夢
「双子を見るのは初めて?」
マリアがにこにこと笑いかけながら、前に立つブランの肩に手を乗せた
エミリアたちがいるのは石造りの広い建物で、高い位置から陽光が指していた
古い建物のせいか、足元は草が生い茂り、どこからともなく風が吹いている
「可愛いでしょう? ノアもブランも、私のとっても大事な息子なの」
「ブラン!」
エミリアの背後から声がして、金髪の男の子が脇を駆け抜ける
「ノア!」
ブランはマリアの手を払って、嬉しそうにノアに駆け寄った
白い身頃に青いセーラー襟の付いた服を着たノアと、黒地に金の服を着たブラン
2人は手を繋いだまま駆けていった
「本当は一緒に育てたいのよ? どうして双子を別々にするのかしら?」
マリアはため息を吐き、エミリアは神話の話をした
「えぇ、えぇ、分かっているわ」マリアは頷いて、でもただのおとぎ話だと言う
「そろそろ見直されてもいいと思うのよねぇ…他の国では、双子だからってどうということもないのだし…」
エミリアは何か言いかけ、風に押されて言葉を飲み込んだ
ノアとブランがエミリアもマリアもすり抜けて、笑いながら空に昇っていった
それはとても美しい光景なのに、エミリアはぞっとして目を覚ました
“大丈夫、まだあの子たちは死んでいない”
エミリアはベッドに起き上がり、“まだ?”と思ったことに疑問を感じた
そして“あの子たちは”と思ったことにも…
まだまだ昏い夜の雰囲気に怖くなって、エミリアは枕元のランプを点け、楽しいことを思い出そうとした
あのあとトカラでは、トールとマリアから正式にお茶に招待して貰ったり、ヨハネの案内で街に出たりした
お茶会では子どもたちも揃って参加し、ブランの妹であるマリー、弟のニールも紹介された
マリーは金髪、ニールは黒髪で、小さなマリアとトールのようでとても可愛らしかった
街を見に行ったときには、ヨハネだけでなく、ベリルやフローレンスも一緒に回った
ちょうどスタンリーは、他に仕事があったのだ
エミリアのお付きである2人は、「エミリアさまはきっとこれがお好きです!」と、お互いに色々なものを勧めてきた
特に強く勧められたレモンチーズタルトは、ここでしか食べられないものらしく、そしてとても美味しかった
結局トカラには1週間ほど滞在し、途中ダグラスで1泊してからフロリアに戻ったのだ
エミリアはギュッと両腕を掴み、目を瞑る
双子…双子…ノアとブランのことを考えると、何故か気が重くなる
「かわいそうに…」と言う、誰かの声が聞こえる気がする
エミリアは頭を振って、また布団に潜りこんだ
ランプの灯りは消す気になれなくて、目を閉じていると、そのまま朝になった
「眠れませんでしたか?」
朝になっても点いていたランプを見て、フローラは尋ねた
「怖い夢を見たの…」
エミリアは、まだ少し寝ぼけながら答えた
フローラはランプを消して、エミリアの額に手を当てた
熱はないし、風邪でもないのだが、そうやって優しく触れられると安心した
「火の出ないランプでも熱くはなりますから気を付けて下さい」
「はい…」
「もしあまりに怖かったら、フローラをお呼び下さい」
フローラはそう言ったが、エミリアはもう大人だし、母ほども年の離れたフローラに無理をさせるのも忍びない
「ありがとう」と言って気持ちだけ受け取っておいた




