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ファントム  作者: かな
本章
41/56

思い出話

皇太子はこういった場に慣れていないためか、きょろきょろと辺りを見回し、挨拶を受けながら少しずつ後ろに下がったりしていた


皇太子の横には黒ずくめの護衛が寄り添い、後ろに下がろうとする彼を支えたり、挨拶を受ける間に何かを耳打ちしたりしていた


「ルーベンお兄さまの方が、もっと堂々としてらしてよ」


その様子を見ながら、パトリシアが小声で呟いた


エミリアもパトリシアと挨拶に向かったが、もごもごと礼らしきものを言われるばかりだった


パトリシアは絵本に出てくるような王子さまを想像していたのだろう


あからさまにがっかりとした様子で、不満気だった


「パトリシアさまは本当にお好きですね」とエミリアが言うと、「だって本当に格好いいんです」と強く肯定された


そして「ねぇスタンリーさま」と、スタンリーに同意を求める


スタンリーは弓なりの綺麗な笑みを見せ、肯定も否定もしなかった


「さて、私たちは踊りに行こうと思いますが…パトリシアさまはどうなさいますか?」


スタンリーがパトリシアに問いかけると、パトリシアはあごに手をあてて、小首を傾げた


「おふたりが踊るのは見てみたいですけど…そうすると、私1人になってしまいますから…」


「パトリシアさまと踊るというのは?」


エミリアは提案したが、パトリシアは首を振る


「だめですわ。ファーストダンスは、お父さまかルーベンお兄さまと決めていますもの」


そんなことを言っていると、カリーナがこちらへ近付いてきた


「パトリシア、そろそろ戻ってはどう?」


パトリシアはカリーナに目をやり、「お母さま」と言って、少し迷ってから続けた


「実は…スタンリーさまとエミリアさまの踊るのを見たいんです。少しだけ…それが終わったら戻りますから、一緒にいて下さい」


カリーナは少し躊躇うように間を置いてから、「1曲だけですよ」と承諾した


「ありがとうございます!」


パトリシアは飛び跳ねるようにお礼を言うと、エミリアとスタンリーを嬉しそうに見た


「ありがとうございます、カリーナさま。おかげで、特訓の成果を見せられます」


スタンリーは笑顔で、うやうやしくお辞儀をした


2人とも久しぶりのパーティーだったので、わざわざ先生を呼んで練習したのだった


それからエミリアに腕を差し出し、ダンスホールの設けられている屋敷へ歩き出す


カリーナとパトリシアは後に続きながら、小声で話したり、笑い合ったりしていた


「エミリアさま、そういえばノアの迷路園は気に入りまして?」


ふいにパトリシアから話を振られ、エミリアは少しだけ振り返って「ええ、とても」と答えた


「スタンリーさまはご存知ですか?」


エミリアが尋ねると、「一度ノアさまと追いかけっこをしたことがあります」とスタンリーは答えた


「追いかけっこ!」


パトリシアは繰り返してから、おかしそうに笑った


カリーナがたしなめるが、パトリシアは気にすることなく続けた


「だってお母さま、ノアがやんちゃなのは知っていますけど…


庭師とならともかく、スタンリーさまとだなんて意外ですもの」


パトリシアは笑いながら、どういう経緯だったのかとスタンリーに問う


スタンリーは思い出すように上を見上げてから、話し始めた


「あれは2年ほど前ですね。叔母であるレジーナさまとともに、このお屋敷に参ったのです」


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