招待
温室へ行く機会は、思いの外はやく訪れた
ノアが戻って数カ月、エミリアないしカリーナヒル全ての住人に案内が届けられた
「サミュエル、凄いわよ。5日間ですって。それに…お付きのみだけど、使用人もですって
正式な案内は後日…でもきっと、みんな今すぐ準備するでしょうね!」
エミリアが興奮して手紙を持ってきたサミュエルに話しかけると、サミュエルは苦笑した
「皇太子殿下に会えるかもしれないわよ、サミュエル」
エミリアは言うが、サミュエルは首を振った
「私はもう年でございますから…フローレンスやベリルを連れて行ってください」
エミリアは「それはもちろんだけど…」と言ってから
「スタンリーさまの、一番のお付きはサミュエルでしょ?」と聞いた
サミュエルは嬉しそうに笑って、「でしたらロドニーを」と提案した
「ロドニーなら、あとでご馳走を全て再現してくれます」
エミリアは「たしかに」と頷く
「そのあと、どこか1日を使用人たちの休日にしましょう。ロドニーやベリルたちには申し訳ないけど、調理や給餌をしてもらって…
そうしたら、みんな招待されたのと同じだわ。温室はないけれど…」
エミリアは残念そうに言って、サミュエルは笑顔で返す
「充分です。ここには我々だけの庭も、菜園もありますから」
それからさらにしばらく経って、正式な案内が届けられた
“中3日が皇太子の出られる正式な夜会、前後2日は、昼に催される使用人がメインのカジュアルなもの
夜会では仮面をつけて、どこかに花をあしらうこと”
「花をあしらうなんて、とてもフロリアらしいわ」
フローラが部屋に届けてくれた案内を見て、エミリアは呟く
そしてフローラに、ドレスを出してくれるように頼んだ
「紺色のドレスを出してほしいわ」
それは実家から1枚だけ持ってきた、正式なドレスだった
「赤が映えるわ」と呟いて、フローラに見せながら、小さな薔薇の刺繍をしたいと言った
フローラはドレスを受け取ろうとしたが、エミリアはじっとドレスを見つめている
「まさか、ご自分で刺繍なさるので?」
フローラが尋ねると、エミリアはきょとんとした顔でフローラを見上げた
「その…仮面も作られるのですから、一緒にお任せするのかと…」
「あ…そうね…」エミリアは言って、「でも…どこに頼めばいいか、分からないわ。
スタンリーさまが贔屓にされているお店はどこかしら?」
フローラは少し躊躇ってから、実は昔の同級生が営む洋品店があると切り出した
「もし、よろしければ奥様にもお声がけをと言われたので…」
エミリアは少し驚いたが、こういうことは良くあるのかもしれないとも思った
「そうね…スタンリーさまとも相談して…
そうね、仮面かハンカチか…そういったものを頼むと思うわ」
フローラは恐縮しながら、「ありがとうございます」と頭を下げる
そして後にスタンリーとの相談の結果、仮面を誂えてもらうことに決まった




