トカラ
トカラの街並みは、まるで塩で出来たような真っ白い建物が真っ白な岩に張り付いて出来ていた
フロリアを出て2日め、街の入り口から海沿いに連なる細い道を進みながら、エミリアは厳しい街並みに驚いていた
フローレンスは海に目を向けてはしゃいでいるが、エミリアは落ちそうで気が気ではなかった
こんなところで暮らせるのかと思っていると、ふいに目の前が拓けて平地が現れた
道や家は白いが緑も土もあり、道沿いにはレモンの木がちょうどたわわに実っている
気付けば海は遠く、ただ白い建物とレモンばかりが同じように続いていた
「迷子になりそう…」
思わずエミリアは零したが、スタンリーは「ヨハネがいるから大丈夫だ」と言う
「ヨハネはここの出身だから…」
ふと、スタンリーは軒先にいる人たちを指差した
エミリアが目を向けると、ヨハネと同じようなくたびれた服をみな着ていた
みすぼらしいというわけではなく、良く揉みこまれた服というのか何というのか…
「塩が強いから、衣服が痛みやすいんだよ。強い糸を揉んだりして、柔らかくしてから使うからああなるみたいだ」
エミリアは、なるほどと頷く
それからまたスタンリーは海を囲むように立つ山を指差した
「王弟殿下がおられるのはあそこ」
エミリアの目にはただ白い山にしか見えないが、その山を守るように家が並んでいるようだった
馬車は同じ街並みを繰り返すように進み、やがて小さな四角い家の前で止まった
吹き抜けの廊下を、エミリアとスタンリーは進んでいた
ヨハネ、フローレンス、ベリルは馬車を止めた小さな家で待機している
廊下はとても明るく、高い位置に窓と細い廊下が続いていた
廊下の先には黒い燕尾服を着た使用人がおり、うやうやしくこちらに頭を下げた
白い髪と髭で年齢は良く分からないが、しゃんとした姿勢に年寄りではないと思った
スタンリーは通行証なのか、何か紙を手渡し確認した使用人が扉の隙間を叩いた
扉は驚くほど分厚く柱のようで、ゆっくりと横に動いて人ひとり分の隙間を作った
「どうぞ」
使用人は紙を返し、エミリアとスタンリーはそそくさと扉を抜けた
カラカラと音がするので振り返ると、仕掛けが動いて扉がしまるところだった
「帰りは別のところから出るよ」
扉が閉まったせいで廊下は急に薄暗く、遠く出口に差す光を目指して2人は足を速めた
開口部を抜けると、急に視界が開けて外に出た
眩しさに目が慣れると、周りは白い壁で高い位置に無数の穴が空いていた
エミリアは怖くなって、思わずスタンリーの袖口をギュッと握った
「こっちだよ」
スタンリーはエミリアを庇うようにしながら、いくつもある開口部のひとつに入った




