後までいようと思っていたが…さすがに気が抜けた」と言う


スタンリーはストウルに、領地についての話をした


ケルナには水が湧いていたり、汲み上げているところがあり、その周りに町が出来ているのだそうだ


その水脈と水脈とを繋ぐ話や、他の領地との取引について…


ストウルは、ただただ頷いて聞いていた


「全部分かっているよ。ただ、それを私たちがやらないといけないわけじゃない」


スタンリーはそれを聞くと、黙ってしまった

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