ノア帰宅
夕方、馬車の音が聞こえたので、エミリアはノアが帰ってきたのかと玄関まで見に行った
自室からゆっくりと歩いていくと、ホールにはすでにサミュエルとスタンリーが立っている
そして程なくしてノアが、ノア付きの使用人とともに屋敷へ入ってきた
「おかえりなさいませ」とサミュエルが言うと、ノアは「ただいま」と返してからスタンリーを見る
「私の旦那さまの、スタンリーさまです」
エミリアが紹介すると、「お邪魔しています」とノアは丁寧に頭を下げた
それからまたノアはスタンリーの顔をまじまじと見て、「スタンリーさまは双子ですか?」と問うた
スタンリーは答えに詰まり、サミュエルを見遣る
「あっ!」とサミュエルは声をあげ、「それよりもカリーナさまが明日お戻りだそうですよ」と言った
ノアはパッと顔を明るくして、「本当?」と嬉しそうに言った
「お姉さまも、もう知ってるのかな?」
「お姉さま?」
エミリアが聞くと、ノアは頷いた
「本当は、僕とお姉さまでお留守番のはずで…でも、お姉さまはお友達の家に泊まる約束をしちゃったんです」
そしてエミリアに、兄弟はいるかと尋ねた
エミリアは首を振る
ノアはスタンリーにも、もう一度聞き「兄弟ならいますよ」とスタンリーは答えた
「ノアさまの兄弟は、おいくつですか?」
ノアは兄がもうすぐ14で姉が13だと答えた
「お兄さまは皇太子殿下と同い年なんです。だからお一人だけ、王都にいる旦那さまと一緒にいらっしゃるんです」
エミリアはとりあえず頷きながら、「お腹は空いていますか? おやつにしますか?」と問いかけた
エミリアは、食べると答えたノアとともに食堂へ向かう
ノアは玄関を振り返りながら歩き、食堂の前までくると「スタンリーさまは双子がお嫌いなのかも…」と呟いた
「どうして?」とエミリアが聞くと、ノアはエミリアの袖を軽く引っ張って耳打ちした
「王妃さまも双子がお嫌いなんです」
ノアは、王妃さまの話をブライトから聞いたと言う
兄のノアに代わりダグラスへ行く予定が、王妃並びに皇太子殿下が見えると聞いて引き返したのだと
その話をしたときに、「王妃さまは双子がお嫌い」だと言ったらしい
エミリアは「そんなことはない」と言いたかったが、言えなかった
「スタンリーさまは違いますよ。ブライトさまのお家に行って、お茶したこともあるんですから」
エミリアがそう言うと、ノアは幾分顔を明るくさせた
2人は軽くお茶をして、また夕食の時間にと言って別れた
「来年の今ごろはきっと、どの街も華やかになるでしょうね
皇太子殿下の成人と、正式な皇太子拝命があるんですから」
エミリアが言うと「そうだね」とスタンリーは頷いた
エミリア、スタンリー、ノアで静かに夕食を摂っていたのだが、あまりに静かすぎるのでエミリアが話題を出したのだ
「お兄さまと同い年と言ってましたけど…お兄さまとお会いしたことは?」
エミリアが隣に座るノアに尋ねると、ノアは噛んでいた食べ物を飲み込んでから答える
「一度だけ、フロリアに来られたときに見かけました。カリーナさまに似た、美しい人です。
お兄さまはいずれ、皇太子殿下の一番側近になるからと、懸命に勉強をしておられるそうです」
エミリアは、にこやかに頷く
「皇太子殿下はどんな方なんでしょう? スタンリーさまは、お会いしたことがありますか?」
スタンリーは頷いた
「純朴な方だよ。都会よりも長閑な景色が好きで…羊飼いがお好きだとか…
カリーナさまの温室に、ぜひ一度行きたいものだと仰っておられたよ」
「カリーナさまの温室は、とても素晴らしいですもの。まるで違う国みたいで…」
エミリアは、鮮やかで高く聳える緑を思い返しながら言った
「私も…機会があればまた訪れてみたいですわ」
「じゃあそのときは、お庭の他のところも案内します。
温室の近くには、お姉さまの好きなバラ園や、僕の好きな迷路園もあるんです」
ノアはそう請け負って、「泊めて下さってありがとうございました」とお礼を言った
エミリアはノアの礼儀正しさに胸を打たれながら、「私もとても楽しかったですわ」と微笑んだ




