ノア
翌日お昼を食べていると、スタンリーがしばらく忙しくなると言った
エミリアはそのときは曖昧に頷いたが、昼過ぎには玄関に馬車が停まった
「急なことでごめんなさい!」
まだ食堂でお茶を飲んでいたエミリアとスタンリーは、サミュエルとともに入ってきたカリーナに目を向けた
カリーナは今から出かけるような、つばの広い帽子と同じ色のドレスを身に着けていた
カリーナの隣で手を繋いでいるのは、以前と同じセーラー襟を着たノアだった
スタンリーは何も言わず、カリーナの前に進み出ると深々とお辞儀をした
「行きましょうか」
「は?」
エミリアは思わず声をあげて、スタンリーを見上げた
エミリアは食堂の入り口近くにいたため、声は届いていたはずだ
けれど詳しい説明はなく、「しばらくよろしく頼む」と、ノアを残して行ってしまった
思わずサミュエルを見ると、サミュエルも困ったように笑っていた
「翌日には戻るそうですから…」
エミリアはその言葉にようやく、学校が休みの間だけかと安心した
「とりあえずお客様の部屋に…」
エミリアが言いかけると、ノアは何か言いたげに服を掴んだ
「……」
けれど何も言わないので、エミリアは少し腰を落とし目線を合わせた
「お腹は空いてますか?」と尋ねると首を振り、「何か欲しいものは?」と聞いても首を振る
「明日にはお迎えが来るそうですから…」
そう言うと、ノアはようやく頷いて手を離した
エミリアはサミュエルに、客間に案内するよう指示を出す
そして今度は「案内します」と言ったサミュエルの服を掴んだため、サミュエルは手を繋いでノアを案内していった
ノアのお付きと御者が、2階の客間に荷物を運び、彼らはロドニーやサミュエルと何かやり取りをしていた
どうやら厨房や諸々使いたいようで、エミリアは希望する全てに許可を出した
使用人たちが部屋を整えている間、ロドニーはさっそくノアを菜園に誘い、夕飯にはノアが好きなキャロットケーキが提供された
そしてさらに翌日、荷物の多さに嫌な予感はしたが、昼を過ぎてもカリーナもスタンリーも帰って来なかった
食堂前のテラスで、ノアと庭を眺めながらエミリアは思わずため息を吐いた
近くには、フローレンスが給餌として待機している
「ごめんなさい…」とノアは謝る
「いつもなら、僕はトカラでお留守番なのに…」
エミリアはノアを見て、「さっきのは、旦那さまに」と言った
それから「トカラ?」と尋ねる
ノアは、こくりと頷いた
「カリーナさまは王都に旦那さまと、息子のルーベンお兄さまがいて、たまに会いに行かれるんです
僕も…だからついでに、トカラのお母さまのところに…」
なるほど、とエミリアは頷く
「お母さまは、本当は僕に会いたくないのでしょうか…? 僕だけが遠くにいますし…」
エミリアは慌てて、「それは風習だから」と口を挟んだ
そのとき、ふとロータリーから馬車の音がして、思わず2人はそちらを見た
給餌をしていたフローレンスは、すぐに駆け出し庭から玄関を確かめに行った
そしてすぐに戻ってくると、「スタンリーさまではありません」と首を振った




