パトリシアと夜会
「初めまして、エミリアさま」
東屋に入ったエミリアに、パトリシアは声をかけた
赤みがかった金の巻き毛を両脇で結び、形良く膨らんだドレス姿は、まるでお人形みたいだとエミリアは思った
エミリアは深々と礼をして、「初めまして」と応える
「お会いできて光栄です、パトリシアさま」
膨らみの少ないスカートを持ち上げて、もう少しちゃんとした格好をしてくれば良かったかもしれないと後悔する
そういえば、トカラでマリアに会ったときも同じように後悔していたとエミリアは思い出した
パトリシアは「こちらこそ、嬉しいです」とにっこりと微笑む
ノアから聞いた話では、まだ13歳のはずだが、彼女には不思議と大人びた気品があった
ノアとエミリアは、パトリシアに促されて席に着くと、彼女がお茶を淹れるのを眺めた
「お客様は自らもてなすのが、我が家流なんです」と言って、まるで踊るように茶器を扱った
パトリシアが机にあったバスケットを開くと、クッキーや焼き菓子が整然と詰められている
3人はそれぞれ好きな菓子を取り、色々な話をした
皇太子殿下がダグラスへ来られたときの話では、パトリシアもノアも「ルーベンお兄さま」の素敵さを語り、彼がとても慕われていることが分かった
パトリシアは「この間は行けなくて残念でしたけど…」と、トカラのことも話した
パトリシアはノアと一緒にトカラへ行くこともあり、マリアに憧れているのだと言った
「いつか、海の向こうにあるクラリスにも行きたいですわ」
と、マリアの故郷への憧れも口にした
そこは社交界の流行が始まる場所で、とても洗練された土地だと、パトリシアは語った
そして社交界への憧れも口にし、
「エミリアさま、会ったばかりで不躾ですが、明後日の夜会、少しだけ一緒に出て下さいませんか?」と、お願いをした
エミリアは、少しとだけなら…と了承した
パトリシアと会って2日、エミリアとスタンリーはカリーナの温室で、皇太子の挨拶を待っていた
日の暮れた温室には、カンテラが吊るされ、幻想的な風景を魅せている
みな、それぞれに固まって談笑する中、エミリアを挟んでパトリシアとスタンリー立っていた
パトリシアは、今日は髪を高い位置で結び、横に流している
「今日は特別。ご挨拶と、雰囲気だけ楽しみますわ」
ピンク色のキラキラした仮面を付けて、パトリシアはエミリアにそう言った
エミリアはスタンリーとともに挨拶に伺ったところ、カリーナにパトリシアを預けられたのだった
そして一通り挨拶を終えたカリーナは今、フロリアの領主ハイドンと皇太子を呼びに下がっていた
「皇太子殿下はどんな方かしら?」
パトリシアが呟くと、どこからともなく拍手が聞こえ始め、2人も手を叩いた
パトリシアは凄く嬉しそうに、拍手の鳴る先に目をやった
カリーナとハイドンは皇太子を真ん中にし、拍手を止めるように手をあげた
皇太子は、トカラで王弟殿下が着ておられた服を白くしたような格好をしている
まだ14の、あどけない丸い目と、すでに恰幅の良い体格で、緊張したように斜め上を見ていた
3人は仮面を付けず、カリーナとハイドンは笑顔で皇太子を紹介した
ハイドンは皇太子の正式な拝命が、あと半年であることにも触れ、そのときは街全体がどこよりも華やかになると請け合った
皇太子はどもりながらも、
「温室を見てみたい要望を叶えてくださり、感謝します。
いつもは母上も一緒なのですが、方角が合わず、残念がっておりました。
温室を見るのみならず、こうして夜会を開催して下さったこと、フロリアの皆さまと会えたこと、とても嬉しく思います」と述べた
それから杯が配られ、ハイドンの「皇太子殿下に乾杯」という合図で一斉に杯が捧げられた




