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ファントム  作者: かな
本章
31/56

「双子を見るのは初めて?」


マリアがにこにこと笑いかけながら、前に立つブランの肩に手を乗せた


エミリアたちがいるのは石造りの広い建物で、高い位置から陽光が指していた


古い建物のせいか、足元は草が生い茂り、どこからともなく風が吹いている


「可愛いでしょう? ノアもブランも、わたしのとっても大事な息子なの」


「ブラン!」


エミリアの背後から声がして、金髪の男の子が脇を駆け抜ける


「ノア!」


ブランはマリアの手を払って、嬉しそうにノアに駆け寄った


白い身頃に青いセーラー襟の付いた服を着たノアと、黒地に金の服を着たブラン


2人は手を繋いだまま駆けていった


「本当は一緒に育てたいのよ? どうして双子を別々にするのかしら?」


マリアはため息を吐き、エミリアは神話の話をした


「えぇ、えぇ、分かっているわ」マリアは頷いて、でもただのおとぎ話だと言う


「そろそろ見直されてもいいと思うのよねぇ…他の国では、双子だからってどうということもないのだし…」


エミリアは何か言いかけ、風に押されて言葉を飲み込んだ


ノアとブランがエミリアもマリアもすり抜けて、笑いながら空に昇っていった


それはとても美しい光景なのに、エミリアはぞっとして目を覚ました


“大丈夫、まだあの子たちは死んでいない”


エミリアはベッドに起き上がり、“まだ?”と思ったことに疑問を感じた


そして“あの子たちは”と思ったことにも…


まだまだ昏い夜の雰囲気に怖くなって、エミリアは枕元のランプを点け、楽しいことを思い出そうとした


あのあとトカラでは、トールとマリアから正式にお茶に招待して貰ったり、ヨハネの案内で街に出たりした


お茶会では子どもたちも揃って参加し、ブランの妹であるマリー、弟のニールも紹介された


マリーは金髪、ニールは黒髪で、小さなマリアとトールのようでとても可愛らしかった


街を見に行ったときには、ヨハネだけでなく、ベリルやフローレンスも一緒に回った


ちょうどスタンリーは、他に仕事があったのだ


エミリアのお付きである2人は、「エミリアさまはきっとこれがお好きです!」と、お互いに色々なものを勧めてきた


特に強く勧められたレモンチーズタルトは、ここでしか食べられないものらしく、そしてとても美味しかった


結局トカラには1週間ほど滞在し、途中ダグラスで1泊してからフロリアに戻ったのだ


エミリアはギュッと両腕を掴み、目を瞑る


双子…双子…ノアとブランのことを考えると、何故か気が重くなる


「かわいそうに…」と言う、誰かの声が聞こえる気がする


エミリアは頭を振って、また布団に潜りこんだ


ランプの灯りは消す気になれなくて、目を閉じていると、そのまま朝になった


「眠れませんでしたか?」


朝になっても点いていたランプを見て、フローラは尋ねた


「怖い夢を見たの…」


エミリアは、まだ少し寝ぼけながら答えた


フローラはランプを消して、エミリアの額に手を当てた


熱はないし、風邪でもないのだが、そうやって優しく触れられると安心した


「火の出ないランプでも熱くはなりますから気を付けて下さい」


「はい…」


「もしあまりに怖かったら、フローラをお呼び下さい」


フローラはそう言ったが、エミリアはもう大人だし、母ほども年の離れたフローラに無理をさせるのも忍びない


「ありがとう」と言って気持ちだけ受け取っておいた



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