王都
エミリアとスタンリーは即位式の3日前から王都に入り、2人でエミリアの実家にお世話になっていた
エミリアは出たときのままにされていた部屋に感動し、新しい服を降ろすことを止めた
そして懐かしい服を着て、連日街へ出掛けた
「スタンリーさまもご一緒しますか?」
そう何度も声をかけたが、スタンリーは困ったように笑うばかりで、ずっと図書室に閉じこもっていた
「そんなに珍しい本はないんだけど…」とサピアは恐縮し、ノアや王宮の同僚に頼んで本を借りたりしていた
王宮の図書館にも誘ったらしいのだが、家から出たがらないのだそうだ
普段見ない人が出入りしていると、噂になるから仕方がないとエミリアは思った
スタンリーが持ってきた正装は騎士服だけなので、カリーナと一緒でないと誤解されそうだとも思う
エミリアにはスタンリーがこの屋敷を楽しんでいるようにも見えたので、無理に話しかけることもしなかった
ただ、食事だけは2人で取った
最初は全員で食卓についたのだが…母のマグノリアは、スタンリーに一言も話しかけなかった
逆にサピアとスタンリーは気を遣って話し続け、食事がおろそかになってしまっていた
「マグノリアさまに結婚を急いだことを詫びたけど、お許しはいただけないみたいだ」
スタンリーはある日、ポツリとエミリアにこぼした
エミリアはにこりと笑って「きっかけがないだけですわ。お母さまは真っ直ぐで、少し頑固ですの」と言う
「誰かがきっかけをくれるのを、そわそわしながら待っているんですわ」
エミリアがそう言うと、スタンリーはほっとしたようで、マグノリアを見ると明るく挨拶をしてくれた
しかし2人は和解しないまま、即位式の日になった
エミリア、スタンリー、サピア、マグノリアの4人は馬車に乗って、王宮へ向かった
スタンリーは着古した騎士服、他の3人も上質だが新しくはない服を着ている
スタンリーはカリーナの護衛という形で、サピアたちは王宮仕えとその家族として出席する
この3日、スタンリーはマグノリアに会うたびに、「おはようございます」「こんにちは」など声をかけたが、マグノリアは一切答えなかった
今日もマグノリアは馬車の外を見て、斜向かいに座るスタンリーを視界に入れていない
ただ馬車を降りるときには、軽く会釈をしてから離れていった
「じゃあ後で…」とエミリアもスタンリーから離れる
そしてサピアとマグノリアとともに、前室に案内されてから、広間へと入った
広間には中央を囲むように、四角く椅子が並べられている
案内に従って、扉の両脇にある椅子がどんどん埋まっていくが、少し間を空けてみな腰掛けていく
エミリアも促されるままに、父母とはひとつ離れて座った
関係者が一通り揃うと、王兄殿下にカリーナ、付属の騎士たちが扉の向かいに腰掛ける
そして最後に王と皇太子殿下が、王兄殿下の隣に腰かけた
順繰りに呼ばれた人々が、王に頭を下げ、言祝ぎを述べていく
さらさらと流れるような言葉のあとに、ふと王は立ち上がり、真ん中に進み出ると皇太子殿下を呼んだ
「アレックス、ここに」
皇太子殿下はよたよたと歩いて、王の前に跪いた
それからすぐに立ち上がると、王の目を見据え、すぐに逸した
王は皇太子殿下に、皇太子としての意向を聞き、彼はどもりながら言葉を紡ぐ
「わ…私、アレックスは…
アレックスは…こ、この度ここで…」
緊張して震える皇太子の肩に、王は優しく手を添えた
「皇太子としての地位を、永久に捨て去ることを誓います」
そのあとは深く息を吸って、一気に全てを言い切った




