表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ファントム  作者: かな
序章
2/23

ファントム

あの赤い山には、ファントムがいる


いつからか学校で、そんな話がささやかれるようになった


今は誰もいないお屋敷…誰もいない町並み…


山肌にくっつくように建つそれらは、遠くからみると可愛いミニチュアみたいで…


度胸だめしに、クラスの何人もが探検しに行ったと聞いた


「そこで見たんだよ…誰もいないはずの教会から聞こえる音楽…お屋敷の窓を走る影…唸り声…」


教室でどこからともなく聞こえてくる話に、エミリアはうんざりしてため息を吐いた


背中まであるとび色の髪と薄茶の瞳を持つ彼女は、13歳


季節は10月。彼女はロイヤルアカデミーに入学して2ヶ月ほどの1年生で、紺色のダブルボタンの制服を着ていた


「そろそろ学校から禁止が出るわよ」


そんなエミリアに話しかけてきたのは、同じく1年のニナだ


肩で揃えた金色の髪に青い瞳、丸い大きな眼鏡、そしていつも抱えている本が、彼女をより真面目に冷たく見せている


「ニナは嫌いそう」


ポツリと言ったエミリアに「大嫌いよ」と、ニナは断言した


「大体あの山は…」と、ニナが言いかけたところで鐘が鳴り、真面目な彼女は口を閉ざした


エミリアは、山…どころか、あのお屋敷は…と思い、考えないように頭を振った


お昼になると食堂で、ニナはいつもより饒舌に喋った


「音楽はどうせ古い楽器が軋んで鳴ったのを誇張してるのよ。人影は屋敷を購入したくて見てた人かもしれないし、うめき声は有名じゃない」


「有名って?」


パンを千切りながら、エミリアが聞く


ニナは「竜の呼吸音」と言って、パンを2つに割る


「創世記にあるでしょ? 赤い竜に乗り、赤い山の赤い土に降り立った」


「あ、あそこなの? どこの山も赤いから…」


エミリアは言いながら、ニナが竜と言ったことに違和感も持っていた


ニナはパンを齧って飲み込むと、「教科書に書いてあった」と何でもないように言った


エミリアは信じられないといった目で、ニナを見つめた


「何? 教科書だって本でしょ? 読んだら悪いの?」


「ううん」


反射的にエミリアは首を振った


控えめに言ってニナは、本の虫だ。創世記も教科書も、ニナならきっと全部読んでいるだろう


エミリアにとって創世記は絵本になっているものしか知らないし、教科書を読むなんて信じられない


ただ2人とも、ファントムに浮かれるクラスメイトにうんざりしてるだけだ


「もっと寒くなったら…ファントムも落ち着くよね?」


「そうね、さっさと冬になればいいんだわ」


ニナは冷たく言って、スープを啜った


もしかしたらクラスで度胸だめしをしていないのは、私たちだけかもしれない


エミリアは、そんなことをぼんやりと思った

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ