皇太子とフロリア
皇太子はそれから何度もフロリアを訪れているらしい
ダグラスから帰ってから、スタンリーはずっと屋敷にいて、時折カリーナさまに呼ばれて出掛けていく
そして「皇太子殿下が来られていたよ」と、毎回エミリアに報告するのだ
短時間勤務の使用人たちは、「皇太子といえば…」としきりに噂をしている
どうやら皇太子を招いた夜会での手伝いに応募したらしく…
「思いの外スマートじゃなかった」などと言うので、エミリアも何度か注意をした
けれどそれでも止まないので困っていたらスタンリーが
「そういえば、カリーナさまのお屋敷で使用人が幾人かいなくなっていてね。不敬罪で引かれたのかもしれないね」
と、にこやかに告げ、誰も皇太子の話をしなくなった
そして実際に、使用人たちの幾人かは間引かれた
間引く際にエミリアはスタンリーの部屋へと呼ばれ、相談も受けていた
「エミリアも気に入らなかったら、辞めさせてもいいんだよ」
と、何でもないように言われたが、エミリアは微笑むだけで答えないでおいた
スタンリーは執務机の前に座り、対面したエミリアは立ってそれを眺めている
「それにしても…あと半年で即位なのでしょう? 殿下が、こんなにもフロリアに来ていていいものでしょうか?」
エミリアがそう尋ねると、スタンリーは何も言わないで静かに自分の口元に指を当てた
エミリアは「あっ…」と、思わず口元を隠した
「えぇと…スタンリーさまは、最近良くお屋敷にいて下さいますね?」
それから他の質問をすると、スタンリーは「役目はほとんど終えたからね」と言って急に立ち上がった
そして話は終わり、という風にエミリアの後ろにある扉へ向かった
「あ、エミリアはこの屋敷が気に入っているの?」
部屋を出る直前に、思い出したようにスタンリーは聞いた
「どちらでもありません」
振り返ってエミリアが答えると、スタンリーは何も言わずに頷いて部屋をあとにした




