お茶会
うららかな昼下がり、エミリアは天井の高い温室でお茶をご馳走になっていた
ここは丘の一番上にある、王兄殿下のお屋敷で、目の前には王兄妃のカリーナがにこやかに微笑んでいる
エミリアは一人で、実はまだスタンリーとも会えていない
朝食後のお茶を楽しんでいたところに、サミュエルから招待状が渡され、その後も会わないままにここにいる
王兄妃は嬉しげに通路沿いの植物を紹介してくれ、周りにはヤシやシダ、見たこともないカラフルな花々が咲き乱れていた
「ご挨拶が遅れ、申し訳ありません」と頭を下げたエミリアに、カリーナは静かに首を振った
そして、おかしげに口元を隠して笑う
「あのね、ここは今カリーナヒルって呼ばれてるけど…別に私たちの土地じゃないのよ?」
エミリアが驚いていると、さらにおかしげに
「何十年も避暑に来てるだけなの。元々は殿下の叔母さまの領地で、叔父さまの方が婿入りに来られたのよ」と言う
そして元々ここはフローラヒルと呼ばれ、芝生から白い花が咲き乱れる場所だったのだと言う
「フローラという名前はこの街に多いから、気を使ってみんなカリーナヒルって呼んでくれてるの」
エミリアはそもそもカリーナヒルという名前すら知らなかったが、興味のあるふりをして頷く
「殿下でなく、カリーナさまのお名前というのが素敵ですわ。殿下のご寵愛をみなご存知なのですね」
エミリアがそう言うと、カリーナはピクリとお茶を飲む手を止めて、カチャンと受け皿に戻した
エミリアがビクリと少し肩を揺らすと、カリーナは
「あぁ、そう…そうね…あなた、殿下と私の馴れ初めをどう聞いてるのかしら?」と尋ねた
その姿はうわの空で、「ほら小説もたくさん出回っているから気になるのよ」と慌たように付け足した
エミリアは当時まだ婚約者のおられなかった皇太子殿下に、教皇が自分の娘を推挙したこと
しかし皇太子殿下は密かに想いを寄せる幼馴染みがいて、密かではあったが、公認のような仲であったこと
殿下はその愛を取ったために、弟が皇太子となり教皇の娘を娶ったこと
当時は教皇の力が強く、教皇の娘を退けてまで皇太子妃になることは出来なかったのだと
そんな風なことを説明した
カリーナは、にこやかにふんふんと聞いて、「あぁそうね。些細なことと思われるかもしれないけど、教皇さまの方が上手だったのよ」と笑った
「でも、さすがに陛下も思うところがあったのかしら? 今は任期が決まっていて交代制ね」
カリーナは自らお茶をカップに入れながら、
「王も絶対ではないけど…民衆の声を議会に反映して、御神託に頼りきらなければ、きっと大丈夫よね」
と、誰にともない様子で呟いた
それからスタンリーのことも聞かれたが、エミリアは「仕事がお忙しいようで…」と濁すことしか出来ない
「あの子は恥ずかしがりやだけど、いい子だから」
カリーナは、エミリアがまだきちんと会えていないスタンリーのことも良く知っているようだった
エミリアは、カリーナから見たスタンリーの話を興味深く聞いた
お茶会が終わり、お礼を言って退出するエミリアをカリーナは温室の前まで見送り使用人に預ける
カリーナは「申し訳ないけど、ここで…」と、黒い帽子を目深に被った男性とまた温室に戻って行った